表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

無理な相談

作者: 喜多河 済

 その男はある建設会社のセールスマンであり、ある家庭を訪問することにしていた。

男は高速道路を走っている。愛車である男の車は近頃開発されたもので、男はためていた金で、さっそく買ったのだった。しばらく走ったあとで、車は目標とする家のまえについた。

「すみません、アール建築企業のものですが」男は家のなかへと呼びかけた。

 しばらくすると、その家の婦人が出てきた。

「なんでしょう。あたらしい家の販売でしたら、けっこうですのよ」婦人は事務的な口調で言う。

「いいえ、ちがいます。そういう用事ではございません」男は申し訳なさそうに答える。

「では、なんです。建築会社でしたら、建築物の販売以外に…」予想もしていなかった応答に、婦人はとまどったようだ。

「私どもは、そういった普通の建築会社とはいくぶんちがった会社でして…」

 男は言いにくげに、あいまいな返答をした。

「それでは、用件を教えてください。なんだか、すっきりしないので…」婦人は言った。

「あのう、言いにくいのですが…。わが社でこの土地に、あたらしく建てたい建物があるとのことでして……」

 男は言い、うつむいた。なんとも無理な相談だとは、分かっているのだ。

「それで、この家を取りこわさせてほしい、と言いたいのですか」婦人は表情も変えずに言った。

「恐縮なのですが……」男は婦人の顔を見ずに言う。どうしても、こう言うしかないのだ。なにしろ、会社からの命令なのだから…。

「お金の件は、どうなのかしら。相当に張るようでしたら…」

 男はすこし可能性があるかもしれないと思い、とても高い金額を提示した。

「そんなに……」婦人は、心底おどろいたようであった。それもそうだろう。家をこわすだけで、その金額とは…。

 男は相手が承諾してくれたものと思い、にこりと笑ってうなずく。


 帰り道。男は陽気な気分で愛車を走らせていた。男はつぶやく。

「あの女の主人では不審がられてしまい、駄目だったからな…。理由を変えてはみたが、夫から言われていれば、捜査をされたかもしれない。成功しないと、あやういところだった……。それにしても、わが社はなぜ、あんなことをしたのだろうな…。家の下に、麻薬をたくさん置いておくなんて……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ