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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
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第29話 リーシュ先生の初授業と水使いの男子

 ズークが魔法の授業を行っている頃、リーシュもまた剣技の授業を行っていた。

 今回担当しているのは、4年生の生徒達だ。彼らは来年度で卒業し、成人として社会に出て生きて行く事を目指す。

 そして同時に、このクラスには例の教師に怪我をさせた生徒達が所属していた。

 強くなったという全能感と、若さ故の暴走があったと思われる。彼らは18歳と若く、引退した騎士を相手に勝つ事もないとは限らない。


 それ故の増長が生んだ、悲劇だったのだろう。だがしかし、今ここに居るのはAランク冒険者の中でも最上位。

 金色の剣聖と呼ばれる金髪の美女を相手に、戦場を知らぬ若造では敵う筈も無く。

 グラウンドで模擬戦をしていた1人の男子生徒は、リーシュの持った木剣を首元に突きつけられていた。


「まだまだね」


「なっ!? なんで……」


「動きに無駄が多過ぎるわよ」


 先程から増長していた男女が、片っ端から伸びた鼻をへし折られている。

 10人以上の生徒達が、一撃も入れられずに簡単に連敗を喫していた。そもそもリーシュは木製の片手剣を使用しており、普段使う大剣ですらない。

 防具もいつもの金属鎧ではなく、学園支給の革鎧である。その上で手加減も加えてこの有様だ。


 彼女が普段どの様な戦闘スタイルかなど、このクラスに知らない者はいない。

 リーシュが美しい女性である事も手伝い、ローン王国内では非常に有名な人物だからだ。

 何なら生徒の中には、妾にしてやっても良いと思っている男子生徒も居る。


「ふんっ、だらしない奴らめ。先生、次は俺の相手をして貰いましょうか」


「良いわよ、貴方は確か……」


「エリオットですよ。エリオット・ノーラン」


 続いてリーシュに挑むのは、ノーラン伯爵家で暮らす長男のエリオットだ。蒼い長髪を後頭部で纏めている青年で、相対するリーシュと髪型が近い。

 尤も髪の長さが違うので、全てが同じではない。エリオットは纏めた髪の先がうなじまでだが、リーシュは首元より下まである。

 そんな彼女を睨む銀色の瞳には、強い意志が感じられた。エリオットはクールな雰囲気を持つ好青年で、線の細い美形であるが良く鍛えられた肉体を持つ。

 父が副騎士団長をしており、ノーラン家は昔から武闘派だ。決して頭の悪い生徒では無かったが、彼もまた増長はしていた。

 悪事こそしておらず、教師の怪我と関係はないが見下してはいた。自分の方が強いのに教師がこれか? という形で。


「睨むだけじゃ勝てないわよ?」


「っ!? 分かっていますよっ!」


「ふぅん、剣の腕は悪くないみたいね」


 挑発に乗るのも癪だったが、リーシュの指摘は事実である。エリオットは結局攻めるしかない。

 果敢に木剣を手に攻め立てるが、全てを綺麗に捌かれてしまった。まるで父親を相手にしている様だと、悔しい気持ちがエリオットに蓄積されて行く。

 未熟者めと冷めた目で見て来る父親を思い出し、つい必要以上に力が入ってしまった。

 それこそまさに未熟な証であるのだが、まだ若いエリオットには冷静さが足りていない。

 これは剣技の授業であって、本格的な戦闘訓練ではない。それでもつい本気になって、水の魔法剣を使用した。

 ズークには到底及ばない下位の魔法剣で、複雑な効果はない。それでも高圧縮された水の刃は、木剣ぐらいなら切り裂く威力がある。


「ちょっと!?」


「はぁああ!」


「全くもう!」


 リーシュが剣技しか使えないのは有名で、魔法は使えない。人は魔力があっても適正が無ければ魔法を使用出来ない。

 リーシュは正にそのタイプで、ズークは逆に人類が使う全ての属性に適正があった。

 ではリーシュに魔力はないのかと言えば、そんな事はない。十分に高い魔力を持っていた。

 魔法が使えないのに魔力があった所でどうするのか、その答えが気功術と呼ばれる戦闘技術だ。

 かつてマサキ・シバモトという格闘家が、この世に生み出した戦技。魔法の適正がなくとも、魔力を別の形で使用して戦う技術だ。

 リーシュが使う剣技の多くは、この気功術を取り入れた流派のもの。属性は持たないが、無属性の気を刀身に纏わせる無明斬(むみょうざん)という技があった。


「甘い!」


「クッ!?」


「貴方はもう少し冷静さを養いなさい。そうしたらきっと、もっと強くなれるわ」


 弾き飛ばされたエリオットの木剣は、水の刃を失いグラウンドを転がった。

 エリオットの完全な敗北だったが、リーシュの評価はこれまでで一番良い内容である。

 純粋な剣技の授業で魔法剣を使った迂闊さは怒られたものの、それ以外は概ね高評価だった。


 真剣にダメ出しとアドバイスをしてくれるリーシュが、エリオットの目には新鮮に映る。

 強者だからと見下す事もなく、相手にならない弱者でもない。これまで彼にとって必要だった、師と呼べる様な存在。

 それが目の前に居る女性ではないかと、エリオットは考えを改めた。


「ありがとうございました!」


「次からは気をつけなさい」


「はい!」


 先程までと違って、急に殊勝な態度を見せるエリオットがリーシュには不思議だった。

 まあやり易くなるならそれで良いかと、彼女は特に気にしない。エリオットの中に生まれた気持ちが、ただの教師に対する尊敬の念か。

 それとも別の何かがあったのか、この時のリーシュには気付く事が出来なかった。

 この日以降のエリオットは、リーシュの授業では誰よりも早く準備をし、ただ静かに待つ様になる。

レオン君に続く、まともなヒロインに恋する男の子枠です。まだ恋のレベルまでは行っていませんが。

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