第117話 新たな事件
ズークの参戦であっさりと戦闘は終了。現場で騎士団を率いていたのは、先日ズークが会いに行ったメアリーだった。
淡いグリーンの髪が特徴の優しそうな顔立ちだが、大きな槍を手に指示を飛ばしている。
「また会ったな、メアリー」
馬上に居るメアリーの元へとズークは近付き、普段通りの調子で声を掛ける。
「これはズーク殿、助太刀感謝します」
メアリーは馬から降りて、ズークへの感謝を述べる。こうした協力は今までにもあり、お互い気の知れた相手である。
挨拶程度に言葉を交わし、ズークは本題に入る。
「なあメアリー、死体を見たか?」
「死体ですか? まだ詳しくは……」
部下への指示を出す事に終始していたメアリーは、まだモンスターの死体を詳しく見ていない。
故にズークの言いたい事が、彼女はすぐに分からなかった。そんなメアリーの様子を見て、ズークは手招きをして、近くにあったオークの死体を指し示す。
頭部の側でしゃがみ込んだズークは、首の周りをメアリーに見せた。
「ここに毛が生えているタイプは、ローン王国に居ない」
オークの首には、白い体毛がフサフサと生えている。若干の違いでしかないので、詳しくないと気付かないレベルの差。
生死が掛かった戦場で、いちいち気にして居られない程度。しかしズークは戦闘中に、この違いを見抜いていた。
「それだけじゃない。バラバラの種族が共闘していた」
「そこは私も気掛かりでした」
統率の取れた一糸乱れぬ動きとまでは言えなくとも、ただのモンスターにしては知性を感じさせる戦い方。
死体を盾に使ったり、種族ごとの特性を活かしたり。明らかにモンスターだけで自発的に見せる行動では無かった。
まるで誰かから操られているか、そう仕込まれたかの様に。ユニコーンやバイコーンがそうである様に、教え込めばモンスターも戦力とする事は可能だ。
ただし色々と教えるのは時間が掛かるし、問題も色々と多い。遥か昔、人間と魔族が争いあっていた時代に、魔族が使った戦法だ。
モンスター兵として、戦場に送り出す。魔族は人間よりも肉体が頑丈かつ強靭だ。モンスターを兵士として育成するのは、人間よりも楽に出来る。
「魔族、でしょうか?」
メアリーは先ず真っ先に魔族を疑った。状況証拠的には魔族の関与を疑うのは自然だ。
「どうだろうなぁ? 今更アイツらが揉め事を起こす気はしないけどな」
ズークは魔族にも知り合いが居る。知り合いというか、孕ませた1人でもあるのだが。
それはともかく、現在は魔族と人間の間に諍いは起きていない。対等な関係としてお互いを認め、国によっては共生している。
ローン王国も魔族の移住を認めており、地域によっては住んでいる所もある。そんな現状を思えば、永きに渡る平和を破壊する様な真似をする理由がない。
「まあ個人的に手を貸している魔族がいるって可能性も無くはないが……」
人間と一緒になって、悪事を働く魔族も居る。ただ何匹もモンスターを育成するとなると、結構な規模の土地が必要になる。
そして育てたモンスターを、わざわざここまで連れて来る。可能不可能の話は一旦置いておくとしても、こんなのは実質的な宣戦布告と受け取られても文句は言えないだろう。
「1つ間違いないのは、王都周辺で何かをしようとしている連中が居る。しかも結構な規模感の」
「でしょうね。先日頂いた情報も含めて、改めて策を練らねばなりません」
いきなりモンスターの集団を送り込める、何者かが居るのは間違いない。もし同じ事を王都の中で行われては、重大な被害が出てしまうだろう。
もはや警戒が必要なのは牧場だけではなく、王都全域まで拡大する必要があるかも知れない。
ズークとメアリーはこの事実を王宮に知らせる為、騎士の1人に早馬を出させた。
ついでにとズークは走り書きのメモを、ファウンズ支部長に渡す様に頼んでおいた。
ケイバ絡みの事件だけでなく、新たな問題が発生してしまった。それぞれ別の事件である可能性もあるが、ズークは同じ犯人であると見ている。
理由としては、徹底して犯人像を掴ませない動き、そして目的が不透明な所だ。この点において、2つの事件は共通している。
「どうやら、厄介な事に巻き込まれたらしい」
「そのようですね」
ズークとメアリーの2人は、残った騎士達と何か手掛かりになりそうな物を探す。
倒したモンスター達の特徴を調べて、どの地域から連れて来られたのかを探る。
ローン王国以外から来たのは確定しているので、あとは出自が分かればと死体を集めた。
冒険者であるズークを中心に、ローン王国のモンスターにはない特徴を探していく。目の色やサイズ、爪の形など細かく調べた。
「駄目だ、どいつもこいつもバラバラだ。共通する地域がない」
散々調べた結果、色々な地域のモンスターが混在していると判明した。どこか特定の国から連れてこられたのでは無かった。
やはりこの手口は、間違いなく同じ犯人だとズークは改めて確信した。徹底して尻尾を出さない相手故に、長い戦いになりそうだとも。