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魔法騎士の救助


 

「ヴィクス様! 目を……開けてください!」


 バチッと音がするほど体を叩かれて、たった今閉じたはずの目を開ける。夜空は炎に照らされてものすごく明るくなっていた。


 眩しさに顔を顰めると安心したような声が『生きている』と叫んだ直後、止まっていた時間が流れ出すかのように急激に辺りが喧しくなる。

 土や草の匂い、松明の焦げ臭さ。何か、柑橘系の爽やかな香りもどこからかしている。


(アニー……無事だったんだ……)


 その姿は確認できないけれど、僕の名前を叫んでいるのが彼女の声だというのはわかった。

 

(助けを呼んできてくれたんだ)

 

 その声に安心すると同時に、身が竦むような恐怖が襲いかかってくる。もう寒くも痛くない、ただ、怖かった。

 直感めいた何かが『死』を感じ取って。



(……死ぬ……怖い……助けて)


「っ…………た……す…………」

 声になっていない。言葉よりも涎のような液体が口から溢れていく。

 意識がある、ということは『死にかけている』という事実に直面させられる事だった。

 誰かが声をかけてくれていることに安心すると同時に間近に感じられる死の気配が涙を滲ませる。


「大丈夫、助けます」

「よく耐えてくださいましたね」

「もう少しです!」

「頑張って!」

 



 声をかけてくれる中世世界のような甲冑の騎士たちを、俺は不思議な気分で眺める、

 重機もないのに人間が体の三倍はあろう瓦礫や岩を運んでいく。勝手に空を飛んでいく岩もある。炎に照らされている空は松明以外に空中に光の玉が浮かんでいる。

 ——ああ、魔法騎士達だ。

 知るはずのないことも、もう一つの記憶から当然のようにわかる。

 

 ——ここは、魔法や騎士の存在する世界なんだな。目が覚めたということは、やっぱりこっちが『現実』なのか。

 今度こそ、走馬灯には両親の顔が見られるだろうか。

 ——助かりたいと思っているが、胸から下にもう感覚がないので『手遅れ』だ。

 

 

 甲冑には烏の紋章が入っている。大公家の騎士団ということになる、


「もうすぐです、あと少し土砂を移動させたら安全な場所に移りますからね」


 声をかけながら、何か水のようなもので俺の顔や腕などを洗ってくれている青年騎士は、汗を拭いながらぎこちなく笑う。

 何かハンドサインのようなもので細かに連絡を取っている様子もわかる。


 『水のようなもの』はガラスの瓶に入ったほのかに光る液体で、目覚めた瞬間に感じた果物のような香りはこの液体のようだ。

 時折俺の口元にも差し出されるが、飲み込もうとしているのにうまく飲めなくて溢してしまった。



「少しでいいんです、飲んでください」

「一口……口に含むだけでも——」



 ゆっくり……本当に壊れかけのガラス細工でも支えるような慎重さで、少しだけ背中を起こしてもらえたので、口元に近づけられた瓶から一口、口にする。甘い香りがしていたのに、何の味もしない。咽せて口中に広がる鉄の味にかき消されてしまう。

 飲めたとは思えなかったけれど、血管に熱湯を流し込まれたのではないかというほどの温度が急激に広がっていく。

 痛みさえ感じるほど。



 ——『ポーション』か。

 ——ほんとうに魔法みたいだ。




 それと同時に、あたたかい血液を根こそぎにしていくような耐えがたい寒さが襲ってきた。

 胸から下が、凍傷になりそうだ。歯を食いしばっていてもなおガタガタと震えてしまっているのに、それ以外の感覚が、ない。

「これで移動する間は持ちます」

「安全な所に移動して、すぐに治療を始めます」

「それまで、決して意識を失わないでください」

 

 





『安全な場所』へ、大破した馬車の中から慎重に俺の体を取り出してすぐ、帰っていたはずの道を戻っていく。


 抱えられて馬が疾走する間も身体を包んだ布がびしょ濡れになるほどの『ポーション』を掛けられ続け、どれだけでも飲んでくれと抱えさせられたポーションの瓶も揺れて半分以上はこぼれてしまった。それでも揺れとともに視界にチラつく布は真っ赤だった。




「大公閣下! 戻りました! 急を要する事態のため御前にて失礼します!」

「構わん、すぐに始めろ!」



 扉を開けてすぐに使用人たちが用意していたらしいクッションの上に寝かされて、遠くに声を聞く。


 ああ、すごい高い天井なのにあの大きさのシャンデリアはすごいな……三つもある……。



 白い軍服の騎士たちが甲冑の騎士達と入れ替わって俺を取り囲むが、布を剥いだ途端に一斉に息を呑んだ。


「っ……これは……」

「よくこの状態で生かしたまま……」



 ひときわ体の大きな髭面のおじさんがかがみ込んで俺に目線を合わせる。


「今から治療をいたします…………気を張っておいてください」


 そして小さく「申し訳ありません」と呟くや否や、俺の口に何かを押し込んで、あたりに目配せをする。

 パッと明るい光が俺の周りに輝いたと思った瞬間、激痛に身体が飛び上がった。

 文字通り、感電したかのような跳ね上がったのだ。

 神経を直接触られているかのような、あまりにも強い痛み。



 ——自分が何か叫んでいるような気がする——




 そんな気がするんだけれどとにかく『何もかも痛い』としかわからない。麻酔も何もないまま続く痛みの連鎖に、だんだんと意識が体から離れていくように感じられる。

 煌めく白い光も、何か必死の形相で俺に声をかけ続ける騎士たちも、俺の感覚で言うならゲーム画面のムービーを眺めているようだ。



「出力を上げろ! 時間がない!」

「これで限界だ!」

「もっとポーションを使えないのか!」

「無茶を言うな! 殺す気か!!」


 叫び交わす医療騎士たちの白い制服は、真っ赤に汚れてしまっている。

 周りを囲んで何か魔法陣を展開している騎士たちもかなり苦しそうにしている。

 戦場さながら、とはこういうことをいうんだろうな。

 他人事のように、その風景を見つめている。


 ——僕がここでこのまま死んだら、俺はどうなるんだ?





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