第12話 ダンジョン調査の依頼
有名なAランク冒険者であるリーシュが行動を共にしてくれるお陰で、初心者用装備で無理をする必要があったズークの戦闘力は多少マシになった。
彼女が偶然所持していた、売却用の平凡なロングソードを借りる事が出来たからだ。
中位の魔法剣までなら、何とか耐えられる程度の耐久性を誇っているのは鑑定屋で確認済みだ。
ただし新品であったので、使用料も含めて報酬はリーシュの方が多く分配される事になっている。
移動等の旅費も彼女持ちであるので、当たり前の判断だ。この男にそこまでしてあげる必要性が果たしてあるのか、という根本的な問題がある様に思われるがこれ如何に。
「とりあえずはアテム大森林で良いわよね? 依頼も出ていたし」
「ああ、それで構わないよ」
「私達なら2人でもダンジョンに潜れるけど、美味しいダンジョンは遠いものね」
この世界には誰が作ったのか、何の為に作られたのか分からないダンジョンと呼ばれる迷宮が存在している。
場所によって規模が違い、初心者用から上級者用まで様々だ。
初心者用だと10階層程度で終わるのが大半だが、最難関レベルともなると100階層を余裕で超えているのが殆どだ。
節目となる階層にはそれぞれボスがおり、倒す事で先に進む事が出来る様になっている。
当然規模が大きいもの程、発見される物品や素材は高価である。稀にユニークと呼ばれる、スキルとは違う特殊な効果を持つ装備や物品が見つかる。
当然それらは非常に高い値段が付く為、使用するのかお金に変えるのか判断が求められるのだ。
一攫千金を狙うならば、ダンジョンが最適ではあるがその分危険も大きい。
それに大規模なダンジョンは、大半が辺境にある。行くのであればそれなりの用意をせねばならない。
「フレイムワイバーンの牙を20本か、とりあえずこれで良いわよね?」
「おう、報酬も悪くないしな」
「皆! 聞いてくれ!!」
ズークとリーシュが受ける依頼を決めようとした時、1人の冒険者がギルドの扉を荒々しく開けて飛び込んで来た。
彼が言うには、ローン王国の王都キャッシュの街からそう遠くないダンジョンで、何やら異変が起きていると言う。
本来は駆け出し冒険者に丁度良い難易度で、8階層で終わっている小規模なモノ。
しかし飛び込んで来たDランクの冒険者が言うには、未発見の隠し通路が現れたと言うのだ。
彼が新米冒険者達の教育を行っていた際に、偶然発見されたのだと言う。
この様な事態は稀にあり、過去には初心者用のダンジョンが実はかなりの高難易度だったという報告もある。
「へぇ、面白そうじゃないか」
「そうね。あまり遭遇出来る事じゃないもの」
「どうする? 行くか?」
ダンジョンという存在は非常に不可思議であり、ある日突然ただの洞窟に戻る事がある。
逆に突然街中に入り口が出来る事もあるのだ。法則等は未だにハッキリしておらず、解明出来ている事は少ない。
人々の中には神の悪戯なのではないか、と考えている者も居る。なまじ良く分からない未知の存在であるだけに、今回の様な事が起きるのは不思議ではない。
散々攻略され尽くした筈のダンジョンが、急に規模が拡大した事例は幾つもある。
ダンジョンの発見がされ始めたのはおよそ1500年程前であり、長い歴史の中で数々の報告が上がっている。
ただし異変が起きた瞬間に遭遇出来る機会はそう多くはなく、数十年に一度出会えたら幸運と言われて来た。
運に恵まれたダンジョン攻略の専門家であれば、その限りではないのだが。
「あ、居た。ちょっとズーク!」
「うん? 何カレンさん? デートしてくれる気になった?」
「バカ言って無いでこっち来な」
タイミング的にそんな訳ないだろと、その場に居た誰もが思ったものの口にしたのはベテラン受付嬢のカレンだけだった。
行動を共にする方針であるリーシュもズークの後に続き、綺麗に掃除された木製のカウンターへと向かう。
リーシュが一緒だった事に一瞬だけカレンは反応したが、大体は察した様子でカレンは話し始めた。
「リーシュさんが一緒なら丁度良いわ。ズーク、ちょっと例のダンジョンに行って調査して来てくれる?」
「まあ、行ってみようかと思っていたし良いけど」
「私も構わないわ」
今し方報告があったのは、デアゴの洞窟と呼ばれている小規模ダンジョンだ。
本来であれば、ゴブリンやコボルト等の弱いモンスターしか現れない場所。しかしこの様な変化があった場合は、新しい層から急に難易度が上がる場合がある。
それ故に基本的には、Bランク以上の冒険者パーティーに調査をさせるのが通例だった。
そして現在ズークは絶賛借金返済中で、冒険者ギルドに大きな貸しがある状況だ。嫌だと断る権利はない。
「ただ最低でも、Bランク以上の斥候役が欲しいわね」
「それならアタシに1日頂戴、こっちで用意するから」
「25歳以上の女性冒険者で頼む! ……いってぇ! ガントレットを付けた手で殴るなよリーシュ」
「カレンさんに余計な手間を掛けさせないの」
アホな要求をした馬鹿な男が制裁を受けていた。真面目な話をしていたのだから当然だ。
この男なら殴られても、死滅する脳細胞の数などたかが知れている。誰も損をしないので問題はない。
ともあれ予定は変更となり、ズークとリーシュは明日からダンジョンの調査に向かう事となった。
中途半端な空き時間が出来たので、もちろんズークはリーシュをデートに誘うが断られていた。
仕方ないのでズークは寄生先である、神官エレナの暮す家に帰る事にした。何が仕方ないのかは、誰にも分からないが。




