第135話 続・悪巧みをする男達
プロスペリタ王国の王都シェントロにて、とある男達が会話している。
大商会の1つであるカッティーヴォ本店の一室。商会主のヴィルターの執務室で3人の男達が集まっている。
1人はこの部屋の主、執務机に座っている中年男性のヴィルターだ。
ネズミを思わせる顔立ちの彼は、イライラと苛立ちながら残る2人を見ている。3
0代ぐらいの小太りな男性、モンスター調教師のスヴァルテ。そしてヴィルターの執事をやっている60代の老人マジョルドだ。
彼らはローン王国のギャレットファームに居る1人の少女、レーナの身柄を欲しがっている。
ヴィルター達は非常にレアな特性持ち、テイマーである可能性を彼女に見ている。
そうで無かったとしても、調教師としては優秀である事は変わらない。
最初はスカウトを考えていた彼らだったが、上手く行かずに誘拐を画策した。
様々な策を練り、犯人が自分達だとバレずに連れ去れる筈だった。だがしかし、未だに上手く行っていない。
「……いつになればあの少女が手に入る? ん?」
ヴィルターは指で机の上を、不機嫌そうに叩いている。隠しきれない苛立ちが、音の大きさに現れていた。
「も、申し訳ございません旦那様……。その、向こうは相当ガードが固く……」
商人に偽装したゴロツキを、直接送り込む作成を立てたのはマジョルドだ。
牧場内で火を放ち、騒ぎになっている間に連れ去る。転移の魔道具を持たせてあるので、逃亡は簡単に行える手筈だった。
だが送り込んだゴロツキは、簡単に捕まってしまった。遠くから監視させていた従業員から、失敗したという報告だけが届いた。
あまりにもあっさり捕まったらしいが、何故バレたのか不明だという。
捕まった理由が分からないのは、マジョルドとしても非常に痛い。
どんな手が有効で、何をすると失敗するのか。そこが分からない事には次の手が打てない。
「それは分かっておる! どうすれば良いのか聞いている! これ以上無駄な投資はしたくないぞ!」
打つ手の全てが失敗に終わり、無駄になったモンスターや魔道具類が大量だ。
まだ商会が傾く程の損失ではないが、決して楽観視出来るレベルではない。
レーナという少女を手に入れれば、補填出来るとは思われるが。だが手に入っていない現状、それは絵に描いた餅でしかない。
このままジワジワと資金が減るだけでは、ただ損失を重ねただけで終わってしまう。現状をどうにかしようと、モンスター調教師のスヴァルテが提案をする。
「やはり、高級奴隷の魔族を使う方が良いのではないでしょうか?」
「奴を使って失敗すれば、損失は馬鹿にならんのだぞ!」
ヴィルターはスヴァルテの提案に反対の様子だ。ヴィルターが所有している高級奴隷の中でも、特に高価な奴隷がいる。
それは高位魔族の女性であり、権力闘争に敗北した結果売られてしまった存在だ。
能力が非常に高く有能で、戦闘力もかなりのもの。見目麗しい女性でもあるので、そういう意味でも価値が高い。
現在とある貴族から、売って欲しいと交渉を持ちかけられている。
「ですが……Sランク冒険者すら出て来ている以上、対抗出来るのはアレぐらいですよ」
「ぐぬ……だが……」
もし失敗して彼女が捕まってしまえば、買い付けで払った金が全て無駄になってしまう。
おまけに欲しがっている貴族とも、大きなトラブルになりかねない。そうなってしまった場合、カッティーヴォが受ける損失はとても無視出来ない額となる。
「このままでは結局同じでは? ジワジワと削られるか、賭けに出るかです」
「……うーむ」
スヴァルテの提案に、一考の余地はあるかとヴィルターは考え込む。高位魔族の女性は、現状カッティーヴォが出せる最高戦力だ。
「旦那様、決断の時なのかも知れません」
マジョルドもまたスヴァルテの提案に乗っかる。これ以上確実性の怪しい作戦を続けるより、まだ幾らか可能性がある方法を選ぶべきだと。
失敗すれば確かに大きな損失だが、成功すればこれまでの損失を取り返せる。損失を恐れてチマチマと攻めていたのでは、いつまで経っても成果は出ないと。
「それに旦那様、ちょうど良いタイミングでローン王国の土地が、手に入りそうなのですよね?」
「あ、ああ。まあそうだが」
若い2人の姉弟と偶然知り合って、土地を売って貰えるかも知れない。真実を知らないヴィルター達は、運が向いて来ていると判断する。
「これは流れが旦那様へ向いている証拠では?」
「そ、そうですよ!」
マジョルドとスヴァルテが、畳みかけるように後押しをする。今ならきっと上手く行くに違いないと。
本当に運が向いているなら、とっくに成功している。そんな当たり前の事に気付く事も無いまま、彼らは自分達に都合の良い事ばかり考える。
失敗が続いているせいで、冷静な判断が下せなくなっている。
「た、確かに、そうかも知れんな……」
2人の発言を受けたヴィルターは、少しずつそんな気がし始めている。運が自分の味方をしてくれているようだと。
例の姉弟が、ローン王国の騎士だと知らない3人は誤った道を選び続ける。




