第112話 動物に好かれる才能
ズーク達冒険者が5つある牧場を守る様になってから丸5日、それらしい事件は起きる事はなかった。
厳密に言えば逮捕された者はいるのだが、明らかに単独犯と思われる者だけだ。逮捕されたのは人気の騎手をストーカーした男、無断で牧場に入ろうとした厄介なファン。
この程度なら普段でも現れる様な、ごく在り来りなトラブルでしかない。本来なら平和な日々に感謝すべき所だが、犯人を捕まえたい現状では素直に喜べなかった。
ただ悪い事ばかりでも無かった。騎士団の巡回が普段よりも増えて、王都周辺のトラブルが激減している。
元からそこまで治安が悪い土地ではないので、国民達がより平穏に暮らせている。それにギャレットファームの方も、いい傾向に向かっている。それは調教師のレーナに関する話だ。
「落ち着いてミスリルバレー、そうそう良い子ね」
茶色い髪を短く纏めた可愛らしい少女が、輝く銀髪のユニコーンを調教している。
今彼女が育てているのはミスリルバレーと名付けられたユニコーンである。ケイバという文化が世間に根付いて以降、独特な名前を付ける習慣が生まれた。
如何に変わった名前をつけるかという点も、牧場主や調教師のセンスが問われる要素だ。
なぜそんな流れになったかと言うと、ケイバをこの世界に齎した異世界人の悪ふざけがそのままケイバ文化として継承されたからだ。
現在では当たり前となっているので、誰も特に気にする事はない。そういうものだと認識されている。
「あの子、凄いわねズーク」
「ああ。あの歳でユニコーンを手なづけている」
リーシュとズークが休憩中に、レーナの調教を見学している。レーナは田舎娘らしい、素朴な可愛らしさを持つ少女であり、都会の女性らしいリーシュとは華やかさが違う。
ただレーナも成長の過程で華やかさを身につければ、かなりの美人になりそうな素質はある。だが彼女の真価はそこではなく、動物に好かれるその特性にある。
「あそこまでユニコーンから信頼されている人間は観た事ねぇな」
ズークはギャンブルが好きなだけあって、何度もケイバ場に通って来た。その中で名手と呼ばれていた騎手も見た事がある。
ズークがこれまでに見た誰よりも、レーナはユニコーンとの間に深い絆を結んでいた。
「そうなの?」
「そうだ。あれはもう天賦の才と言っていい」
連れてきたオーウェンも、レーナの才能を高く評価していた。その意味をズークはこの数日で嫌と言う程に思い知らされた。
なにせレーナは、バイコーンからも好かれているのだ。背にこそ乗せないものの、清らかな乙女であるレーナに、自ら近付く所を見た時はズークも驚愕した。
他の冒険者も多少驚いてはいたが、ケイバを知らない人にはこの凄さは伝わり難い。興味がない人の認識としては、処女を背に乗せないらしいという程度。
ユニコーンやバイコーンは人間に対して好意的な種族なので、戦闘になるという事は先ずない。それ故に詳しくない冒険者も多く居る。
しかし良く知っている者ならば、そもそも処女に寄り付かないという習性を知っている。その話をしていたズーク達の方に、ユニコーンを連れたレーナが近付いた。
普通なら手綱を通じて意思疎通を図るものだが、レーナにはその必要がない。レーナは何も持っていないのに、ユニコーンはちゃんと後ろを追いかけていた。レーナが足を止めれば、ユニコーンも静止する。
「ズークさん、リーシュさん、ご苦労様です」
軽い挨拶程度に声を掛けに来たレーナの元に、何処からか小さな鳥が飛んで来て彼女の肩に止まった。
「あら? アナタはこの辺りで見ない子ね。渡り鳥なのかな?」
レーナの肩に1羽の鳥が止まったのを皮切りに、続々と小鳥達がレーナの元に殺到した。
一瞬の出来事に驚くズークとリーシュだが、レーナは慣れた態度で小鳥達の相手をしている。
「お、おいおい。マジかよ」
「これは……レーナちゃん、いつもこうなの?」
もはや動物に好かれやすいの一言では、とても説明出来ないのではないか? そう感じたリーシュは思わず問い掛けた。
「そうですね。今日は少ないぐらいです」
「これで少ねぇの? 凄いな」
バイコーンの件といい、異常なまでに動物に好かれている。それにユニコーンとバイコーンは、どちらかと言えばモンスター寄りだ。もしかしたらと思って、ズークは聞いてみる事にした。
「なぁ、もしかしてモンスターも懐くのか?」
「えっと……どうでしょう? スライムなら仲良くなった事はありますけど、凶暴なタイプは難しい気がします」
いやスライムは行けたのかよと、ズークは思ってしまった。レーナはこう言っているが、オーウェンの話では熊まで懐いていたらしい事を聞いている。
案外モンスターも大概懐くのではないかと、ズークは予想してみた。Sランクモンスターの様な相手ならともかく、知能がそう高くないモンスターならばあるいは。
だがそこまで考えた所で、流石にそれは無いだろうと考えを改めた。モンスターを手なづけて戦わせる、テイマーという存在は歴史上何人か居た事がある。
しかし数千年に1人と言われている特別な才能が必要であり、そう簡単に見つかるものではない。まさかなとズークは深く考えるのを止め、牧場周辺の警護に戻った。
108話で入れ忘れた借金額の推移でし
■討伐での収入:600万ゼニー
■借金総額:5億3040万ゼニー