表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
32/131

第32話 村唯一の生き残り

日曜だけ10時台投稿という方針でやっております。

 ミーシャによって川へと逃がされたズークは、結構な距離を流された。

 途中までは意識を保てていたが、次第に体力の限界が来て意識を失う。次にズークが目覚めた時には、見知らぬ民家の中だった。

 気絶して流された影響から、ズークの記憶は少し混濁していた。何故自分がこんな所にあるのか、今まで何をしていたのか。

 それらを詳しく思い出す事が出来ない。寝かされていたベッドから体を起こすと、近くに大人の女性が椅子に座っていた。


「気が付いた? 大丈夫?」


「えっと、ここは?」


「私の家だよ。あ、私はリアン。よろしくね」


 リアンと名乗った女性は、農作業でもするかの様な衣服を着ていた。緑色の髪をショートカットにし、動き易そうにしていた。

 村娘と言うには、やや容姿が垢抜けている。笑顔を浮かべてはいても、目つきは少しキツめだ。

 可愛いや美人よりも、カッコイイと言われるタイプだろう。中性的な顔立ちをしているが、体付きで女性だと分かる。

 鳶色の目は宝石の様に美しく、同時に意思の強さがあった。そんな彼女が座っていた木製の椅子よりも奥、装飾がなされた木製のドアが開き今度は若い男性が現れた。


「お、なんだ起きていたのかボウズ」


「おじさんは?」


「まだそんな歳じゃないんだがな? まあ良い、俺はマリクだ」


 自分はズークだと名乗り返す。マリクは2メートル近いガッシリとした体躯の男だ。

 パーティでなら、盾役が似合いそうな厚い胸板を持っている。鼻下の短い髭と厳つい顔立ちが、ズークに年齢を誤解させたのだろう。

 彼はまだ23歳と、十分若い男性だ。無駄に貫禄があるので、実年齢より上に見られるのはいつもの事である。

 そんなマリクとリアンに川岸で倒れていた事を告げられ、何があったのかを問われた。

 自分がレグレット村に暮らす子供である事を告げると同時に、何が起きたのかを思い出そうとするズーク。

 そして脳裏に浮かぶ、血飛沫と村の惨劇、憧れの女性が死ぬ光景。


「あああああああああああ!?」


「おいどうした!?」


「落ち着いて!」


 何もかもを失って、帰るべき村は崩壊済み。恐らくは自分しか生き残っていない不安や悲しみ、そして怒りと憎しみが幼いズークの心を抉る。

 まだ6歳の少年が抱えるには、あまりにも厳しい現実。何があったのかを知らない2人の大人は、ただ困惑しながら宥めるしか出来ない。

 幼くして大きなトラウマを植え付けられたズークは、ぐちゃぐちゃになった感情に対応しきれない。

 散々騒いだ後に、ズークはまた気を失ってしまった。それから数時間後になって、再び目を覚ましたズークによって事件の全容が説明された。

 話が進むに連れて、マリクとリアンの表情が険しいものになっていく。


「その見た目とサイズに残虐さ、間違いない。そいつぁヘルハウンドだぞ!?」


「災害級のモンスターじゃないの!? いつの間にローン王国に!?」


「大変だ、今すぐ王都に連絡だ!」


 モンスターの知識なんて殆どないズークには、2人が何を話しているのか分からない。

 部屋を出て行ったマリクに変わり、部屋に残ったリアンが詳しくズークに説明する。

 モンスターの多くには、どのランクのパーティなら単独で勝てるかを基準に強さが決められている。


 例えばただのオークならDランクで、オークキングならBだ。そしてそれより上にAがあり、その更に上がSである。

 また最高位のSランクの中でも、危険度によって災害級と天災級の区分があった。

 永い時を生きたドラゴン等が天災級で、今回レグレット村を襲ったのはSランクの災害級モンスター、名前をヘルハウンド。


「単独で行動する1匹狼で、あまり巣から離れないのだけど稀に移動するの」


「そんなのがローン王国に居たの?」


「分からないわ。移動する時は、かなり長い距離を移動する習性があるから」


 ヘルハウンドの移動は非常に厄介で、タイミングも進路も予測が不可能だ。

 個体による気まぐれとしか言うほかなく、どこに腰を下ろすかもその時次第。

 大陸の端から端まで移動した記録もあれば、何がしたかったのかという程度の移動もあった。


 その為、ヘルハウンドの移動進路ではレグレット村の様な悲劇が起きる。ズークだけとは言え、生き残れたのは非常に珍しいケースだ。

 もし行商人が戻って来ていなければ、冒険者達が戦おうとしなければ。ズークは今頃こうして生きてはいなかっただろう。

 その幸運と悲劇が良く理解出来るだけに、リアンはズークを抱き締めながら涙を流す。


「辛かったわね」


「……うん」


「もう大丈夫だから、君はここに居れば良いわ」


 リアンの優しさに触れながらも、ズークの心には悲しみを超える感情が沸き上がりつつあった。それは圧倒的な怒りと憎しみだ。

 レグレット村の皆を無残に殺し、ミーシャを噛み殺した憎き巨狼。遊びの様に皆をあっさりと殺した獣。

 あの黒き狼を絶対に許す事なんて出来ない。ただそれだけが幼いズークの心の中で、沸々と煮詰まっていく。

 それから色んなやり取りがあり、実際に現場を確認に行く事が決まった。


 3日後には王国騎士団と多数の冒険者パーティが集まった臨時部隊と、案内役のズークを連れたマリクとリアンがレグレット村に到着した。

 マリクとリアンはAランク冒険者で、十分稼いだからと田舎でスローライフを満喫していた。

 そんな2人が暮らす、林の側にある川でズークを発見。そして今に至るが、あまりの惨状に全員が言葉を失う。


 しかし幼いズークだけは、確かな足取りで近くにある森の奥へと向かう。

 数日経ってしまっていたが、強力なモンスターの匂いが残っていたからか崖の上はあの日のままだった。

 ただ黙々と残されていたミーシャの右腕を、1人で埋葬しようとするズーク。

 その姿を見たマリクとリアンは、ただただ言葉を失うしか無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ