第20話 冒険者ギルドの徴収官~密着24時~
冒険者ギルドでは冒険者の支払いを立替えるサービスを行っている。若干の手数料が発生し、完全無料では利用出来ない。
そして子供が出来た女性への、父親側に対する養育費の支払い義務も与え来た。
これらに対して、まともな冒険者達は真面目に支払うべき金額を収めている。だがしかし、全ての冒険者が潔く支払うとは限らない。
お金が今は無いと言って滞納したり、払えるのに誤魔化したり。その様な不届き者も一定数居るのは悲しい所だ。
そしてその様な、払うべきお金を支払う気のない不届き者への対処は当然必要だ。
冒険者ギルドには、お金を払おうとしない者に対処する徴収官という役職がある。
主に現役を引退した、強面の元ベテラン冒険者達が中心となって組織されたのが始まりだ。
今回はそんな彼らの仕事について、我々ローン新聞の取材犯が、密着取材をする事になった。
「随分と朝早い時間から活動されるのですね?」
「ええまあ、ゆっくりしている暇はないので」
「注目!」
徴収官の朝は早い。まだ日の出始める前から、数十人もの徴収官達が朝礼を行っている。
男性ばかりと思われがちだが、女性の徴収官も居た。全員が厳つい歴戦の女傑を思わせる女性ばかりではあるが。
冒険者ギルドの徴収官達は、専用の真っ黒な制服を着ている。
返り血を浴びても目立たない様にしているとの噂もあるが、その辺りについてはこの取材でハッキリするだろう。
取材犯に対応してくれているのは、筆頭徴収官と呼ばれるトップを務めているガーランドという男性だ。
現役時代は不動の異名を持つAランク冒険者だったのは有名な話。
彼に大盾を持たせれば、どんなモンスターが相手でも前線が崩れる事はないと言われていた。
その名に相応しく、引退して数年たった今でも圧倒的な迫力を発している。
50歳を超えているとは思えない程に厚い胸板、激戦を潜り抜けて来たからこその顔に残った傷跡。
特に右目を縦に切り裂かれた様な、痛々しい傷跡が余計と威圧感を与えている。
「おっと、もう出発ですか?」
「ええ。相手によっては、夜逃げや早朝からの逃走を図る者もおりますから」
「なるほど」
これから日が昇るというタイミングで、幾つかの班ごとに別れて徴収官達は行動を開始する。
取材班はガーランド氏の率いるチームに同行させて貰う事に。似た様な歴戦の勇士達が7人と、リーダーであるガーランド氏の合計8人だ。
内1人は女性であり、大きなメイスでも持たせれば絵になりそうな迫力があった。とてもではないが、不躾にも年齢を聞こうとは思えない。
まだまともに取材も出来ていないのに、命を捨てる気にはなれない。ともあれ行動開始となり、我々も後を着いて行く。
「最初は何処に向かわれるのですか?」
「先ずは1件目の滞納者の自宅ですね。今頃は酔いつぶれて家にいる筈ですから」
「相手の行動や傾向をしっかりと把握している、と」
最初に向かうのは、100万ゼニーもの滞納を続けているローグという男性冒険者の自宅だ。
Cランクのパーティに所属しており、それなりに優秀なのだが金払いが悪い弓使いとの事。
娼館に通うのが好きで、支払いよりもそちらに優先してお金を使っている様だ。
ローグが所属するパーティは専用の口座を用意しておらず、完全な個人主義で無理やり引き落とす事が出来ない。
制度の穴を良い事に、ギルドを介さない指名依頼や商人との取引で得た資金を自由に使っている。
いよいよ見過ごせなくなった為に、こうして徴収官が取り立てに向かう事になった。
到着するなり、1人の強面の男性が玄関のドアを激しくノックする。ノックという限度を超えている様な気もするがこれはノックだ。
「冒険や! 開けんかいコラァ!!」
「はよ開けぇコラァ!!」
「おるんは分かってんねんぞぉ!!」
早朝から飛び交う怒号に、小鳥達が驚いて飛び立っていく。ドスの聞いた低い声が、キャッシュの街の一角に響き渡る。
恐ろしい事に……驚いた事に3人目に声を上げたのは先程の女性だ。さけ……呼び掛けると同時に、ドアの下部に見事な蹴りを入れていた。
取材班の1人、まだ新人の青年が憲兵を呼んだ方が良いのではなどと言い出す。
これは徴収官の正規のお仕事なのでそんな必要はない。驚いて飛び起きたのであろう、恐らくは件のローグ氏らしき人物が反応した。
今開けますからとういう、弱弱しい返答が返って来た。
「ええからはよ開けろやぁ!!」
「はよせぇ遊んでんとちゃうぞコラァ!」
あの、ローグ氏は今開けると……物凄い勢いで男性がドアノブをガチャガチャと乱暴に動かす。
1件目からあまりにも激しい業務内容に、驚かずには居られない。
色々な意味で強烈なスタートだが、遂に玄関のドアが開かれた。
「はよ開けんかいコラァ!!」
「入るでえええええええ!!」
「腹ぁくくって往生せいやローグぅ!」
我々も室内に入ろうとした所、ガーランド氏に止められてしまった。
危険ですからと言われたものの、どう危険なのかは分からなかったが。
家の前で待機する私達に分かったのは、室内でも変わらず飛び交う怒号と、僅かな破壊音だけだった。
暫くすると幾つかの押収された物品と共に、青い顔をした1人の男性が姿を現す。
どうやら冒険者ギルドに連行された後、代金分の労働をさせられるそうだ。
お金はちゃんと払いましょうという事の大事さが、それはもう良く分かる24時間となるのだった。
元ネタはもちろん正義の組織大〇府警ですよ。正義ですからね徴収官も当然ですけど。
ちなみに関西弁とこのやり方は、大阪出身の日本人が悪ノリで作った組織がわりと効果的だったので定着したという設定です。
暫くは書きませんが、その内こう言った文化を持ち込んだ地球人の話も書こうかなと。




