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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
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第23話 蟻塚 後編

 真っ暗な地下空洞を、燃え盛る炎の塊が素早く移動して行く。

 その正体は、中位魔法剣を使用中のズークだ。リーシュから借りているロングソードを使用し、炎を刃に纏わせるブレイズエッジでポイズンアント達を焼き払っては離脱する。

 地上にいるポイズンアントはズークが担当し、壁や天井に居るポイズンアントはリーシュが迎撃していく。

 斬撃を飛ばす剣技の1つ、烈風斬が次々とポイズンアントを撃破する。

 数時間に渡って探索されて来たこの巣穴も、そろそろ終わりを迎えつつある。


「長かったな」


「アント系の巣は探索が面倒よね本当に」


「無駄に広いからな」


 アント系モンスターは地下に広大な巣を作る。人間からすれば殆ど迷宮に近い造りであり、探索するとなると時間が掛かる。

 兵隊の役割を持つ個体群を相手にしながら、探索を続けるのは非常に困難だ。

 ズークとリーシュだからサクサク進んで行けているが、Bランク程度のパーティならばこうは行かない。


 確実に少しずつ、何日か掛けて進んで行くしか方法がない。だからこそ女王の心臓が、1個1000万などという報酬額が提示されている。

 ただこうしてAランク以上の手練れが居れば、この通り1日で終わる仕事に出来る。

 特に今回は巣の完全破壊が目的ではないので、2人は余計な探索を省いて行動した。


「天井が広くなった、当たりだな」


「さてそれじゃあ、女王様の謁見といきましょう」


「お、ラッキー。巣分け前だ」


 ポイズンアントクイーンは、ある程度の規模になると2匹目のクイーンが生まれる。

 次代の女王が大人になるまで共に過ごし、その間に兵隊達は次の巣を作りに向かう。

 若き王女が女王となった時、自分が支配するべき新たな巣へと移動する。


 そこで更に勢力を拡大し、繁栄を続けていく。ただしそれも、必ず上手く行くとは限らない。

 ポイズンアント等のアント系モンスターを餌とする大型のモンスターが、盛大に巣を破壊しながら襲撃して来る事もある。

 それだけではなく、こうして人間の冒険者が素材を目的に侵入する事も。


「さて、それじゃあ俺は右の方を貰おうかな」


「なら私は左ね」


「行くぞっ!」


 ポイズンアントは1m程度の大きさだが、ポイズンアントクイーンは5m程の巨体を誇る。

 そのサイズが生活するのだから、女王の部屋は非常に巨大だ。ドラゴンでも住むのかと言わんばかりに、天井も壁も広く作られる。

 そんな女王の部屋のちょうど左右に、1匹ずつクイーンが鎮座していた。


 襲撃についてはとっくに情報がいっていたので、2匹の女王様は怒り心頭の様子だ。

 その太く鋭い牙から、ギチギチと威嚇音を鳴らしている。地団駄を踏むかの様に、ドスドスと太くて長い脚を踏み鳴らす。

 すると女王を守る騎士の様に、2m程のポイズンアントが姿を現す。ポイズンアントのオスの中でも、特に大きく育った個体は騎士の様に女王を守る役割が与えられる。


「邪魔だ!」


 少し大きくて少し強くなった所で、ズークにとっては大差がない。

 燃え盛る刃が殺到した騎士達を切り裂いて進む。飛来する蟻酸を躱し、振るわれる前脚を弾き、次々と処理をしていく。

 ズークが駆け抜けた後には、焼け焦げた死体が残されるのみ。それがまた気に障ったのか、クイーンが巨大な蟻酸をズークに向けて放つ。

 5mの巨体が飛ばす蟻酸は、当然その大きさも違う。人間の体より大きな猛毒弾が、ズークのすぐ近くに着弾した。

 飛び散る蟻酸を炎の刃でガードしたズークは、背筋に冷たい汗が流れて行くのを感じた。


「コイツっ!? 随分利口だなお前」


 直撃狙いでは無く、散弾の様に飛沫を利用したクイーン。どうやら相当長生きしている個体らしく、頭脳プレーでズークを倒しに掛かる。

 流石に飛沫まで利用されては厄介であり、どう飛ぶかが分からないので非常に危険だ。

 着弾した位置や形状、壁や床の凹凸によって変化する軌道に翻弄されるズーク。


 ポイズンアントの蟻酸ですら死の危険があるのに、クイーン個体の蟻酸など飛沫でも危険過ぎる。

 クイーンの心臓に高い価値があるのは、強力な解毒効果のあるエキスが採れるからだ。

 そしてそんな効果を持つ心臓を持っているという事は、それだけ体内で精製している毒が強いという事だ。

 自らの毒でダメージを受けない為に、その様な生態をしているというのはこの世界では常識だ。


「そろそろ分かって来たぞ、お前の癖が」


「ギギギギギギギ!」


 クイーンが怒りの一撃を放つが、もう既にズークは遠く離れた位置に居る。

 生死を懸けた戦いの中で、ズークは相手の癖を掴むのが得意だ。その勘の良さが、今日までズークを生き永らえさせて来た。

 僅かな視線の動き、顔の角度、手足の動かし方、それらから相手の行動を読み取る能力こそが、ズークが持つ最大の武器である。

 焦ったクイーンは手足も使って攻撃しようとするものの、躱されては肘から先を切り裂かれてしまう。

 遂には立つ事も出来なくなってしまい、地に伏したクイーンとズークの視線が交錯する。


「アンタ結構強かったよ、女王様」


「ギギギ……」


 クイーンの頭部が切り落とされ、巣の地面を転がる。胴体を慎重に切り裂いて、心臓がある位置を探す。

 やはり長く生きた個体であったのか、取り出した心臓は中々のサイズをしていた。

 ズークより先にクイーンを倒したらしいリーシュも合流し、2人は撤退を始める。

 この巣が再び繁栄するのか、このまま滅ぶのかは残された卵次第。

 新たな女王が生まれるのか、それとも生まれないのか。それは誰にも分からない。

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