魔力を見たい
サンドイッチを手に持ったまま、うーんうーんと唸り続けてみるものの、魔力を感じるということはない。
父上は面白そうに笑いながらその様子を見ているだけ。
「できそうかな?」
「さっぱりわからないです!」
半ばヤケクソで答える。
わからないものはわからないのだ。まずそんなものがあると信じることから始めているのだから。
オーラが見えます、とかの人だったら分かりやすかったのだろうか。
あいにく俺はスピリチュアルとは縁遠い生活をしてきた……。
僕になったからといって、見えるようにも感じられるようにもなるとは思えない。
「だろうなぁ」
父上が笑いながら呟いて、思わず僕は父上を見る。
「閣下もね、魔力の感知がずっと苦手だったんだよ」
そういえば、父上はよく比較対象として大公閣下を出すけれど、あまりすごい人を出されても『彼もそうだったのか! なら安心だ!』とはなりにくいんだけど……。
いや、すごい人の方が『あんなにすごい人でもできない』という親近感になる……か?
でも、今はできるようになっているはずだ。
だって『父上より強い魔法使いは大公閣下くらい』なのだから。
どう考えても『大公はすごかった』にしかならない……な。
「一番簡単な方法を教えようか」
……そんなものがあるなら初めから……!!
「動物や植物の纏う魔力を見ることだね」
どこが簡単なのかな?
「人間の魔力は見づらい。無意識に魔法を使ってしまわないようにしているからね。植物や動物はその意識が働かないから見やすい」
………………なるほど?
「その動きがわかれば自分の魔力も他の人の魔力もなんとなくわかる、らしいよ」
「……らしい?」
伝聞調の語尾に首を傾げると、これも大公の言っていたことらしい。
「というわけだから、食べたら沼に戻ろうか」
「……魔力って見えるの?」
「普通は見えないね」
ダメじゃないか!!
「見えるものじゃないけど、わかるんだよ」
それ以上に説明のしようがない、と笑う父上に膨れて見せて、とりあえずサンドイッチとキッシュを食べて、もう一度カエル装備を身につけた。
沼に戻ると、交代でお昼をとっていたみんなが心配して駆け寄ってきてくれる。
「今度は釣りましょうね、ナマズ!」
「今夜ナマズも食べてしまいましょう」
「体は大丈夫ですか?」
お昼を終えたところらしい姉上が駆け寄りたそうにソワソワしているけれど、笑って手を振って見せて、釣竿を持つ。
どうせ釣れる見込みはないのだから、魔力を見る練習のついでに釣り糸を投げておくだけ。
最初の二時間の間に『どの辺に投げるといい』とか『どういうところを狙う』みたいなコツは大体教えてもらった。
そしてやはりなんの収穫もなくそろそろ一時間。
初めての狩りの時の姉上は手掴みで捕まえようとしてナマズに反撃された、なんて話を聞きながら。
そもそも見えないのに魔力を見るってなんなのさ。
などと思いながら、何も引っ掛からなかったルアーを再度投げる。
どう見ればいいのかわからないからそろそろ『この辺を意識するといい』と言われたこめかみが痛くなりそうだ。
「ねぇアニー……何かここに投げたらいい、って目標みたいなのないの?」
「そうですね……私は気配のありそうなところ……に投げるのですが」
困った顔をしてアニーが言いにくそうに答える。
気配が分かればなんてことはない、ということのようだけど。
まぁ無理そうだ。
「気配って……言われても」
「そうですね……全体的に見渡した時に……気になるところ、というか……」
言葉にするのが難しいようでアニーも言葉を考えながら説明しようとしてくれる。
「ヴィクス様は……こっちの方向を見て、どこに投げたいと思いますか?」
「こっち……? こっち向きなら、人にぶつからない方向で、うーん……あの岩と木の間かなぁ」
小さな岩と、低木の間には誰もいないから人に引っ掛けてしまう心配がない。
「そこに何かいそうだと思いますか?」
「何か……ないかも……」
「そうですね。私なら……あの岩の裏側を狙います」
そう言ってアニーのルアーが岩を飛び越えていく。
大きく竿を揺らして岩の裏側から戻ってくるルアーに……ついてくる何かがある。
「こんなふうに、居そうだと思うところに投げています」
釣り上げたナマズを捕まえて、アニーが素早くナイフで仕留める。
「それ、どうやったらわかる?」
「動物ならば習性があるからですね。ここのナマズなら日陰や泥の中、暗いところが好きなんです。だから岩の裏の影になっているところならいるかな、と考えます。それから……気配があるので……」
「……また気配……。気配って、どんなもの?」
「言葉にするのは難しいんですよ……。見えるわけではなくて……なんだか気になるとか、何かあるように感じるといった言葉の方が近いので」
困り果ててアニーが友人の騎士たちに声をかける。
「アナベルは感覚派だからなぁ」
「天才肌だもんなぁ」
「私のことはいいから、ヴィトリーク様にわかるように説明できない?」
「んんー……俺は水面の影を見て投げてる」
「かげ……」
「泥にも水面があるでしょう。そこの動きというか、その下に何かあると動きが変わるんですよね」
言われて目を凝らしてみたけれど、僕には草の根元の泥と見分けがつかない。
「ごめんなさい、わからないかも……」
「もしかしたらカエルの方がわかりやすいですかね」
「バッカかお前、さっきヌシに喰われたヴィトリーク様にカエル狩りさせる気か」
「そうだろ、カエルは魔法も使うってのに」
「でもカエルの方が的がデカいからわかりやすくないかー?」
「それより気配の感じ方! 他に何かない?」
「俺は……アレかな。スキル持ってるから」
「スキル……」
「あ、ヴィトリーク様もそのうち何かきっと発現しますから気にしなくていいッス。俺、観察眼って……まー視力が良くなるスキルなんです」
「視力……そんなのあるの?」
「こいつの表現を信じてはいけません、ヴィクス様。観察眼は上級者になると『視線の動きや筋肉の緊張から動きや思考を先読みできる』というスキルに育つのにコイツはそれを『目が良くなる』と表現しているんですよ」
「間違ってないだろ。見えるようになるんだから」
「眼にスキル発現すると、メガネいらなくなるもんな」
雑談に戻っていってしまった会話にアニーが肩をすくめて『ナマズは物陰が好き、水面に近いところの虫や小鳥を食べる』などの習性のおさらいをしてからそれを踏まえてもう少し頑張ろうと励ましてくれる。
先は長そうだなぁ……。
と、また釣竿を手にして沼と向かい合う。
魔力も見えないし、気配もわからないし ……。
物陰、日陰、と念じながら何かわかるようにならないかと。
しかし、さっきからずっと、あの岩の先になぜか視線が向いてしまう。
特に大きな岩というわけじゃないし、あの岩の裏のナマズをさっきアニーが釣っていたからだろうか。
なんの変哲もない、岩。
今度はそれが何か大きなものの擬態というわけでもないと思うけど。
「ヴィクス様、あの岩のところに行きたいんですか?」
「ん……うーん。そうなのかなぁ。なんか、あっちの方が良さそう……気になる、気がする」
アニーが手を引いて、岩の近くまで連れて行ってくれる。
でも、なんだか違う。
岩が気になっていたわけではなかったみたい。
岩に腰掛けて、辺りを見回す。
ナマズがいそうな日陰はどこかな、と。
でもやはりなんだか……見られているような、目の端に小さな虫が横切るような違和感がある。
視線がついそっちに向かってしまう。
その方向を見ると、何かと目が合うような……。




