第18話 まあこんなのでも一応は歴戦の戦士
リーシュの準備が整うまでの間、エレナの家で時間を潰す事にしたズーク。
ローン王国は豊かな国であり、上下水道が整っており都市部であれば平民でも自由に湯水が自宅で使用可能だ。
クリーンの魔法と濾過装置で汚水を浄化する処理場が設置されており、いつでも綺麗な水が都市内を循環している。
流石に田舎の農村部であれば今も井戸水を利用しており、末端までは行き届いていない。
建設費用もそうだが、城壁もなく兵士もいない様な場所では維持が難しい。
盗賊や山賊達による貴重な素材の強奪などがどうしても避けられないからだ。
「ふぅ」
そんな恵まれた環境に生きる赤髪の見た目だけなら完璧な男は、エレナの家でシャワーを借りていた。
これまでに受けて来た数々の傷跡が残る、良く鍛えられた肉体を持つズーク。
特に胸元から腹にかけての、大きな三筋もある痛々しい切り裂かれた傷跡が目立つ。
かつて仇敵と生死を賭けての激闘を繰り広げた際に出来た古傷の跡だ。
黙ってこうしていれば漢らしい歴戦の戦士なのだが、如何せん中身がズークだ。
こんな男のサービスシーンなど誰も求めては……いやこれでもモテはするので、それなりの需要はある。悲しい事に。
「ズーク様、お着替えを……あら失礼しました」
「構わないさ、ありがとう」
「それではお待ちしておりますね」
ズークの着替えを持って来たエレナが鉢合わせてしまい、やや頬を赤らめながらエレナが洗面所から出て行く。
シャワーを浴びてさっぱりとした姿だけ見れば、爽やかな美丈夫である。だが中身は以下省略。
着替えて洗面所を出たズークは、エレナと一緒に昼食を作りながらリーシュを待つ。
丁度良い頃合いにやって来た彼女と3人で昼食を食べる。意外にもメンヘラで独占欲の強いエレナだが、リーシュとカレンがズークと居るのを許している。
何故なら2人ともズークと結ばれる気が本当に無いからだ。とは言え誰よりも先にズークと肉体関係を持った、カレンへの嫉妬心は少なからずあるのだが。
その点については残る19人が共通して持つ感情だ。本人的には物凄く不本意ながらも、カレンは彼女達から一目置かれていた。本当にカレンからすれば何も有難くない話だ。
「エレナもちゃんとコイツの手綱を握っておきなさいよ? すぐ浮気するから」
「おいおい、浮気は言いがかりだぞ。全て愛だ」
「……ズーク様? 今なんと?」
瞳孔がカッと開いた目でエレナが隣に座るズークを見る。慌てて弁明するズークと、いつものやり取りを見てリーシュは笑っていた。
だってもう笑うしかないから。無駄に甲斐性だけはあるだけに、ズークとその嫁達はそれなりに良い暮らしが出来ている。
これが万年Dランクの男であったのなら、リーシュも別の男にした方が良いと諭す所だ。
養う能力のない相手とならともかく、ズークは30人ぐらいの女性を抱えても何と出来てしまう。
100人は流石に厳しいだろうと思われるが。それに側室を迎える貴族も少なくなく、ズークはこれでも一応爵位持ちの貴族相当の地位にある。
20人以上は王族でも珍しい数字だが、過去に居なかったわけでもない。
「ズークじゃなくてエレナに似た可愛い子だったら良いわね」
「妙に棘がある言い方じゃないか?」
「どちらに似たとしても、私達の可愛い子供ですから」
棘ぐらい少々刺されても文句を言えない生き方を改善してから言って頂きたい。
とこんな感じで和やかな(?)会話をしながら食事をした3人は、食後のお茶を楽しんだ後にそれぞれ動き出す。
エレナは干した衣類の片付けを、ズークとリーシュは狩りに出掛ける。
移動の馬車代はリーシュ持ちなのだから、報酬は7対3でも良いのではないかと思われるが、そもそもリーシュはお金に困っていない。
どこかのバカタレと違い、リーシュはしっかりと貯蓄をして来ている。派手な散財もせずギャンブルもしていない。
お酒は飲むが嗜む程度で、下手な小国の男爵家より資産を持っていた。Aランクの冒険者になれれば、それぐらいの裕福な暮らしが可能となる。
普通なら、と言う言葉が前提になるけれども。
「アテム大森林は久しぶりねぇ。2年振りかしら?」
「そこそこ遠いからな。稼ぐには丁度良い場所だが」
「必死になって稼いでいたBランクの頃が懐かしいわ」
アテム大森林でBランクの冒険者達がパーティーを組んで挑む。それはローン王国におけるそこそこ定番の稼ぎ方である。
確かな経験と、高価な素材が手に入る丁度良い場所だ。もちろん比較的に浅い領域で、という前提にはなるが。
ズークとリーシュの様に人並外れた実力がないと中層域に挑む事すら難しい。
ただ最近はとあるダンジョンが一攫千金のチャンスがあると話題になり、殆どの冒険者達はそちらへ行っている。
だからこそ先日のオークキングが、森の外に出て来て砦を築けた理由でもあった。
「そうだ、ついでに近くの村に寄っても良いか?」
「良いけど、何かあるの?」
「少し前に助けた女性達が居てさ。どうしているかと思って」
だからそういう気遣いが出来るのであれば何故云々。先日助けたアブサー村の女性達の様子を見に、ズークとリーシュを乗せた馬車は移動する。
またコイツはという三白眼でリーシュはズークを睨むが、人助けであった事は変わりない。
女性だから無償で助けるというアレな行動の結果であったとしても。
これ以降は毎朝1話更新でやっていきます。よろしくお願いいたします。




