第103話 ユニコーン専門の商人
ズークが予想した通り、助けた商人はケイバ用のユニコーンを運んでいる馬車だった。
これから王都であるキャッシュの近くで、牧場を経営しているオーナーの下へと届ける途中だそう。
ガンツと名乗った小太りの中年男性が、別の国から優秀なユニコーンを仕入れて来た所だったらしい。
ケイバで直接走るだけでなく、交配してより速いユニコーンを産む為にも利用するそうだ。そういう目的のユニコーンは高額であり、こうして大規模な護衛を用意する。
通常商人の護衛であれば、1つのパーティで十分だ。だがこう言った高額の取引を行う場合は、3つや4つパーティを用意するのが常識である。
相場で言えば、この様なユニコーンやバイコーンは1頭だけで300万ゼニーはする。非常に優秀な個体であれば、500万を超えていく。
過去には1千万以上に届いた伝説級の個体も存在していた。
「いやあ助かりましたよズークさん」
「俺もケイバは好きだからさ、見捨てるわけにはいかない」
「おっと、ズークさんもお好きだったんですねぇ」
中々Sランク冒険者との繋がりを作るのは難しい。それなりにやり手の商人であるガンツが、この機会を逃す筈が無かった。
ここで顔見知りになっておけば、何かの商売で活きる可能性がある。おまけにズークはケイバが好き言うのだから、尚更ここで攻めない理由がない。
今まで自分が取り扱ったユニコーンの話を持ち出して、ズークの興味を引き始めた。ガンツはユニコーン専門の商人で、基本的にバイコーンは扱っていない。
自分が雇っている熟練の世話係が清純な女性なので、清らかな乙女を嫌うバイコーンは逆に扱えない。
大体はこうしてどちらか一方を扱うのだが、大手の仲介業者ならば両方扱っている事もある。大手ではないものの、ガンツは中堅として結構稼いでいる方である。
「どうですズークさん、もしよろしければ取引先の牧場を紹介いたしますが」
「え、良いの?」
「助けて頂いたお礼にどうかと。あそことは私も長い付き合いがありますので」
ケイバで扱うユニコーンやバイコーンの牧場は、結構閉鎖的な傾向がある。やはり高額な生物を扱う関係上、良く知らない人間を中に入れられない。
もし鍵を盗まれたり、壊されたりしたら大問題になってしまう。昔は見学に来る事が出来たらしいが、そう言った事件の多発が問題視されて現在の形になったと言われている。
それ故に普通であれば、今回のガンツの行いはあまり良い方法ではない。ただ相手がSランク冒険者として有名な存在で、身元もハッキリしているのでこの場合は問題はない。
偽造が非常に困難な、冒険者カードも確認済みなので牧場側から怒られる可能性は低いだろう。
むしろSランク冒険者と繋がりが出来た事の方が、牧場にとってもプラスになる。ガンツはそこまで考えており、一石二鳥を狙っていた。
「もちろん護衛をして頂けるのであれば、その分報酬もお支払いしますし」
「いやでも、護衛の彼らが嫌がらないか?」
「捕縛した連中の護送もありますからなぁ」
50人の野盗らしき集団は、どうやら先日壊滅した強欲の螺旋に所属していた下っ端構成員達だった。
突然ボスや幹部が逮捕され、組織は事実上の空中分解。各地に居た構成員達は、上からの守護も支援も一切無くなっている。
どうにか自分達で現状を打開しようと、野盗の真似事を始めた所だったらしい。元々ガンツがここを通る話は、組織が壊滅する前から分かっていた。
その情報を利用して、こうして襲撃をかけたという事だった。商人からユニコーンを奪った所で、血統を証明する方法を知らなければ正当な取引は出来ないのだが。
彼らは下っ端の集まりで、襲撃は経験していても商売の知識は非常に浅い。何が高く売れるか知ってはいても、どう売れば良いのかは知らない。
色んな意味で杜撰な計画だったのだが、その上でズークと鉢合わせてしまったという訳だ。
「俺達なら構いませんよ! コイツらを連行したら結構な額になるでしょうし」
「正直、どっちでも報酬はそんなに変わらないですしね」
「私達のパーティも同意見です」
元々護衛として依頼を受けた自分達が居るのに、ここでSランク冒険者に護衛を頼むなんて嫌がられるのでは?
ズークはそう考えていたのだが、元々の護衛だった冒険者達は気にしていなかった。結構大きな組織の元構成員達を、50人も連行すればそれなりの報奨金が支払われる。
今回の様な高額商品の護衛任務と、そう変わらない金額が得られるだろう。ただしそれは彼らBランクのパーティから見た場合の話ではある。
50人とは言っても全員が下っ端でしかない。指名手配中の相手ならともかく、殆どチンピラに近い連中では1人頭の金額は高くない。
ただ大きな組織であったので、普通の野盗よりは高くなりはするけれども。結局ガンツの提案が通り、ズークが護衛として参加する事になった。
代わりに2つのパーティが護送の任務に向かう事となった。流石に無力化したとは言え、50人も居れば1つのパーティでは危険が残る。
かと言ってここで放置する事も出来ない。そして彼らの様な存在は、商人であるガンツにとって危険で野放しは出来ない。
双方の話し合いはスムーズに行われ、特に誰からも不満が出る事は無かった。




