第114話 届いた情報
どうやら長期化する事が予想される為、冒険者ギルドから追加の人員が送られて来た。
交代で休みを取れる様になり、ズーク達は合間に休みを取っている。追加の人員にAランク冒険者が含まれていたので、現場の指揮も毎日執る必要はなくなった。
そんな変化が訪れたタイミングで、ラドロンからの手紙がズーク宛に届いた。冒険者ギルドキャッシュ支部に、ズークは自分宛の手紙を受け取りに訪れている。
冒険者が手紙や荷物などのやり取りをする際は、冒険者ギルドを通すのがこの世界における常識だ。ズークもその例に漏れずいつも通りカウンターへ向かう。
「アンタに手紙なんて、また新しい女性?」
基本的にズーク関連を任されている、ベテラン受付嬢のカレンが訝しみながらズークに手紙を手渡した。
「違うよ、コイツは男からの手紙だ」
「ふぅん。珍しい事もあるのね」
両親がいないズークには、男性から手紙が届く機会が殆どない。男性冒険者同士で手紙のやり取りをする文化はあまりなく、手紙を送るのは既婚者か女性が殆どである。
中には小まめに手紙を送る男性も居るが、ズークはそのタイプではない。だからこそカレンが、疑いを持ったわけだ。
最近になって突然ズークが手紙を送り、返事が返って来たのだから疑うのも無理はない。
「まあ情報屋みたいな感じだよ」
とりあえずは納得したらしいカレンの前から離れて、ズークは人の居ない壁際へと移動する。
一応周囲の確認をした後、ズークは手紙を開封する。その中には、以前に依頼した問い掛けの回答が書かれていた。
最近になって一部の国で、ユニコーンやバイコーンの価格が高騰している事。その関係で、当該国の近隣では商人達が躍起になって仕入れている事。
ユニコーンやバイコーンを捕まえる為に、女性冒険者の需要が跳ね上がった事。それらの情報がずらりと羅列されている。
ラドロンの調べでは、裏社会の者達にもその流れは来ているらしい。ただローン王国でその件に関して、暗躍している組織の情報はないらしい。
そもそもローン王国近辺には、あまりユニコーンとバイコーンが生息していないからだ。
ローン王国の牧場では基本的に輸入し、国内で交配させるパターンが多い。全く居ないわけではないが、良い仕入れを期待出来る土地ではない。
「だから牧場を狙う? 分からなくはないけど、効率悪くねぇかな?」
レーナの様に優秀な調教師が育てた個体を強奪すれば、より優秀な種のみを確保出来る。
それはズークとしても、理解が出来る動機ではある。だが問題は無理矢理連れ出した個体が、売った先でも言う事を聞くかは微妙な点だ。
確かに個としては優秀だろうが、ユニコーンやバイコーンにも感情はある。懐いていた調教師や騎手から強引に引き剥がして、新天地で上手く行く可能性はそう高くない。
むしろ余計なストレスを与えてしまい、交配に失敗するリスクが高くなる。
「まあでも、素知らぬ顔で売り捌けばそれでも良いのか……」
先の事なんて知りはしないと、高値で売り抜ければそれで良い。そんな無責任な思考で、金さえ稼げれば良いのであれば。
その場合であれば、仲介業者だけでなく牧場も襲う理由にはなるだろう。あちこちで売り捌き、稼いだらトンズラしてしまえば後先の事は考え無くても良い。
問題があるとすれば、新顔の商人から買い取る牧場や商人が居るのか、という点だろう。そんなアコギな商売をするなら、顔見知りを相手に行うのはリスキーだ。
後で責任を問われた時に困る。だからやるのであれば、見知らぬ土地や見知らぬ相手を対象にするのが普通だろう。
「一応可能性のある話だし、騎士団にも伝えておくか」
ズークは冒険者ギルドを出て、騎士団の詰め所を目指す。王都キャッシュで騎士団と会うなら、王宮の中か街中の詰め所だ。
現在問題となっている事件に絡むので、重要度を考えれば王宮の方が良い。ただそっちの方が遠いし、特別会いたい相手が居るわけでもない。
何より街中の詰め所の方が、ズークの好みに合う女性騎士がいる。明らかな私欲と下心により、ズークは街中の詰め所の方に向かう。
「今日もメアリーが居たら良いな」
ズークが気に入っている、ローン王国に仕える女性騎士メアリー。槍の名手であり、かなりの強さを誇る有名人だ。
ズークほどに知名度はないものの、王都の人々から厚い信頼を受けている。淡いグリーンの髪と、赤い瞳が特徴的な小柄な女性である。
今年で29歳を迎えるも、未だに結婚をしていない。恋や愛とは無縁の、騎士道に全てを捧げた人である。
彼女を狙っている騎士は大勢居るが、全員が玉砕した身持ちの固さも有名である。当然そんな相手が、ズークを相手に選ぶとは到底思えない。
しかしこの赤い髪をしたおバカさんは、懲りずにアタックを続けている。成功する筈もない攻略を、今日も今日とて行おうというのだ。
女性とギャンブルが絡むと、途端に知能が下がる男、それがズーク・オーウィングである。
馬鹿につける薬はないと言われているが、このおバカさんに効く薬の開発が早急に欲しい所だ。
今日も下半身に正直に生きる男は、騎士の詰め所を目指して歩いて行く。