第15話 デアゴの洞窟 前編
デアゴの洞窟と呼ばれている初心者向けダンジョンは、本来8階層で終わる初心者向けのダンジョンだ。
特別トラップが複雑という事も無く、出現するモンスターも弱いものばかり。手に入る財宝や道具、素材についても平凡なものだけ。
強いて上げるならば、ボスを倒すと入手出来るショートソードが新米には丁度良いぐらいか。
ダンジョン攻略の基礎を知るには良いとしても、いつまでも繰り返し潜る様な狩場ではない。
その様な場所である為に、本来集まるのは下級の新米冒険者だけだ。そんなデアゴの洞窟に、本来なら来る筈のない3人の高ランク冒険者が突入した。
言うまでも無くズークとリーシュ、そしてバックスである。
「へぇ、こんな所あったんだな?」
「ズーク貴方、入った事無かったの?」
「ああ。俺はCランクスタートだったし」
冒険者となる際には、実力を図る試験が行われる。身の丈に合わないランクから始めさせない為だ。
開始時点で実力が高ければ、FやEをスキップして相応しいランクが与えられる。
ズークは未成年の時点で高い実力を有していた為、Cランクの中級冒険者から始めていた。
試験では人間性のテストも行われているので、あまりにも極端な性格をしていると冒険者にはなれない。
試験当時のズークは、復讐の鬼と化しており要注意人物としてマークされていた。
冒険者としてギルドには登録はするが、行動には監視がつく形であった。
未成年だからと甘やかされた面もあったが、まさか試験官もこんな男に成長するとは思わなかっただろう。
「…………」
「おいバックス、そんなショボいトラップまで解除しなくて良いぞ」
「そうね、これぐらいなら放置で構わないわ」
一応形式としてトラップを解除したバックスだったが、それならば無視で良いかとそれ以降は放置に決めた。
ここに居る3人は、冒険者として高い実力と実績を持つ。初心者用の罠になど掛かる間抜けは居ない。
中でも一番の実力者がズークだというのが何とも言えない所だが。とにかくそんな調子で3人は順調に進んで行った。
出て来るモンスターはゴブリンとコボルトのみ。目の前に現れたところで瞬殺されて終了だ。
特に苦労する事もなく、3人はボス部屋の前に到着した。そのすぐ近くには、報告のあった未発見のルートへ続く大穴が開いていた。
「なるほどねぇ、これが例の穴か」
「何があるか分からないわ、慎重に進みましょう」
「…………」
流石にここからはどうなるか分からない。突然100階層以上あるダンジョン相当の敵が出現する可能性だってある。
本来ならもっと、大規模な探索隊を用意しても良いぐらいだ。しかしカレンは少数精鋭を送り込んだ。
それだけこの3人の実力が高い事を理解しているから。下手に人数だけはいる有象無象の方が、死ぬ可能性が出て来る。
ベテラン受付嬢としての冷静で的確な判断だった。実際すぐさまバックスが先頭に立ち、周囲の警戒をしている。
ズークとリーシュも一切の隙が無い。慎重に進む3人だったが、本来のデアゴの洞窟とそう大差ない敵が現れた。
ごく普通のどこにでも居るスライムである。油断させる罠の可能性を3人は考慮したが、特にこれと言って何も起きなかった。
「どういう事だこりゃあ?」
「うーん……まだ急に難易度は上がらないって事かしら?」
「…………」
3人は顔を見合わせながら思考する。しかしトラップも先程とほぼ同レベルで、二重に仕掛けられてもいない。
深くなればなるほどに、難易度が急変する可能性も考慮に入れて3人は攻略を続ける。
しかし1層2層と進めて行っても、特に大きな変化は現れない。肩透かしを食らった気分になりながら、3人は更に下層へと進んで行く。
5層6層7層と、目立った変化が現れないまま8層へと到着。本来のデアゴの洞窟と同じく、最奥にはボス部屋があった。
念の為に警戒はしたまま、ボス部屋に入ったズーク達の目の前に居たのは……ただのゴブリンメイジだけ。
「なあ、これどう思うよ?」
「どう見ても雑魚よね?」
「……(無言の頷き)」
一体どういう事だと頭を傾げながらも、ズークが一撃でゴブリンメイジを瞬殺して終了。
ボス討伐の戦利品として宝箱が出現したが、この調子では大した期待は出来そうにない。
懐疑的ながらも念の為にバックスが慎重に宝箱を開けた。中に入っていたのは、何かの部品に見える金属の欠片だった。
何かが嵌る様な溝があり、装飾らしい部分も見受けられる。だが何に使うのかも不明であり、3人に使い道が分からなかった。
とりあえず一旦回収だけはしておいて、2人は他に何かないか探索を開始。すぐに次の層へと進む通路を発見し、3人は訝しみながらも先へと進む。
「一応続きはあるんだな」
「案外先は長いのかしらね?」
「…………」
未発見のルートと言うわりに、イマイチ手応えのない展開に困惑するズーク達。まだ続きはあるらしいので、とりあえず探索を続ける。
このまま何もなく終わるのか、丁寧に段階を踏ませるダンジョンなのか。答えの出ない謎を抱えたまま、3人のダンジョン探索は続いた。




