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【R】の背後に 中編


関西弁の男は「3」という数字にこだわりを持つ。


一度起きたことが二度あれば偶然かもしれないが、三度あれば必然と彼は判断するのだ。


隠匿された組織の存在を調べる常套手段は金の流れである。関西弁の男は主催者・六甲小呂士の口座に振り込まれた大金を調べ、いくつかの不自然なペーパーカンパニーへたどり着いた。同時に大会へ出場する貴族令嬢のスカウトマンが推薦した後に届ける連絡先も洗う。これまた別のペーパーカンパニーを通して【R】名義の招待状を送っていた。


捜査はここで行き詰る。ここからが腕の見せ所、ペーパーカンパニーの共通点を探っていくのだ。世間から隠された貴族令嬢の存在を知り、大金を動かし、バチカンとも関われる組織となれば数は絞れる、あと少し。


逆算してシスター・マリアの存在も調べた。

そして見えてくる三つの【R】



◇◇◇



アメリカの片田舎、マサチューセッツ州エセックス郡マニューゼット川の川尻にある小さな港町の小さな教会。そこで行なわれたミサの後、教会を出ようと立ち上がる信者の中心で祈りを捧げ続ける幼女がいた。


プロテスタントが多いアメリカでは、カトリック教会のミサには遠くからの信者も訪れる。神父はその幼女が親と行き違いになったと思い参加者たちに声をかけたが、誰も知らないという。赤いワンピースに青いアウターを羽織った幼い彼女は、自分の名前を喋るが精一杯だった。



「マリア」



マリアは神父が教会と併設して建てた孤児院で育てられた。とはいえエレメンタリースクール (小学校) も兼ねたこの孤児院は、某大手財団による多額の寄付で賄われており、マリアは不自由なく過ごして月日は流れる。数年がたった。


アメリカの学校は一般的にプールがない。よって水泳の授業もないのだが、漁業が中心のこの町では、海に教師が同行しての水泳訓練と称した水遊びを行うのが夏の行事となっていた。マリアの孤児院兼エレメンタリースクールは神父やシスターも同行した。


夏の砂浜でも黒い修道服を脱がない古参のシスターはともかく、神父や若いシスターも水着で参加する水泳訓練は、なぜか教会に熱心な男性信者を増やしているのだが、それはともかくマリアが初めての水泳訓練で騒動を起こす。



海の上を歩いたのだ。それもかなりの距離を。



急に訪れた静けさに気付いたマリアが浜辺を振り返り、その場で垂直に沈んだ。幸い海は浅く助けも早く、溺れたわけでもないのだが、その日から町はマリアの噂で持ちきりだった。水の上を歩く少女がいる、と。


噂は町の有力者に、そして某大手財団の耳に届く。財団は三名の研究員を派遣、調査の結果、彼らはマリアの身柄を財団預かりにすることを神父に提案した。


神父はそれを考慮の上受け入れた。幸いマリアも前向きに合意した。神父が受け入れた理由は三つ。


一つ。噂が広がるとマリアにとって良くないことが必ず起きる。この町は良い人ばかりだが世界はそうでない人も多い。私では彼女を守り切れないだろう。


二つ。マリアは不思議なことに執着がない。誰に対しても平等に優しく、平等に冷淡なのだ。彼女はこの街を愛しているみたいだが、同時に心残りも無さそうだ。


三つ。私はマリアを愛している。だが同時に恐れてもいる。



財団の名はロックフェラー。アメリカ最大、いや、世界最大の民間慈善団体であり、世界最大のNGO (非政府組織) でもある。マリアの取り扱いについて財団では議論が交わされた。最高顧問はもちろん世界中の有識者を集め討論が行われた。その席にはインド代表のオブザーバーとしてスジャータの父の姿もあった。


財団は政府にもマリアの存在を隠匿した。心ある議員数名には話を通しているが、基本的に政治利用させないための処置だった。とはいえ調査が進まない。オカルトや超常現象、形而上学の学者などインチキな詐欺師か自己陶酔した陰謀論者しかいない。かくなる上はその筋の最高権威に頼るしかあるまい。財団はバチカンにコンタクトを取った。



注釈)形而上学

オカルト学。履歴書に「〇〇大学で形而上学を専攻」と書いて就職できるのは人事課が存在しない会社か月刊誌ムーの編集部だけ。ちなみにエヴァの冬月コウゾウは形而上生物学の教授、あるいはガーゴイル。



◇◇◇



バチカンのローマ教皇庁は震撼した。



奇跡を起こす少女がいるので協力しろと、アメリカのロックフェラー財団から連絡が来たのだ。しかも秘密厳守で。世間に話が漏れるとバックは世界最大の非政府組織、何されるかわかったもんじゃない。教皇猊下のお耳に入れるが気絶しないだろうか、ファティマ第三の予言のように。



注釈)ファティマ第三の予言

1916年、聖母マリアがポルトガルのファティマに現れ近所の子供に3つの予言を告げたとされる事件。時の教皇がそれを読んで気を失ったと言われている。2つまでは公開された。後に3つ目が公開されたものの内容が疑問視されている。真偽はともかく、ファティマは信者の観光地になった。



とはいえバチカンも思われているほど神聖で汚れなき存在ではない。マネーロンダリングが激しく逮捕者が絶えないためキリスト教に影響されない第三者機関を取り入れ浄化を図っている最中だ……ん?


それだ。第三者に後見人を頼もう。カトリックの敵でもなく、媚びることもなく、公平に奇跡の少女を見届ける財力と権力を持つ存在に。



◇◇◇



ロスチャイルド家は憤慨していた。何かあるとすぐ「ユダヤの陰謀」とか言われて世界を影で操ってるだの、あやしい儀式をしてるだの……19世紀ならともかく今は思われてるほど金も権力もないっての。


だいたい、そこまで世界を動かせるならヨーロッパ全域ユダヤ教になってるっての。俺たちユダヤ教徒だぞ? そもそもそんな権力があったらナチスの台頭も許さなかったっちゅうの。あいつらのせいでロスチャイルド家は瀕死のダメージ受けたんだぞ。


特に日本人。おまえら外国で「日本は今もトクガワが忍者を使って政府を支配している」って真顔で言われたらどう思うよ。ニンジャスレイヤーかよ。それと俺たちキリスト教徒とも仲悪くねえよ。むしろバチカンの銀行を第三者機関として資金調達とか投資の運用してやってんだぞ。金目当てなら自分の銀行だけでやってるわ。


ん? 電話か? はい、もしもーし!



【R】 Romana:ローマ教皇庁

【R】 Rockefeller:ロックフェラー財団

【R】 Rothschild:ロスチャイルド家



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