第141話 牧場への来客
娼館通いがバレたズークは、ギャレットファームの防衛にねじ込まれた。
暇を与えるとロクな事をしないと判断され、ファウンズ支部長が強引に決定した。
休みを潰されたズークはやや不満げだが、ケイバ絡みの仕事であったので良しとしている。
良しも何も、自分の立場を弁えろという話である。戦闘と関係ない事には相変わらず学習しない男である。
「ほら、シャンとしなさいよ」
本来は休みなのだが、特別に報酬を貰っているリーシュはズークの監視役である。わざわざその為にここまで派遣されている。
無報酬で無かったのは幸いだが、彼女も相変わらず不憫な女性だ。このようなおバカの監視係を、何度もやらねばならないのだから。
「分かってるけどさ~」
赤髪の見た目だけならカッコイイ男、ズークはもう1件ほど娼館を楽しみたかったと思っている。
その資金はどうするつもりなのか分からない。考え無しに浪費し、下半身で生きる男である。
「ホント、ズークはスケベよね」
「それだけ素晴らしい女性が、この世に多いのだから仕方ない」
言っている事だけを抽出するなら、それなりに良い事だろう。ただやっている事はただの娼館通いだ。
全くカッコイイ要素は皆無である。だと言うのに、決め顔で言い切ってしまうのだから残念でならない。
そんないつもの会話を繰り広げながら、ズークはギャレットファームの巡回を行っている。
最近もまた魔物の集団が、転移で牧場の周辺に出現する現象が起きていた。
再び警戒度は上がっており、会話の内容はマヌケでも周囲へ向ける視線は真剣だ。
相変わらず目的は分からないままで、全てに注意せねばならない。ただ1つ分かっている事は、幾つかの国に怪しいと思われる組織があった事だ。
ローン王国の騎士団から精鋭が派遣され、大陸東の国々で調査は進んでいる。
優秀な騎士団を持つローン王国を相手に、新たな戦術を試している可能性がある傭兵団。
幾つかの大きな牧場に、恨みを買っている可能性もあった。大陸で最大のケイバ大会で、ローン王国に敗北した牧場が恨み節を溢していたという情報がある。
他にも幾つかの商会が、怪しい動きをしているという話を、ズーク達は聞かされていた。
そろそろ捜査も大詰めを迎えており、犯人が判明するのも間もなくだろうと言われている。
「先日の視線、結局なんだったのかしらね?」
リーシュが娼館からズークを連れ戻した日に一度だけ、2人へ向けられていた探るような視線。
2人に位置を悟らせない、明らかな強者から向けられた興味。他国から来ていた高位の冒険者か、はたまた傭兵の類か。
思い当たる節は幾つかあるものの、これだという確信は持てない。
「この前、闘技大会に出ていた奴とか?」
「カーロ共和国の? あり得なくはないけど……」
イマイチこれと言った確信を持てないまま、2人は牧場の中を周っていく。
暫く見回りを続けていると、牧場主であるオーウェンが来客の対応をしていた。
熊のような大きな体を持つ中年男性と、小太りの同じぐらいの年齢の男性だ。
もうズーク達が何度も見慣れている、ユニコーン専門の商人であるガンツだ。しかし今日はそれだけでなく、見た事ない裕福そうな30代の男性も居た。
「誰だアレ? リーシュは知ってる?」
隣を歩くリーシュに質問をするズーク。少なくとも彼の記憶には無かった。女性じゃ無いから覚えていないのではなく、本当に会った事がない人物だった。
「確か、別の牧場の人だったかな? 名前は……メンデルさん、だったかな」
「ほう! それなら知り合いになっておきたいな」
ケイバの関係者というなら、是非お近づきにならねばとズークが興味を示す。どのユニコーンやバイコーンを擁する牧場だろうかと。
明日はそっちの牧場に行ってみても良いかもと、期待しながらズークが近付いていく。
するとメンデルの背後には、仮面を付けた女性が立っているのが見えた。彼の護衛を務めている冒険者だろうかと、ズークはそちらへも興味を持った。
仮面で素顔を隠しているのも、ミステリアスで良い等と考えながら。
「……ん?」
一瞬仮面越しに、彼女と目が合ったような気がするズーク。その一瞬の交錯から、どこか既視感を覚えるズーク。
ふと思い返すと、先日の視線と似ている気がした。素顔こそ見えていないが、少なくとも軽鎧の上からでも分かるスタイルの良さ。
カレンやリーシュをも超える大きな胸。きっと素顔も美しいに違いないと勝手に決めつけたズークは、美女から興味を向けられていた事に気を良くする。
にこやかに笑いながら、ヒラヒラと手を振ってみたが無視されてしまった。
「恥ずかしがり屋なのかな?」
どこまでも能天気な感想を漏らすズーク。どう考えてもそういう事ではないだろう。
「何バカな事やっているのよ」
リーシュに脇を肘で突かれながら、ズークはメンデルと接触を試みる事にする。
出来れば護衛らしき女性ともお近づきになりたいなと、下心もしっかりと持ったままで。
明らかに浮かれているズークを見て、リーシュはため息を吐いた。




