ナマズのお味
熊の子どもも、餌として人を与えられている可能性があるので狩ってしまわなくてはならない。
それらの始末は近隣の村の男たちと騎士たちで行うので、僕たちは屋敷に帰ることになる。
そんな話を父上から聞かされながら。
「体調は? どこか苦しいとか、気になるところはない?」
さっきから何度も確認される。
僕が着替えている間に、屋敷に帰る騎士たちも含めて全員怪我の確認は終わらせた。
そして、傷が治癒しているのに治癒力を失っていない、と同行していた医療騎士が診断した。
——と、聞いた。
「治癒力が回復するまでは、またダートン子爵に診てもらうんだよ?」
父上はしきりに僕を心配してくれている。
あの場にいた怪我人を、僕は自分の治癒力を消費して治療した。
『治癒魔法の基礎』である『当人の治癒力を使う』方法を知らなかったから。
そして『パニックになって過剰回復を掛けた』——姉上が僕を張り飛ばして止めなければ、僕は止め方も知らなかったし、死人が出た可能性すらあった。
「もっと早くに倒せていたら、怖い思いをさせずに済んだんだけどね。お父さんつい雷の魔法を使ってしまうものだから水の中にみんながいる時はあんまり強く出られなくてね……」
月熊には普通の風魔法は相性が悪いのだと教えてくれる。
ゆったりと歩く馬に揺られて、しっかり父上に支えられて、僕はなんだか眠くなってきていた。
「うん……さっき……アニーも教えてくれた」
「そう……眠いかな? 寝てしまっていいよ、お父さんが抱っこしてるから」
「うん……まだ……だいじょうぶ」
そう答えてみたものの、今にも瞼の上下がくっつきそうだ。
「魔法が使えることはわかったから、帰ったら特訓しようね」
「……うん」
何を答えているかもうわからないけど、とりあえず相槌を打って、ちょっとだけ目を閉じたつもりだった。
「ヴィクスさま、お夕飯ですよ」
アニーの声にモゾモゾとベッドに起き上がる。
お昼寝が過ぎたかな。
きっと昨日夜更かしをしたせいだ。
「ナマズの煮込みとカエルのフリッターがありますよ」
そっか、狩りで獲ったナマズとカエルが夕飯なんだ。
夕食の時間!???
いつの間に屋敷まで帰って……着替えも済んでるしベッドに入ってる!?
「ヌシの肉も使いましたからね! しっかり召し上がってください!」
「……わーカエル楽しみだなー……」
思わず棒読みで答えてしまった。
僕は食べられた側だと思うとなんだか複雑な気分だなぁ。
でもカエルは美味しいって姉上も言ってた。
アニーに連れられて食堂に向かうともう父上も揃って僕を待っている。
「遅れてごめんなさい」
「今日は疲れただろうからね、気にせずたくさん食べなさい」
サッと僕のお皿にナマズの煮込みが取り分けられて、みんなで挨拶をしてから食べ始める。
煮付けかな、魚だし。
カレイの煮付けみたいなものを想像しながらナマズを口に運ぶ。
…………これ、角煮だな?
どう考えても豚の角煮だ。
分厚い脂肪と濃い色に煮詰まったタレ、ほろりと崩れる身……繊維は確かに魚っぽいが味の濃さも脂の旨味みたいなものもほぼ豚の角煮。
柔らかい蒸しパンが添えてあるのがこれに載せて食べろということのようで。
つまり角煮まんがこの世界でのナマズの食べ方か。
そういえばカエルも確か前世でも食べられたはず……。
鶏肉に似た淡白な味だとか。
角煮まん、ことナマズの煮込みを食べ終わると運ばれてくるのはカエルのフリッター。
すごく……とり天です。
塩とかレモンで食べるお高い天ぷらの味がします。
香草塩がまた香りが良くて……これは……人気メニューなのも当たり前だ。
カエルのフリッターはそもそもお祭りの軽食扱いなのでここまでが前菜、ということで後は普通にメインの食事が始まるのかと思ったら。
「ナマズもカエルも山ほど狩ったからね」
メインはカエルのステーキ。
ビーフシチューならぬナマズシチューにバゲット。
片方を選んでもいいし、両方食べてもいいと言われて、半分ずつ食べさせてもらう。
カエルと知らなければ地鶏を焼いたと言われても信じそうな濃い旨味と弾力。
ナマズのシチューは赤ワインの渋みがいい感じに魚っぽさを消して今度は牛肉のように感じられる。
「こんなにたくさん食べていいの? 保存食にする分は?」
「ヴィクスは心配性だね。でも、保存食を作ってそれから隣村までの人が収穫祭のお祭りに使う分は残るくらい狩ったんだよ?」
「…………そう、なの?」
乱獲しすぎでは?
……あ、主を狩ったから、か。
あの大きさならお祭りの振る舞いもかなりの量ができるはずだ。
デザートはスズベリーのパイに氷熟させたルジェ。
もちろん種は父上のお皿にだけ載せてある。
生で食べるルジェは秋から冬の初めが旬だけど、それを氷室で数ヶ月追熟させると染み出した果汁が結晶化するほどの糖度になり、果肉はそのままシャーベットとして食べられる。
発酵した種は大人専用のおやつだ。前世で言うなら中に甘いリキュールが詰まったアーモンド?
父上も今日はもうお仕事に戻らないようでルジェの種をパリパリと噛み砕く。
「予定外ではあったけど月熊も狩ってしまったからね」
お祭りに使う食材や保存食にはかなり余裕ができたと父上は嬉しそうだった。
月熊、結構終盤のステージにならないと出てこない敵だったのになぁ。
ということを思い返して、そういえば覚えている事、知っている知識などをまとめておきたかったことを思い出す。
今わかること、ゲームの記憶、それから覚えているかぎりのシナリオを何かにまとめて書いておきたい。
時が経つごとに、前世での記憶が薄れてしまいそうだった。




