第107話 依頼が入るまでは
ズークはギャレットファームの見学から戻り、冒険者ギルドに行っていた。指名依頼が入る可能性をカレンに伝える為だ。
依頼者から一方的に指名される場合はともかく、事前に来る可能性が分かっている場合は予め報告しておくのが一般的である。
その方が手続きをスムーズに進められる上、報酬の設定なども前もって話し合いが出来る。
懇意にしてくれている相手だからと、依頼料を少し安くする等のより細かい内容を決める事も可能だ。
他にも冒険者によっては、様々な条件などを決める場合がある。ズークはそれほど細かく決めるタイプではなく、殆どはギルドに任せっきりだが。
大体はカレンや、元パーティメンバーが上手い事やっていた。今は1人なので、ほぼカレンかファウンズ支部長が内容を決めている。
高ランク冒険者でギルドを信頼しているタイプには、案外そういう冒険者も少なくない。
「ってわけだから、牧場関係の依頼が来るかも」
「アンタ、まともに営業とか出来たのね」
「え~前から良い感じだったでしょ?」
ズークが珍しく自分で新しい取引先を持って来たので、ベテラン受付嬢のカレンは驚愕している。
この国では珍しくない茶髪を短く纏め、スタイルの良い肉体を持つ30代の大人の色気は今日も変わらず発揮されている。
チャームポイントである右目の下にある泣きボクロが、可愛さと妖艶さを醸し出していた。
若いだけが女性の魅力ではないと知っている男性からは、強い支持をされているカレンだが1番の人気者とは言えない。
彼女の受付の列は、今日も女性冒険者が殆どだ。ズークの様な男性も一部居るものの、多くの男性冒険者は10代や20代前半の受付嬢のカウンターにこぞって集まっていた。
「アンタは昔から適当だったでしょうが。頭を使うのは下手なんだし」
「その言い方は酷くない?」
「現状を考えれば、何も間違っちゃいないでしょ」
カレンの指摘はごもっともで、今回はたまたま偶然ガンツやオーウェンと知り合えただけだ。
もしあの場で襲われていたのが、ユニコーンを運ぶ馬車でなければ助けなかった可能性の方が高い。
ちゃんとした護衛がついている場合、下手な手出しが問題になる事だってある。
助けに入った者の報酬はどうするかや、逆に指揮系統にノイズが生まれるなどの混乱を招くケースもこれまでに何度もあった。
そう言った問題があるので、ズークの様なジャッジを下す者も珍しくない。リーシュの様なタイプなら、上手く話しを進めるので積極的に助けに入る。
ただその場合でも、全く問題が起きない訳では無い。やはりリーシュは美しい女性である為、それを理由に揉めてしまう事も。
どちらの判断が正しいかは、ケースバイケースとしか言えない。助けないが正しい時もあるし、助けた方が良い場合もある。
ただどちらにしても、結果論と言えばそうとしか言えない。人間同士のやり取りである以上、トラブルを完全回避するのは難しい。
こうしてギルドのカウンターで手続きをするのではなく、現地での判断になるので致し方無い。
「まあ良いわ、依頼が来たら連絡するわ」
「そういう事でよろしく!」
「だからって、サボるんじゃないわよ」
仕事が決まったわけでもないのに、ぐーたら過ごすなよとカレンから釘を刺されたズーク。
これで許されると考えていたズークだったが、考えが甘かったようだ。まだ日が落ちていないのだから、働きに出ろとカレンの視線が言っていた。
確かに今から移動を始めれば、アテム大森林の近くまではいけるだろう。ズークが本気で走り続ければ、それぐらいの走破は可能だ。
夏期ゆえの炎天下という環境を思えば、少々酷だと言えなくもないが。だがズークの借金額を思えば、ギルドとしてはそれぐらい我慢しろと言いたくもなるだろう。
「ハイハイ、分かりました」
「分かったらすぐ行動!」
サボりガチな弟と、働き盛りの姉の様なやり取りを交わす2人。仕方ないなと再びギルドを出たズークは、キャッシュの街を出て街道を走る。
依頼が来るまでどれぐらいの時間が掛かるか不明だし、そもそも依頼が来るのかという問題はまだ残っている。
とりあえず行き返り込みで1週間程働く事を決めたズークは、アテム大森林に向かって走っていく。
素材の売却額が以前のほぼ半分になっているので、1週間で稼げる額は以前より低くなる。以前の様に1週間で1千万以上稼ぐのは難しいだろう。
ただリーシュから借ている剣があるので、初心者用の剣で戦っていた時よりは効率が良い。
(700万ゼニーは行きたいが、500万ゼニーが良い所か?)
以前と違ってアテム大森林は相当な間引きが行われており、以前の様にオークキングが出て来ているなんて事もないだろう。
そもそもオーク自体がかなり減っている状態だ。調査の入っていない最深部まで行けば、生態系は手付かずのままだが装備が全く足りていない。
最深部はSランクモンスターの巣窟と言われており、こんな貧相な装備で行けばズークであっても命の保証は全く無い。
結局はチマチマと稼ぐ以外に道はなく、地道な労働に励むズークであった。それが普通だと突っ込む者はどこにも居なかった。




