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姉の運命を変える予定でしたが 〜死に戻った姉と転生した弟〜  作者: こまつり


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話し合い


 

「……ヴィクス、起きたのね!」


 まだ半信半疑であったのだろう。駆け寄ってきたシャーロットは勢いもそのままに僕に飛びついて、何度も謝った。


「知らなかったの、あなたがそんなに体調が悪かったなんて……でも、あなたはやめてって言ってたのに、嫌だってちゃんと言ったのに、わたしが聞かなかったから……」


 大粒の涙で顔をぐしゃぐしゃにして謝るシャーロットが落ち着くまでも『お医者様がもう大丈夫って言ってましたよ』と繰り返し教える。


「さて、シャーロット」


 落ち着いて椅子に座れるようになったシャーロットを隣の椅子に呼び、父上が言葉をかけた。


「…………はい、お父様」

「今回のことはわたしにも責任があると思っている。ヴィクスの体調のことを教えていなかったからね。けれど「お医者様が治療している患者」に勝手に魔法を施すのはそもそもいけないことなんだよ」


 厳しい顔で、父はシャーロットに語りかける。


「今回のヴィクスみたいに、治癒力を使うから、ですか?」

「いいや、お薬を使ったり『長く効果のある魔法』を使ったりするだろう? シャーロットも熱を出した時に、早く熱を下げるためによく寝られるようになる魔法をかけてもらったのは覚えているね?」


 神妙な顔でシャーロットが頷き、父上が言葉を続ける。


「その効果を消してしまう魔法だったり同じ効果の薬や魔法を重ねてしまって『効果が強くなりすぎてしまう』こともあるんだ」


 今ひとつ『効果が強まりすぎる』不都合を理解していない様子のシャーロットに、つい僕は口を挟んだ。


「たとえば長期にわたって『心臓を動かす力を強くする』魔法を使っている人に、勝手に『心臓がもっと早く動くようになる薬』を飲ませたら?」


 一瞬、シャーロットの目に『どうしてあんたがそんなことを知ってるの』とでもいいそうな鋭い光が浮かぶが、不満そうな顔のまま少し考えてシャーロットは導いた答えを口に出す。



「…………高血圧?」



 姉の言葉に少し笑ってしまいそうになる。

 父も一瞬笑いを堪える顔になったものの、すぐに顔を戻して首を振った。


「それで済むならいいけどね、心臓が耐えられなくて破裂してしまうかもしれないよ」


 父の言葉にその惨状を想像して青くなったシャーロットは、自分がどういうことをしてしまったのかも理解したらしい。

 自分の軽率な行動で人の命が危うかった。

 それは、その恐怖は……その地点に立ったことのない僕が理解するのはまだ先になることなのだろう。

 そんな日がないことを祈りたいけれど、打ちひしがれ、消沈している姉を見ると今の姉の気持ちに寄り添ってあげられたら、とも考える。


「わたし、本当に……ヴィクスを……」


『助けるつもりだった』なのか『殺すつもりはなかった』なのか。

 そこは言葉にならなかったようだ。

 自分でも、わからなかったのかもしれない。


「今回、ヴィクスの命は助かった。ヴィクスの治癒力が回復できたおかげでね。そしてシャーロットも、もう忘れないだろう?」


 俯いたシャーロットの髪を撫でてやって、父は次の話に移ろうと促す。


「ヴィクスが嫌だと言ってもやめなかった。ここだね」

「ヴィクスが怖がってるのは、わたしが叩くと思ってると思ったの。もう叩くのはしない、仲良くしたいって言ったしお茶会もしたのに」

「シャーロット、思い出してごらん? ヴィクスを虐めて叱られた後『あなたのせいで怒られた』ってヴィクスを蹴飛ばしたことが何回あったか覚えているかな?」

「…………たくさん……」

「正確には覚えていないくらい、たくさんやってきたね?」

「…………はい」


 しなしなと肩を落としてシャーロットがさらに俯く。

 膝の上の手はスカートが皺になる程握りしめられている。

 父の知らないところで僕にしてきたことも、思い返しているのかもしれない。

 

 しおらしい態度だけ、見せているというわけではなさそうで、僕は少しだけ姉の変化を信じる気分になる。

 

「そうして何度も蹴られたり叩かれていたら、急に『優しくする』って言われたとしても、信じられるかな?」


「…………いいえ」


 涙声のシャーロットに、父は頷いてそっとシャーロットの頭を撫でる。


「信頼を取り戻すのは簡単なことじゃない。何度も『本当にそう思っているのか』って疑われて、『やっぱり変わっていない』と言われる」


 確かに僕もずっと「本当に優しくするつもりなのか」「また裏があるんだろう」という警戒を捨てることはできなかった。

 今でも、僕の拒否を無視して魔法を使ったシャーロットには不信感が強い。


「…………」

「それでも、きちんと向き合って、自分を律していくことで、少しずつ許してもらうんだ」

「完全に許してもらうことは……できないの?」


 怯えたように顔を上げて、父を見つめるシャーロットに、父は悲しそうに笑った。


「相手によるね。許してくれる人もいる、絶対に許せないということもある」

「ヴィクスは……」


 チラリと僕の様子を伺ったと思ったら、シャーロットはまた顔を伏せてしまった。


「何度もヴィクスは嫌だと言った。でもシャーロットはやめなかった。相手のことを無視して、自分のしたいことを優先したんだ」

「…………はい」

「それは、いじめているのと同じだよ。相手のためになると思っていたとしても、相手が嫌がっているのに自分のやりたいことを押し付けるのは、嫌がる相手を叩いて従わせるのと何も変わらない」

「……ごめん……なさい」



 今までにも、こうして叱られたことは何度もあっただろう。

 僕の同席でこういう話をされたこともあった。

 けれど…………姉は変わらなかった。

 今回は……どうだろう。

 姉は初めて見せる、悔しさとも哀しさとも言いがたい表情で泣きながら床を睨みつけている。

 それは、僕に対する恨みがあった今までの顔では無くて、自分に対する怒りのようだった。


「今までも何度もそういって謝ったね?

 そして、また元に戻った」

「もうしないわ! いい子になるって約束する!」

「どんなに謝ってもヴィクスが許してくれなくても、それでももう絶対に意地悪をしたりいじめたりしない。ヴィクスがそれを信じてくれなくても、優しくし続けられるかい?」

「するわ! 絶対にもう意地悪なんかしない!」

「うん……今の気持ちを忘れないようにしようね」


 しっかりとシャーロットの意思を確認して、父は僕に視線を向ける。


「ヴィクス、今は許せないのなら許さなくてもいい。今回シャーロットはそれだけのことをした。けれど、今のシャーロットの決意は、認めてあげてくれるかい?」



 …………複雑な気持ちではある。

 また軽率に「自分のやりたい事」を優先してしまうのではないかという疑念は捨てられない。

 今までいじめられてきた記憶もある。けれど、「馬車の事故で命が助かったのはシャーロットのおかげ」というのを踏まえると『いじめるのをやめる』『助けようとした』というのは本気だったのかもしれない。


 五歳の気分としては「信じていいものか」なのだが、二九歳の経験としては『取り返しのつかない失敗もある』のだから今回僕は命を取り留めたことで「まだやり直せる」「一度くらい信じてあげたい」とも思う。



 ここで、姉の決意すら『信じない』ということはできるけれど……。



「…………はい」


 父が、安心したように微笑む。

 許せないのなら許さなくていい、父もそういった。

 これからのシャーロットを見て、今回のことを許せるか、今日の決意がどこまで強いものか見ていてもいいのかもしれない。

 何せ僕の中には二九年生きた経験がある。自分を消してしまえたら、という失敗も……した事はある。

 ぎゅっと僕と姉を両腕に抱きしめて、父が頭を撫でてくれる。


「じゃあ二人とも、今日はもうおしまいだ。今日のことを忘れないように。シャーロットは部屋に戻って学校の宿題をやってしまいなさい。ヴィクスはまた寝ていないといけないからね」

 父上に促されて、僕たちはそれぞれベッドに戻ったり部屋に戻ったり。

 

 ——姉を許せる日が、来るのだろうかと不安を感じながら。

  

  


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