第3話 クズ男の理想的な職業ヒモ
装備すらも失ったズークは、路頭に迷っていた。安宿に泊まる金すらもなく、冒険者カードでの立て替えもストップされてしまった。
そうなると今までのように高級ホテルに宿泊する事も、高級娼館で一夜を明かす事も出来ない。
さてどうしたものかと考えたズークだが、すぐに答えは見つかった。彼には困った時に頼れる相手が沢山いる。
その中の1人が、王都キャッシュにある教会の近くで生活しているのだ。
「よう、エレナ。元気だった?」
「まあズーク様! 来て下さったのですね!」
「そろそろ様子を見に来ようと思っていたんだ」
彼女は先日妊娠が発覚して、ズーク達のパーティーを離脱。現在は冒険者を休職中のシングルマザーであるエレナだ。
平均的な体格で、黒髪をショートボブにした黒目の物静かな女性である。彼女は28歳とズークの少し年上だ。
今は神官としての衣装ではなく、過ごしやすい部屋着を着ている。妊婦である彼女は、ゆったりとした服装でも分かる程度に少しお腹が出始めている。
ズークにはこうして孕ませた女性達が20人居るので、借金まみれになった所で暮らす家に困る事はない。
そしてそれは世間一般で言う所のただのヒモであり、到底Sランク冒険者の生活とは思えない末路であった。
「ところでズーク様、その格好は一体?」
「色々あってさ、一時的に借金を抱えているんだよ」
「まあ! それは大変ですね。私でよければ幾らでも協力致します」
ヒモが何故ヒモとして成立するか、それは女性に取り入るのが非常に上手いからである。
ズークはこれでもSランク冒険者であり、少々借金を抱えた所で返せない事はない。
圧倒的に高い名声と、確かな実績があるので借金を抱えたぐらいでは幻滅される事もない。
そもそもその程度で幻滅するぐらいなら、最初からズークに抱かれる筈もない。
何より妊娠した女性への生活費は、冒険者ギルドが必ず保証しているので払われないという事態にも陥らない。
冒険者本人が死亡すれば話は変わるが、ズークはSランクであり先ず死亡する可能性は低い。
無駄に裏打ちされた安心感が、ズークの様な男であっても成立してしまう。なまじ戦わせれば完璧な男であるだけに、質の悪さは尋常ではない。
「だけど今の君に無理をさせるわけにはいかないだろう?」
「そんな事はありません! 好きなだけ滞在して下さい」
「そうか? やっぱりエレナは優しいな」
ズークの厄介な所はこれが素である点だ。ナチュラルに女たらしのダメ男なのだが、人類最強クラスの力だけはある。
これで貧弱な低ランク冒険者であれば、女性から相手にされる事はない。そうではないから、こんな歪な関係が成り立ってしまう。
二桁単位で女性を孕ませているというのに、ズークに近付こうと考える女性は後を絶たない。
既に子供が出来てしまった20人も、見方を変えれば選ばれた20人という事になり無駄な特別感が生まれてしまっている。
もちろん全ての女性がそうであるのではない。何とも思わない女性も当然居る。だが好意的に見ている女性の方が多数派なのは変わりない。
「どうせなら暫くは、ゆっくり休まれたらどうですか?」
「でもな〜仕事はしないとな〜」
「もう、少しぐらいは2人の時間を下さいよ」
「う〜ん……まあエレナがそう言うなら、たまには働かなくても良いか」
高額な借金を抱えても、無駄に甲斐性だけはあるというこの世界のバグ。
何故こんな男がSランクなのだと、Aランク以下の男性陣なら言いたくもなるだろう。
しかし本当にそれだけの実力はあるのだから困りどころだ。普通なら良くてBランクぐらいで収まる様な人間性だが、突き抜けてしまった。
頂点に立ててしまった。悲しいかな努力だけは出来る男であった為に、こんな理不尽が成立してしまった。
こんな勝ち組人生を歩めたら、そんな風に羨む男性達の怨嗟の声は悲しいかなこの真っ赤な髪の美丈夫には届かない。
「じゃあせっかくだ、今日は俺が料理をしよう」
「そんな、ゆっくりしていて下さいよ」
「君のお腹にいる俺達の子供の為さ。たまには父親らしい事もさせてくれ」
じゃあ早く結婚してやれよという、至極真っ当な指摘を入れる者はこの場にはいない。
セリフだけ見れば、まともな父親に見える。だがやっている事はとても褒められた行動ではない。
だと言うのに、エレナはそんなズークの言動を喜ぶ。この男は金と女性関係は最悪だが、なんと家事育児もこなせる男である。
無駄にスペックだけは高いのだ。そんな理由から、ダメな男にハマってしまう女性達に特効効果を持っているのだ。
強者ながらも少し抜けている所があり、そこを自分が補ってあげないと。そんな風に母性を刺激されてしまう。
「それで、その。今夜は一緒に寝てくれますか?」
「寝るのは構わないが、その体では……」
「分かっております。それでも、一緒に眠るぐらい良いでしょう?」
「甘えたがりなのは相変わらずだな」
借金があと100億ぐらい増えれば良いのに。そう思いたくなる様な会話を繰り広げるズークとエレナ。
ここでツッコミを入れてくれるパーティメンバーはもう居ない。恐ろしい事に、このクz……ズークにヒモ生活をさせてくれる女性があと19人も居るのだ。
こんな調子では、ズークの全額返済がいつになる事やら。そしてこの男が自らを省みる日は、果たして訪れるのだろうか。
■返済生活初日の収入:0ゼニー
■借金総額:10億ゼニー(9億になる予定)
『ズークの様な男』と書くだけで、クズ男って表現にもなるとここで気付いたのが昨年の冬でした。
それからズークのハーレムメンバーたちはメインヒロインではありません。
だってクズ男に引っ掛かるメインヒロインなんて、嫌じゃないですか?(真顔)
またこの養育費強制徴収システムですが、口座にお金を入れない等の不正を働くとコワーイおじさん達が冒険者ギルドから派遣されます。
冒険や! はよ開けんかいコラァ! はよ開けぇ言うとるやろがぁ! ドゥルルン! ドゥルルン! ドッドッドッド! みたいな感じで。その内そういう話も入れます。