表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/20

決勝戦 未来をこの手に 前編



内閣情報調査室 資料管理課


本省課長 倉井 庚男


2024年12月7日


秘匿身分の行動並びに人類存亡の危機に関する報告書 


・添付された資料


主に華族階級の参加者による証言


一部抜粋


※極秘資料につき持出厳禁



◇◇◇



────観客として参加した貴族令嬢の証言。



決勝戦はスィーツ対決だったんです。ジャンケンはマリア様がお勝ちになって、スィーツはいかが、とおっしゃりました。日を改めて行うはずだったんですが、黒い安息日が早く食べたい今すぐやりたいと言い出して……インド代表のスジャータさんが絶望的な表情を浮かべてましたわ。あれは何だったのでしょうか。


マリア様は手提げの籠から、赤い果物をお出しになりました。どうしてあんな小さな籠から観客席の全貴族令嬢に配れる数量の果実が出せるのかしら。ほんと不思議だわ。とにかくみんなで手分けして、配り終えましてよ。


ええ、リンゴでした。すっごく美味しかったです!



◇◇◇



────審査員Aの証言。



私は審査員として公正に判断すべく、ひとつの料理としてリンゴを口にしました。果実をそのまま提供するのが料理として正しいのか悩ましいのですが、高度なレベルの戦いですから、野趣あふれる演出と解釈しました。


いえいえいえ、マリア様だからって事はありません!背後関係が怖いとかも無いですから!断じて!


私は皮ごとリンゴを口にしました。これがね、凄いんですよ。ズッシリとした重い実でありながら梨ほどの水気も無いのですが、さほど力を入れず嚙み切れるんです。歯ごたえ、心地よかった!


そこでプワッとね、香り立つんですよ。リンゴが。


味はね、最初に浮かんだのがリンゴジュース。ははは、面白いでしょう。でも食べたらわかると思いますよ。ああ、リンゴジュースって、高級リンゴの味を再現してたんだって。そして同時にジュースは偽物だなって。甘さが違う、甘さの立体感、奥行きが。


爽やかなんですよ。罪の感じない無い甘さ、とでも言いましょうか。ヘルシーだのオーガニックだの、内心見下していた自分を恥じましたね。本能が疼いてしまいました。もっと頑張れ、健康になれ、ってね。あの日から毎朝ジョギングを始めたんですよ。あなたもどうですか、朝焼けが見れて気持ちいいですよ。



◇◇◇



────世界貴族令嬢協会・会長 六甲 小呂士の証言。



わしは歯が悪くてのう。それでもあのリンゴは皮ごとサクサク行けたわい。やはり良いリンゴは違うのう。ふっほっほ。ふだんからリンゴは食べておったが、皮ごと食うのは何年ぶりじゃろか。薄い皮での、それでいて噛むときに良いアクセントになるんじゃ。皮が美味い、とは言い過ぎじゃが、品種によっては皮ごと食った方が美味いのは確かじゃ。おぬしも試してみい。


なぬ? リンゴの皮はペトペトしてて、ワックスでも塗っているのかじゃと? ぶわっかもん! あれはリンゴが熟成すると果粉が溶けておきる現象じゃ。むしろ食べ頃の証じゃわい。害はないどころか殺菌作用があるのじゃぞ、なんせ果実を守る目的でああなるのじゃからな。



◇◇◇



────中国代表・诗涵 (シーハン) の証言。



マリアがね、皆が夢中でリンゴを食べる姿を見てこう言ったね。



「皆様は知恵の実を口にしました。その味を知ってしまった。もう知らなかった事には戻れません。不可逆ゆえに人類は前に進むしかないのです。言葉を覚え、農業を覚え、奪うことを覚え、これから先も永遠に続くでしょう。」



私は永遠に続くかどうかは疑問だったけど、まあ間違ったことは言ってないと思ったね。人は前に進むしかない、今でもそう思ってるよ。マリアは続けたね。



「知恵ある者も、さらに知恵ある者に奪われる。永遠に繰り返す悪夢の輪舞 (ロンド) 。知恵は悪魔が授けたものとされますが、全知全能にして万能であるはずの神が、どうして悪夢を断ち切らない。神は役割を果たすべきですわ! 主よ、救いたまえ、原罪たる知恵を奪いたまえ!」



中二病かな? 私は思ったね。でも次の言葉に驚いたね。



「とまあ、そんなことはどうでもいいのです。私なりのジョークでしたがいかがですか。そもそも神より皆様の方が強いです。近代兵器や高度な哲学、神学すら後世の人間に解釈の補強してもらわなければ信者を納得させられません。繰り返しますが、古代の神々よりあなた方は強いのです。」



確かに。現代社会にポセイドンだのゼウスだの現実に現れ世界を滅ぼそうとしたところで、多大な犠牲者を払ってでも立ち向えば退けることが出来そうだ。それ以外の神は危なくて口にできないが、それでも何とかなりそうな所まで文明は進化している。


その頃からかな、マリアの顔が黒く影のようになって見えなくなったね。黒い修道服とフードに隠れて、真っ黒な塊が袖から白い手を見せて、地下闘技場で私たちに話しかけていたね。選択を迫っていたというか。


でもね、気になったのは、どうしてマイクや拡声器も無く、観客席にいる全ての貴族令嬢にマリアの声が聞こえていたこと。今考えても分らないね。



「皆様は間もなく新しい神々となり、悪魔となるのです。水の上を歩く私より、スマホの方が奇跡です。無限にマナやリンゴを出す私より、時間の歪みを発生させる人工衛星の方が奇跡です。要件は満たしました。新時代の神々よ、旧世代の■■■■がカタストロフィーを起こす前に、新たな力を示すのです。」



注釈)時間の歪みを発生させる人工衛星

タイムマシーンは既に実在どころか普通に宇宙を飛びまくっている。人工衛星は時速3万キロ前後で飛んでおり、地球との時間のずれが発生している。んなこと知ってるわ!という人も多いだろうが、古代の神って時間を進めたり戻したりあんまりしなくね?時間という概念の認識が、今と昔で大違いなんだなって思うわけよ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「願わくは、われらの思想がテクノロジーに後れをとらぬことを。願わくは、われらの情熱が支配力に後れをとらぬことを。願わくは、恐怖ではなく愛が変化の力の源たらんことを」(*´ω`*)ノシ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ