第110話 担当を決めよう
ズークとオーウェン達が暫く待っていると、依頼を受けた冒険者達が集まって来た。
基本的にはBランクやCランクの冒険者が中心であり、ベテランや中堅どころの者達が大半である。
ただその中には2人だけ、ズークの良く知る人物が居た。1人は金髪ポニーテールが良く似合う、女性としては高身長の美女。
金色の剣聖と呼ばれている、抜群のプロポーションを誇るリーシュ。そしてもう1人は、以前にダンジョンの調査で同行していた斥候役。
中肉中背の中年男性であり、口元をスカーフで隠しているバックスだ。物凄く目立つ人物と、殆ど印象に残らない人物が一緒に居た。良く知った顔が居たので、ズークは声を掛ける。
「何だ、リーシュとバックスのおっさんも受けたのか」
「私達はギルドから指名されたのよ。私は護衛で、バックスは調査ね」
相変わらず人前では声を出さないバックスは、無言でリーシュの隣で頷いている。
「ま、私は貴方の監視も込みだけどね。サボらせないわよ」
ジトッとした目でリーシュがズークを見ていた。恐らくはカレンの差し金だろう。それに気付いたズークは、やれやれと首を横に振る。
「おいおい、俺はギャンブルに関しちゃあ常に全力だぜ」
「それはそれでどうなのよ。普段から真面目にやりなさいよ」
呆れた表情でリーシュはツッコミを入れた。何をこの男は自慢げに言っているのだろうか。バックスなど、我関せずと無視を決め込んでいる。
そんな再会がありつつも、最終的に30人の冒険者が集まっていた。今回は王都の近くで起きた事件なのもあり、国からの補助金がギルドに支払われる予定となっている。
お陰で結構な人数を送り込む事が可能となった。王都周辺の5つある牧場全てに、同規模の冒険者が派遣された。結果参加者が150人超の大規模な依頼へとなっている。
「また結構な人数だな」
「ちょっとしたダンジョン攻略よね」
リーシュの言う通り、集まった冒険者達は中規模のダンジョンを攻略するかの様な人数だ。
5つのグループに分かれて、虱潰しにマッピングを進める時などはこれぐらいの人数で行う。
もっとも今回はダンジョン攻略ではないので、バランスはそれ程整ってはいないが。
大まかに7割程度が護衛に回る者達で、残りが偵察や調査を行うバックスの様なタイプだ。
そんなギャレットファーム担当の冒険者達から、1人の男性冒険者がズーク達に話しかけて来た。
「総指揮はズークさんがやるんですか?」
「あ〜そうか。こん中なら、俺達が仕切らないといけないか」
集まった30人の内、最もランクが高いのがズークであり、次点でリーシュとバックスになる。必然的にズークがリーダーで、サブリーダーが残る2人だ。
「じゃあ護衛部隊は俺とリーシュで担当するから、調査部隊は任せるけど良いか?」
こくりと頷いたバックスは、斥候役特有のハンドサインを行う。
戦闘がメインの冒険者だと意味を理解できない者も多く居るが、調査係として派遣された者達にはそれだけで通じる。
斥候役を担う者達は、チームを組んで潜入任務に向かう事が多々ある。そんな時はこうして、僅かな手の動きだけで意思疎通を図る場面が頻繁に発生する。
今回集められたBランクやCランクは、その道のプロなので理解できない者などいない。
特にバックスは斥候役として、キャッシュ支部のエースをやっている。彼らは言ってしまえば、大半がバックスの後輩だ。
喋らない彼の意図ぐらい、わざわざ聞かなくても分かる者ばかりだ。調査部隊が集まっている所から少し離れた位置で、ズークとリーシュが護衛部隊を集める。
「護衛役で来た冒険者はこっちに来てくれ! チームと担当を決めるぞ」
ズークの発言を聞いた戦闘がメインの冒険者達が、ゾロゾロと集まった。男女はほぼ半々の21人が今回派遣された護衛担当だ。
「女性騎手や調教師の警護は、リーシュ以外の女性の冒険者に任せても良いか?」
「ええ、それで良いんじゃない」
ズークの提案を受けて、リーシュが女性の冒険者達と相談を始める。女性は今回9人おり、その中からリーシュ以外の8人で女性関係者の護衛を担当する。
ユニコーンやバイコーンを扱う関係上、牧場には女性のスタッフが多く居る。
相手の狙いが不明瞭な現状では、育成の核となる女性スタッフを優先して守る必要があるだろう。8人でローテーションしながら、牧場内やケイバ場との行き来を警戒する。
「残った俺達で、牧場周辺の警護に当たる」
「ズークの班と、私の班に分けましょうか」
リーシュの発言を受けて、男性冒険者達がざわついた。そりゃあ美女としても有名なリーシュと、解決するまで一緒に行動出来るのだ。
彼らが喜んだとしても仕方がない面はある。あるのだが、仕事中に下心を丸出しにするものではない。どこぞの戦闘だけは有能な男でもない限りは。
ズークが普段あんな感じでも何とかなるのは、戦場に出せば一流だからだ。だからと言って許されているとは決して言えないが。
だと言うのに下心を見せた彼らを、圧の強い笑顔でリーシュがニコニコと見つめている。彼女はそんな態度を見せられて、甘い判断を下すタイプではない。
更に女性冒険者からは、冷たい視線が光線の様に放たれている。失態に気付いた男性陣だったが、時すでに遅し。
今回は珍しくズークが真面目なだけに、リーシュのお説教は喜んでいた男性陣に集中するのだった。




