第136話 鑑定士見習いの悩み
ローン王国の冒険者ギルド、キャッシュ支部にて働いている若き青年。
鑑定魔法の才能を持っていたレオンは、今日も真面目に働いている。彼は最近ベテラン受付嬢のカレンと、少し仲が深まりつつある。
単なる上司と部下ではなく、たまに夜を共にする関係だ。しかし交際をしているとまでは言えず、曖昧な関係が続いている。
レオンは自分が伴侶として相応しい地位になく、まだ見習い鑑定士である事を気にして。
カレンは年齢差を気にしてそれ以上踏み込まない。それでも2人は幸福感を感じているので、敢えて答えを出さずにいる。
曖昧だったとしても、それでも得られる幸せはある。
「レオン、今日も頑張っているわね」
「あ、カレンさん。ありがとうございます」
しかし仕事は仕事であり、公私混同をしないように2人は気をつけている。
あくまでただの同僚として、ギルド内では接している。1階の鑑定室に顔を出したカレンは、レオンを労いつつ飲み物を手渡す。
傍から見れば先輩が気遣ってくれただけ。元々カレンは部下に優しい女性だったのもあり、大きな違和感を周囲に与える事は無い。
しかし薄っすらと2人の変化に気付いている者も居る。主に女性の職員達で、密かにカレンとレオナの応援をしている。
姉さん女房のカレンと、真面目で誠実なレオンというカップル。それは女性目線だと中々見応えがある。
あくまで一定の距離を置いて密かに楽しむ。そういう娯楽の意味も含まれている。
だが男性陣はそうじゃない。2人の仲に気付いてはいないが、揶揄う者は何人かいる。
「なあレオン、最近カレンさんと仲良いよな?」
2人のやり取りを見ていた先輩のマークが、ニヤニヤと笑いながらレオンに話しかける。
「えっ? そ、そうですかね?」
「何だよ、何かあったのかよ」
肘でレオンを小突きながら、カレンと仲良くしている事を弄る。男性同士らしいやり取りだ。
「い、いやいや。何もありませんよ!」
本当は色々とあるのだが、カレンのプライベートまで明かす事になってしまう。女性の日常生活を勝手に異性に話すのは問題だろう。
ただでさえ性的な行為が絡む内容だけに尚更だ。レオンとしては冒険者時代から憧れていた女性と、肉体関係を持てた事は嬉しい。
だが自慢して回る気はない。自分なんかが、カレンに相応しいと思っていないから。
たまにカレンの気まぐれで、そういう事をしてくれるだけだと思っている。あくまで優しいだけで、好意とは無縁だと思っている。
「何だよ~好みだって言ってたから、付き合い始めたのかと」
「ちょっ!? 聞こえたらどうするんですか!」
レオンは慌ててマークの口を塞ぐ。彼は自分の気持ちをカレンに明かしていない。
流れで肉体関係を持つ事になったが、前から異性として意識していた事を秘密にしている。
それに告白する勇気も持てていない。カレンの年齢を考えれば、交際はイコール結婚を意味するのが常識。
責任を負うだけの覚悟があるかと言えば、今のレオンは持てていない。
「さっさと告白して付き合えば良いのに」
「先輩ほど気楽に、告白なんて出来ませんよ」
マークは明るくコミュニケーション能力も高い。あっさりと女性との交際を決めている。
だがレオンはそんな真似は出来ない。そもそも女性との交際経験がない。
先輩達から恋人ぐらい作れと散々言われているが、レオンはそれだけの目的で異性と交際する気にはなれない。
どうしても不誠実だと感じてしまう。じゃあ今のカレンとの関係は誠実なのかと言われたら、それもまたどうなのかと悩んでいる。
高ランクの冒険者になれていたら、養うと宣言して交際を申し込むのに。どうしてもそんな事をレオンは考えてしまう。
ベテラン受付嬢のカレンが稼ぐ月収と、見習いの自分では格差が大きい。どこかのおバカな赤髪のように、考え無しに女性と関係を持てるタイプではない。
「別に気にするなよ細かい事なんて。パッと告白して、一度寝てしまえばそれで何とかなるぜ」
「そ、そんな適当な……」
ざっくりとしたマークの助言に呆れるレオン。大体それで何とかなるなら、自分はもう付き合えている筈だとも思う。
肉体関係だけなら既に結んでいる間柄だ。にも関わらず、交際には至っていない。カレンの気持ちを聞く勇気もなく、ズルズルと続けている。
自分の気持ちだって、憧れなのか恋心なのかハッキリしない。悩みながら仕事を終わらせたレオンに、カレンが声を掛けに来る。
「ねぇ、レオン。今夜も一緒に飲まない?」
「え、ええ。構いませんよ」
誘われたら断れず、レオンはカレンと共に酒場へ向かう。お酒の勢いに任せたら、聞けるのではないかとレオンは考える。
しかしいつも、結局は聞けずに終わっている。ただの気まぐれなのかと、確認する勇気が持てない。
もし聞いてしまったら、この関係が終わるかも知れない。そうなるぐらいなら、今のままでいる方が良い。
結局誘惑に負けて、レオンはまたカレンと夜を共にする。自分の気持ちとカレンの気持ち、その真実に踏み込めないまま溺れて行く。




