第147話 到着する援軍
ズークとアザミナの戦いは終わらない。ズークはどうにか牧場への被害を減らす為、少しずつ敷地内から外へと誘導していく。
ただでさえ装備差が大きい中で、誘導していくだけの技量がズークにはあった。
しかしその意図までは隠しきれず、アザミナに気付かれていた。そんな健気なズークの努力を、アザミナは賞賛する。
「健気じゃないか! 弱者を守ろうとするその姿は!」
「くっ!?」
アザミナは弱者を甚振って楽しむタイプではない。現在の主であるヴィルターのような、強者の立場から好き放題をする行為を嫌っている。
こんな命令を遂行せねばならない事だけでも、アザミナは大きなストレスを抱える。だからこそズークとの戦いを、心から楽しんでいる。
十分な装備でなかった事は残念に思うが、それなりの剣1本だけで十分戦えている。
奴隷へと落ちたアザミナが、唯一許された楽しみ。戦わねばならなくなったという名目で、思い切り強者との戦闘を満喫する。
「さあ、次はどうする? ズークとやら」
「……結構待たせてくれたな」
アザミナは質問に対する回答として、噛み合っていないズークの言葉に疑問を覚える。だが次の瞬間には、背後から迫る気配を察知する。
「ごめんズーク! お待たせ!」
駆け寄って来たのは、輝く金髪のポニーテールが特徴の女性。身の丈と変わらない大きな剣を手に持ったリーシュが増援として現れた。
「頼むぜリーシュ、もう少しで大怪我するところだったぞ」
実際ギリギリの戦闘を強いられていたのは事実だ。腕の1本ぐらい、斬り飛ばされてもおかしくは無かった。
それだけの実力をアザミナは有しており、殺さずに捕まえる為にはもう1人必要だった。
「戦いが好きなんだろう? もう1人増えても構わないよな、アザミナ?」
「ああ構わないとも。お前とも戦ってみたかったぞ、金色の剣聖!」
おもむろにアザミナは、リーシュへと斬りかかる。ズークとリーシュの2人に興味を持っていたアザミナは、当然リーシュの二つ名を知っている。
「ちょっと!? いきなり私!?」
「お前の話は聞いている! カーロの大会でも優勝したとなぁ!」
大きな戦斧と巨大な剣が、硬質な音を立ててぶつかり合う。だが今は2対1、アザミナが数的に不利な状況だ。
リーシュへと斬りかかれば、当然ズークがフリーになる。その隙を突いてズークが攻撃を仕掛けるが、反応出来ないアザミナではない。
背後から迫るズークへと、炎を纏う蹴りを繰り出す。金属製のブーツが、ズークの魔法剣とぶつかる。
「そんな技まで使えたのかよ!?」
「ははは! 楽しいなぁお前達!」
2人を相手にアザミナは一向に退かない。むしろ先程までより激しさを増し、様々な戦闘スキルを駆使して戦い続ける。
魔族という人間より優れた肉体を、余すことなく発揮させている。腕や足も使って、ズークとリーシュへ猛攻を仕掛けていく。
激しい戦闘が繰り返され、剣戟の音はどんどん激しくなる。
「流石魔族ね……頑丈過ぎるでしょ」
リーシュは額から汗を流しながら、ズークの隣に着地する。大剣を構えて、アザミナの動きを観察している。
「これを捕まえるのは苦労するな」
「全くね」
ズークとリーシュの2人を相手にしても、浅い傷しか負っていないアザミナ。
肉体が頑丈だというのもあるが、単純にそれだけアザミナが強者であるという意味でもある。鍛え抜かれた肉体が、高い防御力とスタミナを実現している。
「もっと私を楽しませろ!」
狂気の笑みを浮かべながら、アザミナが2人へ肉薄する。奴隷と言う立場に落とされてしまった事で、歪んでしまったアザミナの戦闘を求める欲求。
誇りある戦士だった女性は、抑圧された心により狂戦士としての一面を覚醒させた。
目覚めてしまった心が、自らの命も省みずに戦いを求める。激しく攻め立て、攻撃の手を緩めない。
2対1になっても、厳しい戦いを強いられるズーク。リーシュが主に防御を、ズークが攻撃を担当するが止めるまでには至らない。
「アンタ、元気過ぎるだろ!」
「普段は幽閉されているからさぁ! 外を楽しまないとなぁ!」
細かい傷が増え、血を流しながらでもアザミナは暴れ回る。ただ楽しそうに笑いながら、突撃を繰り返す。
リーシュはズークが苦戦していた理由を察した。こんな相手、そうそう出会う事はない。
戦闘が好きな血の気が多い者は居る。だがアザミナ程の強者かつ、厄介な相手は多くない。実力主義で有名な魔族でも、特に好戦的な種族と思われる。
「ズーク!」
リーシュが上手くアザミナの攻撃を受け流し、アザミナの隙を上手く作った。
「ああ!」
強風を纏わせるテンペストブレイド、強力な魔法剣を使用した一撃がアザミナへと向かう。
戦斧を持つ右手側、肩へと向かって刃が進む。だがアザミナは歴戦の戦士、そうあっさりと直撃は貰わない。
「ぐぅっ!?」
ギリギリで後退したアザミナだったが、見えない刃に切り裂かれる。直撃ではなかったが、有効打というには十分なダメージを与えた。
アザミナの右肩から、血が拭き出す。しかしそれでも、アザミナの眼から闘志は消えていなかった。




