第16話 デアゴの洞窟 後編
未発見のルートが発見されたデアゴの洞窟を探索中のズーク達。
どれだけ進んで行こうとも、大して変わらない難易度に妙なものを感じさせられている。
多少敵の強さが上がったり、トラップが少し複雑になったり。内装がただの洞窟から砂漠に変わる事もあれば、草原の様な景色に変わる時もあった。
色々と変化はあるのだが、相変わらず区切りとなるボス部屋で手に入るのは謎の金属片のみ。
対になっている様なものもあれば、何に使うのか分からない半端なサイズの金属板もあった。
「意味がわからねぇよ、なんだこれ?」
「手に入るのがこんなのばっかりじゃねぇ」
「……(頷く)」
3人ともが悩まされ続ける謎の報酬は、ただただ増えて行くばかりだ。
元々ダンジョンという存在自体が良く分かっていないとは言え、このデアゴの洞窟は随分と謎が多い様だ。
確かに使途不明の出土品が見つかる事もある。だがそれはこれ程の頻度ではなく、たまに見つかる程度でしかない。
こんな毎度の様に、不思議な金属片ばかり見つかるのは異常だった。元から異常を調べに来ているのだから、異常な物が見つかるのはある意味当然とは言える。
しかし何もかもが良く分からない事ばかりである。もう70階層以上踏破しているのに、一向に現れない強敵も不思議だった。
通常なら50層も超えればそれなりの敵が出て来る。しかし現れるのは、入り口付近と比べたらやや強い程度でしかない。
「何か、新人教育みたいなダンジョンよねぇ」
「そうかぁ? 新人にこんな金属片ばかり集めさせて、何になるって言うんだよ? なあバックス、この金属片に価値はあるのか?」
「…………(首を振る)」
リーシュの目には新人教育に見えるらしいが、ズークにはそう思えなかった。
まだ続きがあるらしいので、先に進むズーク達。最高位の冒険者達なので踏破する速度は速いものの、謎は更に深まるばかり。
1日の内に200層を超えたが、難易度はやはりそう大きく変わっていない。
200層を超えた辺りから、Dランク程度の強さと知識が必要になり始めた程度だ。
100層以上もありながら、ここまで難易度が低いダンジョンなどズーク達は聞いた事が無い。
そして相も変わらず、用途が分からない金属片だけは集まっていく。
「何層まであるんだよここは」
「深いわりには簡単よねぇ」
「……」
2日目に400層を踏破した頃、いつもと違う変化が起きた。次へと続く階段ではなく、普通の家についている様な木製のドアが現れた。
3人は一応警戒しながら中に入る。突入した先にあったのは、誰かが使っていたと思われる研究室の様な部屋だった。
どういう仕掛けか不明だが、薄暗かった室内に突然明かりが灯る。3人は即座に周囲を警戒するも、誰も姿を現さない。
暫くの沈黙が続いたのち、木製のテーブルに置かれていた謎の宝珠が光始める。攻撃的な空気が無かったので、ズーク達は離れて様子を見守る。
『やあ、初めまして。僕はマサオ。マサオ・タカミネという』
「これは映像記録、か?」
「どうやらそうみたいね」
宝珠から投影された白衣を着た30代ぐらいの男性は、この辺りでは珍しい人種だった。
あまり凹凸のない顔立ちに、短い黒い髪と眼鏡の奥にある黒い瞳。背が高いとも言えず、極端に低い事も無い。
東の方にこういうタイプの人種が多い島国があったなと、ズークは映像の男を見ながら考えた。
マサオと名乗った男は、このダンジョンの製作者であり異世界から来た事を明かす。
自分の血を継ぐ子孫が8層をクリアすると、本当の姿を現す仕組みになっているらしい。
恐らく最初に発見した教育中の新米パーティーに、彼の子孫が居たのだろう。なんとも回りくどい仕組みだなとズークは感じた。
『そしてボスドロのアイテム達だけど、なんと! 8層で手に入るショートソードに全てを装着すればロングソードになるんだ! いやーロマンだよねこう言うのって』
「はぁ? なんじゃそりゃあ」
「ズーク、それって貴方がギルドに借りている剣の筈よ」
「え、コレってここで手に入る剣なのかよ。だから山ほど中古があるのか」
ここデアゴの洞窟は、新人冒険者が最初に鍛錬をする場所の1つだ。
最初は使い古された物をギルドから借り、ここに挑んで新品を得る。新品を手に入れた新米が成長し、必要が無くなったらギルドが買い取り貸し出し品へ。
どうにもならないレベルまで品質が落ちたものは、廃材として溶かされる。という循環が成り立っているのだ。
そんなギルドから借りた8層で手に入るお宝に、これまでに手に入れた金属片を装着していく。
すると最終的にはショートソードから少し短めのロングソードに生まれ変わった。
どうやら何かしらの細工が施されていたらしく、剣が一瞬輝いた後には継ぎ目など無くなっていた。
「なんつーかさ。凄いのは凄いけど、結局品質的には微妙じゃね?」
「異世界人の考える事は理解できないわねぇ」
「…………」
で、だから何なの? と首を傾げるズーク達。その背後では記録映像の中でマサオが熱弁を続けていた。
ダンジョンでアイテムを収集して最後に合体、素晴らしいねぇと自画自賛を続ける。
製作者本人曰くは、Cランクぐらいまでは通用する性能だと言っている。
新米から始めて、Cランクを目指す為の鍛錬場だと思えば分からなくもない。
分からなくもないが、あまりにも回りくどいので利用価値があまりない。
そのせいでこの情報が後世に残らなかったのではないか? という結論に最終的には至る事となる。
だが今はどうギルドに報告すべきか、3人は途方に暮れるのだった。
デアゴ〇ティーニな洞窟という事でした。
日本人の転生者とか転移者が居たら、1人ぐらいはこう言う事しそうじゃないです? というエピソードです。




