第131話 一方その頃問題児は
メアリーとエリオットが潜入調査をしている頃、ローン王国に居るズークはいつもの日常を送っていた。そう、ある意味ではいつも通りである。
「これは騎手のお姉さん、とても綺麗な方ですね」
白昼堂々とバイコーンの騎手をやっている女性をナンパしているのは、赤髪の下半身で生きている男。
これでSランク冒険者なのだから悲しい話である。腰まである金髪の美女を相手に、積極的に話しかけている。
何故ズークがそんな行為に出られるかと言えば、大幅な増員により余裕が出来たからだ。
国から十分な資金が出ているのもあって、各牧場を警備する人員はどんどん増えている。
特に何も起きなければ、収入だけが入る美味しい仕事だと知れ渡ったからだ。
周辺国からも参加する冒険者が増えて、ズークが休める日が当初から比べるとかなり多くなった。
ただし休みの日であっても、こうしてギャレットファームやケイバ場を出入りしている。
特に今は警戒状態にあるので、ズークは堂々と関係者しか入れないエリアにも入れる。
こうしてケイバ場のスタッフ専用エリアで、騎手と共に昼食を取っている。
ケイバ場としては、休みの日でもSランク冒険者が居てくれるのだから大助かりだ。無駄に地位と実力だけはあるのがややこしい状況を作っていた。
「そう言ってくれるのは有難いけどね、アタシはもう若くない」
バイコーンの騎手になれるのは、男性経験のある女性だけ。結果的に人妻や妙齢の女性が中心となる。ズークが声を掛けているのも、30代前半のお姉さんだ。
「そんな事はありません、まだまだお若く見えますよ」
「そうやって、色んな女に言っているのかい?」
男性経験をちゃんと積んで来たベテランの騎手は、そう簡単に靡いてはくれない。
人気のある騎手は年収も高く、男性を見る目は確かである。ズークのような軽いノリの男では、そう簡単にワンナイトまで持っていけない。
ただSランク冒険者という肩書は大きく、騎手の女性はそこまで嫌そうにしていない。
この男は見た目と実力に優れている。本当なら資金力も優れている筈なのだが、情けない事に借金返済生活中だ。
ちゃんとしていれば、美女を好きなだけ抱ける男になれた筈だったのに。残念ながらそんな未来はやって来なかった。
「俺は全ての女性を美しいと思っていますから。でも貴女はその上で声を掛けたくなった人だというだけで」
女性に順位をつけない所だけは、数少ないズークの褒められる点だ。容姿だけで女性の優劣をつけない。
年下は対象外という拘りこそあるものの、評価については誰にでも平等である。
ズークはどのような女性であっても、好意的に接する事が出来る。例え相手が悪人であったとしても。
そこだけは一貫して貫き続けている。筋を通すという事は非常に重要である。だったらお金に対しても、筋を通せと言わざるを得ない所だが。
「全てと来たか……アンタ、刺された事ない?」
「今の所はありませんね」
刺されてはいないだけで、未遂なら幾らでもある。例えばローン王国に居る神官のエレナや、カーロ王国で炎剣の異名を持つマリー。
他にも大勢居るズークのハーレム構成員達。彼女達からまだ刺されていないというだけで、斬りかかられた事も刺されかけた事もある。
ズークと結ばれる女性達は共通点があり、殆どのメンバーは独占欲が強い。新しい女性の陰を察知するだけで、激しい独占欲を爆発させる。
扱いが非常に難しく、対応に失敗すると大変な事になる。そしてこの男は、そんな繊細な対応など出来はしない。
「本当かい? 何人も相手にして来ただろう?」
彼女はズークの事を当然知っている。ズークがかなりモテているのは有名な話だ。
何番目の女性でも構わない、そう考える女性からすれば実際魅力的ではある。容姿と体格に優れ、腕っ節も立つSランク冒険者。
貴族位も持っており、収入面も期待出来る(問題はある)。夫とするには十分な要素を備えている。お陰でズークにコロッと靡く女性もそれなりに居るのだ。
「関係を持った全員に、等しく愛を与えていますから」
「その言動で刺されていないのは珍しいね」
読みがはずれたと、騎手の女性は少し驚いている。何も間違っていないのだが、真実を伝えられる人間がここには居なかった。
ツッコミ役が不足している以上仕方がない。誤解を与えたまま、ズークは女性と楽しい時間を過ごしている。
「ですから貴女の事も、ちゃんと愛せますよ」
「そりゃどうも、気持ちだけ貰っておくよ」
騎手の女性は多くの男性からアプローチを受ける。美人や美少女ばかりが採用されるのだから当然だ。
それ故に誰もが対応は上手である。ただ最近は、意図的にふくよかな女性を採用する流れも出来つつある。
特定の性癖を狙い撃ちにする作戦だ。他にも敢えて垢抜けていない田舎の娘をスカウトもしている。
幅広い需要に応えていき、より多くの男性客を呼び込もうという姿勢だ。世の男性達の欲ぼ……心を満たし、お金を稼ぐ素晴らしい商売だと言えよう。
そんなケイバ場で、ズークは休日を楽しんだ。なお騎手の女性とワンナイトは出来なかった。




