第155話 ズーク先生の熱血指導
マレーンの街へと到着したズークとリーシュは、先ず人を轢くところからスタートした。
はねられて川に落ちた2人は、現在街の衛兵により救助されている最中だ。
なんて事をしたのだと、いつも通りリーシュがズークを怒り始める。しかしそこへ、周囲の人々が待ったをかけた。
「よくやってくれた兄ちゃん!」
「スカッとしたわ!」
「お姉ちゃん違うよ! このお兄さんは悪い奴をやっつけたんだ!」
何故か絶賛されるズークと、逆に窘められるリーシュ。2人はポカンとした表情で顔を見合わせる。
一体これはどういう事だと困惑する。ズークは人をはねた認識があるし、リーシュも同様だった。
しかし街の人々は、ズークを英雄のように扱う。
「あ~その。じいさん、これはどういう事だ?」
ズークは近くに居た老人に問いかける。何故自分が褒め称えられ、吹っ飛んだ2人がこき下ろされているのか。
「なんじゃ、この街に来たのは初めてか?」
やや驚いた表情で、老人はズークを見つめている。迷うことなく街中を進んで来たように見えたからだ。
「あ~いや、初めてではないけど、数年ぶりでさ」
「そういう事か。なに、ワシが教えてやろう」
老人は今のマレーンの街が置かれている状況を説明する。ダンジョンで失敗した者達が、この街に集まり好き放題をしているという現状を。
なまじモンスターや盗賊相手の戦力になるだけに、全員を追い払うわけにもいかない。
あまりに酷い者だけは逮捕されるが、そうでない者は下手に裁けない。結果街の人々が、横暴な冒険者達に迷惑しているのだと。
「何それ? 随分と酷いわね」
「昔はのどかな街だったのじゃがなぁ」
平和な観光地だった昔を思い、老人は遠くを見つめている。変わってしまった街の現状は、住人達の力では変えようがない。
力のない一般人では対抗など出来ないのだから。老人の話を黙って聞いていたズークが、突然大きな声を上げる。
「女性と無理矢理エッチな事しようなど許せん! 合意でやれ合意で!」
「貴方ねぇ……憤るところはそこ? 正しくはあるけど」
出来るだけ多くの女性とエッチな事をしたい。そう考えているズークにも、許せない事がある。
それは性犯罪の類だ。あくまでもお互いに合意の上で、セックスをしてこそだと常日頃から思っている。
女性にだらしないおバカなこの男の数少ない美点の1つは、絶対に無理矢理迫らないという事だ。
一晩を共にするしかない、という状況を作る事もしない。肉体関係を目的に、無理矢理お酒を飲ませる事もない。
致すならば話術で勝負してナンボ。それこそがズークの信念である。ただし複数の女性を孕ませるのはOKである。ガバガバな信念もあったものだ。
「この街の女性達を守る為、俺が一肌脱ぐしかあるまい! 待っていてくれお姉さん達!」
「あっ! ちょっとズーク!?」
荷車を放置して走りだしたズークは、街中で無法を働いている男達を見つけては指導していく。Sランク冒険者による鉄拳制裁という形で。
「徹底指導! お前も徹底指導! セクハラは天誅!」
街中を駆けまわるズークは、片っ端から横暴な冒険者達をしばいて回る。
やっている事は間違いではないので、追いかけて来たリーシュも止めはしない。
むしろズークが指導しない女性冒険者達を、ニッコリと怖い笑顔と共に指導して行く。
2人の高位冒険者に指導して回られた結果、街の広間にはセイザで座る冒険者達の集団が出来ていた。
大きな噴水の前で腕を組んだズークが立っている。隣にいるリーシュは苦笑していた。
「女性に迷惑を掛けて回るなど、あるまじき行為だ!」
「人様ね、人様の事よ。主語を間違えないでね」
しっかりと熱血指導を受けた冒険者達は、誰も彼もどこかしらに痣が出来ている。
女性陣の頬には、掌の跡がついていた。強烈なビンタでも受けたのだろう。
広場ではあのズークがお説教をする側に回るという、奇跡の光景が繰り広げられている。
だがそれは、街の人々からすれば最高の光景だ。
「おい、あれってズーク・オーウィングじゃないか?」
「流石はSランク冒険者だ。冒険者としての格が違うな」
「噂通りの素敵なお方ね」
とんでもない勘違いが広がっている。街の女性達は、悪漢から救われたような気分になっている。
事実そうである為に、余計ややこしい状況だ。見た目だけなら美丈夫である為に、女性陣の勘違いと美談だけが広まっていく。
リーシュにはもう止める事が出来ず、聞こえないフリをする事に決めた。なるようになれと、全てを放り投げる。
どうせ昼食を食べに来ただけで、またズークが女性を引っかけるような時間はない。
「分かったかお前ら! また立ち寄った時に、お前達の反省が見られないようなら、今度は指導だけでは済まないぞ! 良いな! 女性と致したいなら合意の上でだ! 復唱!」
「「「女性と致したいなら合意の上で!」」」
「人様に迷惑をかけるな! でしょうが!」
最後まで微妙にズレているズークに、隣にいたリーシュが頭をはたく。それもズークのユーモアなのだろうと、街の住人からは勘違いされていた。




