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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第3章 ユニコーン×バイコーン×借金男
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第125話 新米騎士と潜入調査①

 プロスペリタ王国の交易都市、メルシオの街から少し離れた場所でメアリーとエリオットは地上に降りた。

 真っ直ぐに王都へ向かうのではなく、人の多い街を幾つか周りながら情報を集める為だ。

 どこの国でも王都に居ただけでは手に入らない情報がある。それらを取りこぼす事なく、聞き取り調査を進める予定だ。

 2人は平民に変装して街の門に向かう。街の周囲を囲う防壁がぐるりと街を囲んでいる。


 見た目はただの煉瓦だが、中身まではどうかは不明だ。盗賊等を騙す為に、偽装を施すのは珍しくない。

 穴を開けて中に侵入を図ったら、分厚い金属板が待ち構えていたなんて事も有り得る。

 そんな防壁は20メートル程の高さがあり、簡単に乗り越える事は出来そうにない。

 しっかりとした警備が施されており、防壁の上を衛兵が巡回している。門の前にも複数の衛兵がおり、中に入る人々の身分を確認していた。


「次、そこのお二人」


 列に並んで待っていた、メアリーとエリオットの番が回って来た。


「お願いします」


 メアリーが2人分の身分証を衛兵に渡す。もちろん偽造された偽物だ。事前に調査員を送る事は王室へ連絡済みだ。

 しかし何処の誰が関係者なのか分からない為、下手に本当の身分は明かさない方針である。

 2人は少し印象を変えるため、エリオットは眼鏡をかけ、メアリーは普段と違い派手な化粧をしている。


「ご姉弟ですか。ローン王国とはまた、遠い国から来られましたね」


「エエまあ、弟と2人で大陸東部へ移住を考えていまして。この目で見てみようかと」


 それっぽい適当な理由をメアリーが語る。他国への移住などは良くある話で、そう珍しくない。


「ははは、それならプロスペリタはオススメですよ。隅々まで見て行って下さい」


 身分証にも問題はなく、街へ入る理由もごく普通なもの。特に怪しまれる事もなく、2人はスムーズに街へと入る。

 偽造した身分証とはいえ、ローン王国が発行したのだから実質正規の物だ。おかしな所などある筈もない。


「姉さん、これからどうするのかな?」


 今は他国を見に来た姉弟という演技をせねばならない。性格的に先輩とタメ口で話すのは心苦しいが、エリオットは任務だからと私情を捨てる。


「そうね、先ずは市場から見てみましょう」


 メアリーもまた普段のお堅い話し方を止め、どこにでも居そうな町娘を装う。普段から纏っているパリッとした空気は全くない。

 とても槍を使わせたらローン王国最高峰と言われている騎士には見えない。


「分かったよ。市場は、あっちかな」


 ちょうどお昼を迎えているメルシオの街は、とても活気に溢れている。プロスペリタ王国はローン王国と同様にかなり発展している国だ。

 街を歩いている人々はとても多い。交易都市なだけあり、他国から来ている商人も含まれる。単純な人数だけなら王都と変わらない。


「東は木造建築が多いと聞いたけど、こうも違うとは思わなかったな」


「貴方はプロスペリタが初めてだものね。知らなくて当然よね」


 2人の会話はあくまで他国から来た旅行者そのもの。しかし視線ではしっかりと意思疎通をしている。

 メアリーの視線を受けて、エリオットは悟る。彼女が視線を向けた先には、市場の入り口にある果物店があった。


「いらっしゃい! 何が欲しいんだ?」


 中年の男性が2人に尋ねる。大陸東部に多い紺色の髪をした平凡な店主だ。


「オススメを2つ下さい」


 姉役をしているメアリーが店主に注文する。


「あいよ!」


「ねぇ店主さん、今この辺りで流行っている事とかありますか?」


 メアリーの目的は果物ではなく情報だ。この為にわざわざ買い物をしている。


「流行りねぇ……アンタら見た感じ、中央の出身だよな?」


 店主の言う中央とは、マネー大陸の中央の事だ。2人とも中央に多い外見をしている為、そう判断されたのだろう。


「エエまあ、姉と2人でローン王国から」


「だったら人形屋に行っときな! 今自分の人形を作るのが流行っててよ」


 メルシオの街で流行っているのは人形を作る事。デフォルメされた自分の人形を、大切な人と交換する。

 家族や恋人、親友など様々な関係性の間で送り合う。人形自体は安価で作れるのもあり、庶民の間でブームになっていた。


「なるほど。あともう一つ、気をつけた方がいい事はありますか? 変な噂があるとか」


 続けてメアリーは次の質問をする。あくまで旅行者として、訪ねている風を装って。メアリーの様に小柄で可愛らしい女性が聞く話としては何も不思議ではない。


「うーん……夜の酒場は傭兵達が集まるから、アンタみたいな女性は行かない方が良いって事ぐらいかな」


「分かりました。ありがとうございました」


 メアリーは料金を払い2つの果実を受け取った。最初から当たりを引けるとは2人共思っていない。

 買った果実をかじりながら、買い物客を装いつつ2人は市場を回って行く。

 手に入る情報は様々で、旦那の愚痴から怪談話、領主が大商会の娘と不倫をしている噂まである。

 ただどれも知りたい情報ではなく、2人が気になる話は特に無かった。

メルシオはcommercioというイタリア語をもじりました。貿易という意味です。

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