第139話 悪巧みする男達と戦士
レーナを手に入れる為に暗躍するカッティーヴォの面々。
魔族の戦士アザミナを派遣する事に決めた彼らは、ローン王国へとアザミナを送り込む。
魔族の多くは転移の魔法を使う事が出来る種族だ。人間でも習得は可能と言われているが、適正のある者はかなり少ないのが現状だ。
故に人間達は、基本的に魔道具で転移を行う。ただしそれなりに高価なので、稼いでいる者でないと使えない。
国であれば転移の魔法陣を所有しているが、自由に個人が使う事は出来ない。あくまで友好的な他国とのスムーズな物品のやり取りに使うだけだ。
個人レベルだと庶民では少し買うのを躊躇う金額だ。稼いでいる冒険者パーティであれば、ダンジョン攻略用に購入するのが普通だ。
普及はしているものの、誰でも持っている程ではない。そんな存在である転移の魔法を、個人レベルで使えるのが魔族の強みである。
ただ幾らかの制限があり、どこへでも行ける程に便利でもない。例えば王宮など、転移対策が施されている場所は行けない。
それから知らない場所へも行けない。便利ではあるが、万能とまでは言えない。
その点魔道具の方は、座標の指定だけで行ける分やや魔法より利便性は高いだろう。
だが一度使えば終了の使い捨てである為、どちらか一方が優れているとは言い切れない。
ただ今回のように、一度行った事のある個人の転移であれば魔法一択だ。
カリオンファームを利用するつもりであるペンテの下へ、アザミナは転移を挟んで向かう。
一度ローン王国へと入り、数日掛けて王都へと入った。今や魔族でも普通に人間の国へと訪れるので、わざわざ正体を隠す必要はない。
しかしアザミナの場合はそうではない。幾つかの国でヴィルター指示により犯罪行為を行っている。
下手に顔を晒さない方が良い。だから彼女はフードを被り仮面で顔を隠している。
少々怪しい格好とも言えるが、現在のアザミナよりも奇抜な格好の冒険者は多い。
特に怪しまれる事無く、正門を潜り指定されている酒場へと向かう。極力急いで移動を続けたアザミナだったが、既に陽は落ちかかっている。
そろそろ月が天で輝く時間が迫っている。約束の酒場へ入ったアザミナは、テーブルで1人座っているペンテと合流する。
「少し遅いんじゃないか?」
既に酒を飲んでいたペンテは、やや赤い顔でアザミナへ文句を言った。
「これでも最速の移動だ。文句を言われる筋合いはない」
仮面のせいでやや声がくぐもっているが、しっかりとアザミナは否定する。
乗り気でないのは当然だが、サボった事実はない。謂れのない苦情を聞き入れる気はなかった。
その態度が気に障ったのか、ペンテは下卑た表情でアザミナの臀部に触れる。
「自分の立場が分かっているのか?」
「ふんっ……どうやら娼婦を買う金すら無いらしい」
ペンテはアザミナの言い分にカチンと来たが、こんな所で騒ぎを起こすわけにも行かない。
生意気な態度だったと、ヴィルターへ報告しておくと負け惜しみを言う。あまりにも情けない姿だったが、幸いアザミナしかこの場を見ていない。
不服そうな表情でペンテはアザミナへ座るように伝える。店員にアザミナの分も注文して話を進める。
「目的は分かっているな?」
「例の少女だろう? 分かっている」
目的の確認を済ませている間に、手を組む予定であるカリオンファームのメンデルが姿を現す。
30代の少し疲れを感じさせる優男だ。彼はアザミナの格好を少し訝しんだ。だが過去に怪我を負ったせいだと言われると、納得して気にしなくなった。
そのままこれからの打ち合わせに話を切り替える。ここは騒がしい酒場であり、直接的な単語さえ出さなければ問題ない。
せいぜい取引の話か冒険者への依頼と思われる程度だ。何より他の客が話している内容など気にする客はいない。
今も冒険者達がゲラゲラと大笑いをしている。彼らの喧噪に紛れてしまえば、3人の会話などかき消されてしまう。
「ではメンデル殿、彼女を雇った冒険者だという方向性で1つ」
「え、ええ。分かりました」
ローン王国内で誘拐事件を起こした場合、相手と目的に見合った年数の禁固刑が科せられる。
しかも相手はまだ幼い少女である。メンデルは良心の呵責を覚えているが、背に腹は代えられない。
自身の牧場を維持する為に、悪事へと加担する道を選ぶ。あくまで自分は誘拐犯ではなく、ただ手を貸しただけだと言い聞かせて。
たまたま雇った冒険者が、勝手な事をするだけなのだと。
「さあさあ、今日は奢りですから。お好きに頼んで下さい」
ペンテはニコニコと笑いながら、メンデルへとお酒を勧める。硬い表情だったメンデルも、少しずつ明るい表情を見せるようになっていく。
成功した未来の話に花を咲かせながら、ペンテと笑い合っている。そんな2人の人間を見ながら、アザミナは1人酒を飲む。
男2人の情けない姿を内心で軽蔑しながら、そんな連中の言う事を聞かねばならない自らを嗤う。
いつか自分が解放され、再び誇りを持って戦場に立てる日が来る事を望みながら。




