第133話 偽装姉弟の2人
緑色の髪をした可愛らしい姉を演じている小柄なメアリーと、蒼い髪の優しい弟を演じているエリオット。
2人の騎士はプロスペリタ王国の調査を行っている最中だ。
王都シェントロに本拠を構える大商会、カッティーヴォとその商会主であるヴィルターを現在調べている。
悪い噂なら幾らでも出て来る男で、王都で暮らす人々に話を振ると、すぐに愚痴を聞かされるぐらいだ。
2人の話術が高い事も理由ではあるのだが。他国から来た人間だというのも大きく、少々ヴィルター文句を言った所で、本人には届かないからだ。
「ったくよぉ! アイツのせいで大損こいたぜ」
酒場で商人風の男性が、メアリーとエリオットに愚痴を溢す。投資詐欺に引っ掛かった過去がるらしい。
高くなると言われた土地を買ったら、地質が悪くて購入した価格を下回ったそう。
結構な額を失ってしまい、詐欺だと訴えたが受理されず。しっかりと貴族を味方にしており、糾弾する事が難しい。
「そうなのですか、大変でしたねぇ」
メアリーが上手く愚痴を引き出し、脳内にあるヴィルターの悪事リストを更新する。
相当な悪事を重ねているが、一度も捕まった事はない。一部の貴族達も問題視しているのだが、対抗勢力が多く処罰出来ずにいる。
「あんな店には行くなよ。ボウズもしっかり注意しろよ。こんな綺麗な姉ちゃんが居るんだから」
「ええ、姉さんの事は僕が守りますから」
カッティーヴォは傭兵や調教したモンスターを所有している。暴力で解決する事も多くあり、非常に厄介な悪徳商会だ。
2人の様に異国から来た若者を見ると、彼らは口々に気を付けるように助言をして来る。
2人はただの平民を装っているのだから、注意を促すのは当然だった。本当はローン王国の騎士であり、メアリーは相当な手練れだ。
エリオットも新人にしてはかなりレベルが高い。普通の傭兵に囲まれた所で、そう簡単にやられはしない。
「色々とありがとうございました。じゃあ私達はこれで」
「おう、またな!」
気分よく酒を飲んでいる商人の男性に別れを告げて、2人は酒場を出て行く。
外はすっかり日が落ちており、月明かりと星々の輝きが大地を照らしている。
魔道具の街灯も等間隔で設置されているので、夜であっても通りはまだ明るい。
もう少し調査を続けようと、2人は別の酒場を目指す。国王の誕生祭が近いのもあり、遅い時間でも観光客達が飲食店に集まっている。
通りを歩く人々もまだそれなりにいる様子だ。
「それにしても、良くこの有様で取り潰しになりませんね」
エリオットはカッティーヴォが、まだ営業を続けられている事を疑問に思う。それ程までに庇い立てする厄介な貴族が居るのかと。
「結構な税を収めているみたいよ。それに軍需産業で成功をしているしね」
モンスターの増加により、戦力を売れる者達はかなり外貨を稼いでいる。
国力を更に上げたい者達からすれば、ヴィルターには一定の価値があるのだ。
あくどく商売もしているが、出している成果も無視は出来ない。多少の犠牲は仕方ないと、目を瞑っているのだろう。
そんな会話をしながら歩いていると、貧民らしき少年が2人へ声を掛けて来た。衣服が古くてボロボロだ。
「あの、そこの路地裏で人が倒れているんです。一緒に来てくれませんか?」
「ええ、構わないわよ」
メアリーは貧民だからと、差別をする様な女性ではない。快く引き受けて、少年の案内に従う。
流石に路地裏ともなれば、表通り程明るくはない。薄暗い路地の隙間を通って行くと、少々開けた場所に出た。
そこに待っていたのは、倒れている人間ではなかった。
「つ、連れて来たからもう良いだろ!」
少年はそこにいた男達に告げる。5人のガラの悪そうな男達が、ニヤニヤと笑いながら2人を見ている。
「ほらよ、駄賃だ。持って行きな」
リーダー格らしい頭にバンダナを巻いた男が、少年に銅貨を投げ渡す。
受け取るなり少年は駆け出して、どこかへ消えてしまった。残されたのはメアリーとエリオット、そしてチンピラ風の男達。
「お前らだな? ヴィルターの野郎が欲しがっている物を、持っている姉弟ってのは」
5人の男達は、どこからか情報を聞きつけて来たらしい。奪ってヴィルターへと売りつけようと考えたのだろう。
正確な情報では無かったらしく、ローン王国の土地だと知らない様子だ。
「持ち歩ける様な物ではありませんよ」
メアリーが冷静に回答する。土地を持って歩ける者など居ない。無駄な行為だと告げる。
「どうだって良いんだ。お前らを縛って連れて行きゃあ、どうとでもなるんだろう?」
下品な笑みを浮かべながら、男達は2人を取り囲む。思わず2人はため息を吐く。どこにでもこんな連中が居るのだなと。
「今なら見逃す、引き返せ」
エリオットが警告を加える。無駄だと分かってはいるが、騎士道に反する行動は取りたくは無かった。
当然彼らが聞き入れる筈も無く、一方的な戦闘が始まる。暫くすると路地裏から無傷のメアリーとエリオットが出て来た。
「うーん。面倒ですけど、変装した方が良いかも知れないわね」
メアリーがそう呟くと、2人は夜の街へと消えて行った。




