第148話 草原での決戦
それなりの怪我を負ったアザミナだったが、全く止まる気配がない。むしろ闘志を滾らせて、より強引な戦闘を続けている。
狂戦士という言葉に相応しい大暴れだ。右肩から流れる血はそのままに、戦斧を手に荒れ狂う。
「あははは! 楽しいなぁ、お前達!」
狂気の笑みを浮かべながら、アザミナがズークへ斬りかかる。火炎を纏った刃が、ズークのすぐ脇をすり抜けていく。
ギリギリで回避したズークは、反撃に水を纏った魔法剣で斬りつける。
「もう良いだろう! 諦めて降伏しろ!」
戦斧の柄でギリギリ刀身を受け止めたアザミナは、笑みを浮かべたまま拮抗する。
「まだだ! まだ私は生きている!」
「死ぬまで戦う気なの!?」
隙を突いて攻撃したリーシュは、突きの一撃を回避されてしまった。アザミナとズーク達の間に距離が出来る。
笑ったままのアザミナは、楽しそうにリーシュの問いに答える。
「奴隷へと落ちた私が、唯一許された楽しみ。お前達のような強者との死合。その中で散るというなら、私は本望だ」
堂々と言い放つと、アザミナは再び突撃を慣行。ズークとリーシュへ容赦なく攻撃を続ける。
だが2人はアザミナを殺すわけには行かない。連れ去られたレーナを、どこへ転移させたのか調べる必要がある。
ヴィルター達の動きをまだ掴めていない2人にとって、唯一の手掛かりはアザミナだ。
どれだけ時間が掛かろうとも、アザミナから情報を得る必要があるのだ。ここで斬り殺すという選択肢はない。
「さあ楽しませろ! この私を!」
「くそっ!? 厄介な奴だ!」
死ぬ気で向かって来る相手を、殺さないように制圧する。言葉にするのは簡単だが、実行するのは非常に難しい。
相手は手負いの獣に近く、死を恐れずに向かって来るのだ。これほど厄介な相手はいない。
まだアザミナが弱ければ、どうにかなったかも知れない。だがアザミナは、Sランク冒険者であるズークに近い実力を持っていた。
リーシュと同等か、もしくはそれ以上の戦闘力を誇る。2人掛かりでも、まだ制圧出来ていない。
それだけ隙が無く、持久力も高いという事。背後を取ったとしても、容易に有効打を入れさせてはくれない。
ズークの入れた一撃が、アザミナのスイッチを入れてしまったのだろう。負傷した事で、危機察知能力が向上している。
命を賭けた戦いだという意識が、尚更そうさせるのだろう。
「ズーク、1つだけ手があるわ」
「本当か!?」
リーシュの持つ攻撃スキルの中に、魔力を闘気へ変換するものがある。その中に、相手へ闘気を直接ぶつける攻撃がある。
防具の有無に関係なく、肉体へと直接叩き付ける。殺傷力が高くない代わりに、意識を刈り取る事が出来る。
今のような状況にはピッタリの技だ。ただ剣を使わない格闘術で、密着して放つ必要がある。アザミナを相手に、かなり難易度が高い。
「ほらどうした! 私はまだ生きているぞ!」
まともに相談する暇もなく、アザミナの攻撃を防ぎ躱すズーク達。視線のやり取りだけで、どうにか意思疎通をした2人は行動に移る。
切り札が格闘術だとバレないように、リーシュはギリギリまで大剣で戦い続ける。そしてズークは、出来る限りアザミナを釘付けにする必要があった。
まともな防具を持たないズークには、かなり厳しい戦闘を強いられる。リーシュが来る前のような、ギリギリの戦いだ。
「はぁっ!」
だがそれでも、ズークは果敢に挑んで行く。普段はふざけた男だが、彼は1つだけ絶対に守っているポリシーがある。
どれだけ相手が悪い女性でも、自分の手では殺さないというもの。捕まえた後で、死刑になるのは仕方ない。だが自分では絶対に殺さないと決めている。
「楽しいなぁ! やはりお前は良いなぁズーク!」
「お気に召したみたいでっ! 何よりだっ!」
激しい攻防を続ける2人と、隙を伺い続けるリーシュ。魔力を闘気へ変換し、掌へと集中させて集めて行く。
露骨過ぎて悟られないように、ちょくちょく合間で攻撃を挟む。常人ならばとっくに命を落としているであろう、ハイレベルな攻防が続く。
僅かなズレで直撃を貰ってしまうような、ギリギリの戦いだ。一瞬の隙が命取り、相手の姿を見失ったら終わりだ。
草原を駆けながら戦う3人は、もう一流の者にしか見えない速度で戦っている。素早い斬撃が、霞んで見える程の速度を見せている。
そんな攻防が続く中、ついにリーシュが動き始まる。戦斧を受け止めたズークが、背後へ飛ばされる。
その瞬間を狙って入れ替わるように現れたリーシュが、腕を伸ばしアザミナの腹部へ両の掌を当てた。
「喰らいなさい!」
「何を!?」
防具の上から肉体へと、直接闘気の波動を叩き込む技。闘破衝と呼ばれる近接格闘スキル。
眼には見えない闘気の波動が、防具を無視してアザミナの体内で炸裂する。激しい衝撃がアザミナの全身を襲い、脳を大きく揺らされたアザミナが崩れ落ちた。
一時は魔族の将でもあった武闘派のアザミナを、2人はどうにか止める事に成功した。戦場となった草原は、あちこちが焼け焦げてしまっていた。




