隣国の領主
「はーーー、もらい泣きするところだった」
あんな大きな傷を負って、それでもジュノを探し続けていたなんて。
「気を遣ってくださって、感謝します」
さっきの男性が隣の部屋に入っていいと示してくれながら、声をかけてくれる。
「妻の……悲願だったのですよ。仲間に裏切られ、護衛中の小男爵を攫われてしまった。この国に嫁いだのも……彼の方を探すために」
つま……妻……この人がケイゼルさん!?
「……失礼しました。お名前も伺わずに要求してしまって」
「いいえ、こちらこそ名乗りもせず申し訳ありませんでした。カレド領主、ケイゼル・カレドと申します。ヴィトリーク・アルセン小侯爵様にお目にかかります」
「僕はまだ後継と決まっていないので小侯爵と呼ばれるのは……」
「それは失礼しました。ではヴィトリーク様とお呼びしても?」
「ええ、お願いします」
頷いて、少し僕を見つめたケイゼルさんはなぜか驚いたような顔をした。
「話に聞いていた以上に、聡明なご様子で驚きますね。五歳とは思えない程しっかりしていらっしゃる」
「そうですか? ありがとうございます」
残念だけど! 僕の中身はアラサー男なので!!
五歳の時の振る舞いなんてもう覚えてないんです!!
知識や記憶としてはあるけどどんなふうに生活していたかなんて……こちらに来てから五歳になった当初でもあまり覚えがなかった。
「でも、なぜロメリテ国のあなたが……」
「実はわたし、一度亡命したことがありまして」
ぼ、亡命……!?
ロメリテは確かに王侯や領主の力が弱く、頻繁に内乱の起こる土地だったと聞いたけど……。
「わたしを保護してくださったのが……先代のテベルス男爵なのですよ。一度は領地もなにもなくなったわたしを……こうしてカレドの領主に戻れるまで支援してくださった」
「その時からロメリテの中でもカレド領はエルヴェリアの飛地と言われるほど親交が深い」
「その後継が誘拐されて……なにもしないわけにはいかないと思っていたところ、妻が求婚してきました」
ええ……?
イゾラさんの方から求婚……?
「お飾りの妻、何なら側室でも構わないから、ジュノ様を探すために国外に足掛かりが欲しいと」
「現テベルス男爵は……つまり幼馴染でね、その子を探すのに、協力しないという選択肢はない」
「結婚して三年、何の手掛かりも得られなかった。イゾラだけでも……危険も多いけれどもっと情報の多い首都に向かわせたほうがいいのかと思い始めていた、そんな時。アルセン侯爵から連絡があった」
「ヴィトリーク様が出品される可能性があるから、オークションに参加してくれないかと」
「あのオークションには、何度も足を運んだんです。様々なルートで情報を集めて、貴族の子どもが売り出される回数が一番多かった」
「ジュノ様はもう売り払われたあとかもしれないとは思いつつ、諦めきれずに何度も……ああ、本当に……有り難うございます」
「僕の功績ではないから。感謝されても困ります。僕は誘拐されて、助けてもらった側です」
穏やかに微笑んだまま、ケイゼルさんは首を振った。
「ジュノ様を連れてきてくださった。それだけで我々はあなたに感謝したいと思う理由になるのです」
いや……うーん。この人たちが知るよしもないことだけど、生き延びていたのはジュノが一人で頑張ってきたからで、出品される時にセットで売られたのはあいつらが多めにお金を取ろうと企んだから……。
僕が感謝を受けるところ、一つもないと思うんだけど……なぁ?
「二週間ほどはこちらに滞在していただけるとありがたいのですが、よろしいですか? 医師も呼び、診察を受けていただきます。ご帰宅はアルセン侯爵家が国内の拠点を検挙して回るそうなのでそれが始まる前に、迎えが来るはずです」
「あっ、はい」
期待通り、一網打尽計画はあるみたいで一安心だ。
僕が動き回ってできることはないけど、それでも嬉しい。




