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姉の運命を変える予定でしたが 〜死に戻った姉と転生した弟〜  作者: こまつり


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お父さんだからね


 

 

 夕食前に入浴を済ませる予定の子どもたちを送り出し、執事に子どもたちの分の旅行支度を指示してから、ローズの寝室に顔を出す。

 

「と、いうことで二人も連れて行くよ」

「……私たちだって行きたいわ」

 

 ローズは悔しがるように唇を尖らせて、腕に抱いたリュートに軽くキスをする。

 ついさっき、あの子も同じように唇を尖らせて拗ねた顔をしていた。

 拗ねたり悔しがったり、そういう顔がシャーロットとローズは本当にそっくりだ。

 

「夏には行けるようになるだろう?」

 

 まだリュートが領地まで移動するのは難しい。

 けれど、シャーロットが最近寝つきも悪くなるほど緊張していたことから、ローズもシャーロットを連れて行くことには賛成してくれる。

 

「ヴィクスだって最近ずっと忙しくて、挨拶をしてリュートの顔を見たらすぐに出かけてしまうのよ?」

「……そうだね」

 

 流石に忙しすぎるとは思っていた。

 責める口調のローズに、目を逸らしていた事実を突きつけられる。

 

 まだ八歳のシャーロットは毎朝登校前にダンスの授業。

 そこから日替わりで礼儀作法、音楽、魔法、古典文学の授業が入り、学校へ。

 五歳のヴィクスは毎朝のランニングと筋力トレーニングから始まって、礼儀作法、文学と数学。

 日替わりの授業は音楽、ダンス、古典文学、経営学と帝王学がある。

 昼を過ぎたら剣術の授業。

 そして放課後には二人とも皇子の遊び相手としてお城に上がり、帰宅は夕食前だ。


 

 外を走り回って、イタズラをして遊ぶ年齢だというのに。

 子どもたちが「やりたい」ということをすべてやらせていたら、いつの間にか私の期待に先回りして応えるように、子どもたちは自分の時間を埋め尽くし、過密スケジュールの中を走っていた。

 授業も減らして、遊び相手としての登城は週に二回くらいに減らしてやっていいかもしれない。



 今はまだ頻回の授乳が必要なリュートと、リュートのそばを離れられないローズ。

 私も家で食事を取れる日はそう多くないが、ローズもまた落ち着いて食卓につける日は少ない。

 シャーロットとヴィクスはだいたい二人で食事をしている。

 たまに私が同席できた日でも、耳にするのは侍女との翌日の予定の確認。子どもが交わしているとは思えない事務的な会話だった。

 

 それに、事故前までのヴィクスはシャーロットに怯えて食事中一言も口を聞かない日もあった。

 

 けれど最近は、少しずつ笑顔での雑談なども増えてきたようだ。

 こっそり嫌いな食べ物を押し付けあっていたと執事から聞いた時は、思わず笑ってしまった。

 

 あの二人が、そんなやりとりをしていたなんて……半年前には考えられなかっただろう。

 

 ヴィクスがシャーロットに言い返すことができる。嫌いなものを嫌いだと言える——年相応の子どもらしい話がなんとも言えず嬉しかった。

 

 シャーロットが変わると宣言して以降、二人の距離は少しずつ小さくなっている。

 

「毎日共有はしてきたけど、シャーロットは本当に頑張っているよ。もちろんヴィクスも。君がリュートと遊びに出られる頃には、見違えるんじゃないかな」

「私だって、シャーロットとダンスのレッスンがしたいし、ヴィクスと遠乗りに行きたいわ! リュートをあなたが見ていてくれたらできると思わない?」

「そんなことを言って、侍女にも任せないじゃないか」

 

 笑ってしまう。シャーロットの時もヴィクスの時も、ローズはこうして『遊びたい』『出かけたい』と不満をぶつけてきながら、どれだけ『私が見ているから』『乳母や侍女に任せてもいい』と説得しても離乳食が終わるまで片時も子どもから離れなかった。

 

 悔しがるローズと穏やかに眠るリュートをそっと抱きしめて、寝室を出る。



 ……子どもの成長というのは、本当に早い。

 目を見開いているつもりなのに置いていかれそうだ。


 シャーロットとヴィクスの仲が改善してきた事は嬉しいけれど、その一方で新たな問題も生まれてきている。

 

 ——皇子たちがあれほど子どもたちに執着するのは予想外だった。

 他家の子どもを複数選ぶ案、残しておけばよかったかな。

『第二皇子を皇太子にと狙うヴァルゼノン家やオーソン家』を挙げられたので、流してしまったのが少し悔やまれる。

 ……それから『他の家の子はいらない』と皇子たちが言い張ってしまったので、今代の『遊び相手』はウチの子だけだ。

 皇家と繋がりを持ちたい家から、当然不満は出ている。

 

 

 ……癒着だなんだと言われても、事実でない以上、こちらとしては痛くも痒くもない——と言い切ってしまうと強がりになるか。

『繋がりが強いのは事実』だが、皇帝の裁量一つでアルセン家とて無傷ではいられないのだから。

 

 だから、皇子たちの方があれほど入れ込んでしまうのは、バランスが悪い。


 

 第二皇子の方はまだ『幼い皇子に初めてできた親しい友達』で済むだろう。

 しかし第一皇子の方は……シャーロットを『手元に置いておきたい』と考えているようだ。

 

 第一皇子は側室の、私の姉の子だ。

 この国の法律上問題はなくても、近すぎる。

 血縁としても、勢力としても。

 『皇家がアルセン家に肩入れしすぎている』と、噂され始めているのだから。

 事実がどうあれ、そういう論調が作られてしまえば、皇帝の権威や政権の安定は……あっという間に揺らぐだろう。

 

 

 少しずつ、皇子たちと距離を取らせよう。

 せめて第一皇子の婚約者選びが始まるまでには、シャーロットが『親の決めた遊び相手』になるように。

 

 遊び相手になることだって、ヴィクスが了承しなければシャーロットはもっと反発しただろう。

 シャーロット本人が『皇家に近づきたくない』と明言しているのだから。

 ……その理由は、どうしてかはっきり話してくれないけれど、あれほど明確に嫌がるのならば、言葉にはできなくとも理由があるはずだ。

 

 ——夜中に、魘されて泣いている事があるというのも、『遊び相手を嫌がるわがままな子』だと自分を責めているのではないだろうか。

 

 子どもたちの未来に……避けられる石は私の手で避けてあげたいのが親心だ。

 

 今回の旅行を機に、遊び相手としての登城を減らすことにしよう。

 子どもたちの過密スケジュールの調整も兼ねて。

 皇子たちからは不満も出るだろうが、シャーロットの負担が軽くなる方が優先だ。

 

 

 私は『お父さん』だからねぇ。

 

 

 それらの調整を執事と話しながら、執務室に入る。

 子どもたちと夕食を取ることは今日も叶いそうにない。

 デスクチェアに深く沈み込んで、天井を仰ぎ深く息を吐く。

 

 しばらく天井板を眺めたのち、頬を叩いて背筋を伸ばす。

 

 

「しっかりしろよ、フランシス。やる事は山ほどある」

 

 小さな声で自分を鼓舞しつつ自室の机で領地から上がってくる報告書や要望書の束を開いた。

 領地で、子どもたちと遊ぶ時間を作るために。

 

 


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