第149話 救出へ向かう男達
魔族の戦士アザミナとの激闘の果て、無事に身柄を確保したズークとリーシュの2人。アザミナが暴れないように拘束していると、騎士団からの伝令が届く。
ちょうどズーク達が戦っている間に、プロスペリタ王国へと調査に出ている2人から連絡が入ったのだ。
レーナがカッティーヴォという商会に誘拐されたという事実を。現地で調査をしているメアリーとエリオットから、目撃した詳細が全て届いていた。
ここに来て色々な出来事が、ズーク達の中で繋がっていく。これまでの妨害行為が全てレーナを誘拐する為だったのならば。様々な出来事に納得が行く。
モンスターや暴漢たちを隠れ蓑に、本命のレーナを誘拐する。手間は掛かるが、上手く行っていれば真の狙いに気付かれ難い。
質の悪い暴漢にでも攫われた事にしてしまえれば。そうすればこうして、本拠地までバレる事は無かっただろう。
「……驚いたわ。ズークのギャンブル狂いが役に立つ日が来るなんて」
リーシュはとても驚いた様子で、ズークの方を見ている。ここまで主犯格達が追い込まれていたのは、大体ズークが原因である。
ただケイバが好きだからと、普段なら進んでやらない護衛任務を受け続けた。休みの日でも頻繫に顔を出しているので、かなりの抑止力となっていたのだ。
「え、たまにはストレートに褒めてくれない?」
一刺し加えるリーシュへとズークが抗議するが、もちろんスルーされる。こんな事が頻繫に起こる筈がないので、当たり前である。
そもそも借金を抱える事になったのは、ズークの金遣いの悪さが原因なのだから。
それはそれとして、少数精鋭を送り込みレーナの救出に向かう作戦が進行中だと騎士は言う。
冒険者ギルドとも話はついており、ズークの派遣が決まっている。今回ばかりは、幼い少女の命が掛かっている。まともな装備も支給される事が決まっていた。
「言われるまでもねぇ! 俺は行くぞ」
「はいはい、最後まで付き合うわよ」
ズークが勝手な事をしないように、監視役としてリーシュが同行を決める。そもそもレーナの事が気掛かりだという理由もある。
知らない土地へ強制的に連れ去られたのだから。ズークはギャレットファームの関係者達に、必ずレーナを連れて帰ると宣言して出陣する。
リーシュと共に騎士に連れられてローン王国の王城へと向かう。殆どの国には、他国の要人が行き来する為の転移陣が用意されている。
だがその使い方には厳重なルールが定められており、好き勝手に使う事は出来ない。
どちらか片方だけの承認だけでは、起動しないようになっている。そうでなければ、どちらかが一方的に他国の王都へ軍隊を送り込めてしまう。
他にも様々な制約があるが、今回は緊急事態である。プロスペリタ王国側としても、自国の商人が他国の少女を誘拐したという負い目がある。
幾つかの確認を省略し、略式の承認で転移が行われる。ローン王国王城の、特別な許可がないと入れない地下に、転移の間と呼ばれる部屋がある。
大きなドアを開けると、数名の騎士が既に待機していた。床に刻まれた転移の魔法陣が、青い輝きを放っている。準備は既に出来ており、こちら側から転移を始めるだけだ。
「待たせた、やってくれ」
ズークが魔法陣の外側で待機している宮廷魔法使いへと声を掛ける。
ズークとリーシュが魔法陣の中に足を踏み入れると、一瞬にして2人の視界が変化する。
次の瞬間には、全く室内の様子が違っていた。同じ石造りではあるものの、色味が違う建材が使われている。
そして何よりも、先程まで居なかった人物が転移の間に居た。緑色の髪を持つ小柄な女性と、蒼い髪の青年が立っていた。
ローン王国騎士団所属の槍使いであるメアリー。そして新人騎士ながら期待されているエリオットだ。
「ようメアリー! 手伝いに来たぜ」
「ズーク殿、お待ちしておりました」
普段から付き合いのある2人は、気軽に挨拶を交わしている。こうして一緒に仕事をする機会は何度もあった。
しかしもう1人の騎士については、これが初めての事である。
「エリオット? 貴方も参加していたのね」
「お久しぶりです先生、また貴女と会えて光栄です」
ローン王国の王立魔法学園にて、一時的に教鞭を取ったズークとリーシュが授業で教えた相手。
当時は腐っていたが、リーシュのお陰で立ち直った青年。今では立派な騎士として、現場で活躍をしている。
「ズーク先生も、お久しぶりです」
「……おお! あの時の奴か! 元気だったか!」
少しだけ旧交を温めて、すぐに本題へと移る。1人の少女の命と人生が掛かっている。あまりのんびりはして居られない。
「それでは私が、ここからの流れを説明します」
メアリーが代表して、ローン王国から来た救出部隊へと説明を開始。誘拐の容疑でプロスペリタ王国の衛兵たちが表からヴィルターの屋敷へと向かう。
その隙を突いて、レーナが別の場所へ移されてしまう前に救出する。既に突入のルートは確保されており、地下水道から屋敷の中へと侵入する。決行は数時間後となっていた。




