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三回戦 लौ का कताई शीर्ष 炎のコマ


インド代表・スジャータはヨガのポーズで闘技場を見ていた。


धनुरासन (ダヌラーサナ) 弓のポーズと呼ばれたこの体制を、彼女は何故か「水魚のポーズ」と呼んでいた。理由は彼女にしかわからない。全てが神秘的なインドの貴族令嬢・スジャータはこのポーズでタクシーを止めることができる。彼女は呟いた。



「स्वर्ग, धरती, इंसान, वैक्यूम चक्रवात」


(天、地、人、真空のハリケーン)



◇◇◇



闘技場では貴族令嬢たちが、お皿にご飯とカレーをよそい、気の早い令嬢はすでに食べ始めている。混沌としたカレー・ルーだったが、少し焼き目を入れた豚肉が入れられ、豊富な根野菜の具沢山なカレーが良い匂いを漂わせている。



「美味しいですわ!ホーホホホ!」


「お代わりもありましてよ!」


「遠慮なくお食べになって!」


「うめ、うめ、うめえですわ!」



日本代表・黒い安息日は観客の貴族令嬢に混ざってカレーを食べている。いや、せめてお前がよそえよ!なんで一緒に食ってんだよ!誰もがそう思ったが口にしなかった。審査員たちは貴族ではないので余計なことを言えば後が怖いし、観客が口にするのはカレーだ。今は食べるのに忙しい。


そんな中でも審査員たちは自らの職務を怠らなかった。まずカレーはバーモンドの原型を留めないほど混沌としているが、奇跡的にバランスが取れて深みを増している。あくまで家庭的なカレーの範疇は超えないが、それでも美味いと断ずるに些かの躊躇も持たぬ。


豚肉は別途焼いただけあって、噛み応えを残しつつも脂が落とされ、赤身の肉質を純粋に楽しめる。クミンシードと炒めていれば少しエスニック感も増すのだが、そのような小細工も無く塩と胡椒で下味が付けられているようだ。


でもまあ、こまけぇこたぁいいんだよ。みんな楽しそうじゃないか。それが全てさ。



◇◇◇



余談だが、ハウス・バーモントカレーは中国でも人気らしい。好侍食品・百梦多咖喱という名前で売られており、八角入りで日本とは味が違うとのことだ。筆者は食べたことがないので機会があれば試したい。なお、アメリカで日本のカレー・ルーは断トツでエスビー・ゴールデンカレーが人気。とはいえカレー自体が一般的ではなく、あくまでマニア向け。



◇◇◇



観客の貴族令嬢たちが満腹になったころ、インド代表・スジャータが闘技場の中心に現れた。彼女が合図すると大きな鍋が運ばれる。それがスジャータの前に置かれると、彼女は鍋に手を触れて、こう呟いた。



「लौ का कताई शीर्ष」(炎のコマ)



不思議なことに大きな鍋の底から炎があがり、ぐるぐると回転し始めた。それに合わせたかのように、スジャータもくるくる舞い踊る。


シタールとタブラ (打楽器) の奏者が現れ演奏を始める。鍋を運んできたスジャータの従者も踊り出す。



パオーン!

パオーン!



なぜか現れた二匹のゾウさんが雄たけびを上げた。どうやって地下闘技場に入ってきたかはともかく、鍋は回る。スジャータは踊る。従者も踊る。つられて観客の貴族令嬢も踊り出した。もちろん日本代表・黒い安息日も踊る。


踊れ、踊れ、浮世を忘れ

回れ、回れ、コマのように回れ


スジャータは舞う、サリーをなびかせて

スジャータは踊る、我をわすれて無心に

スジャータは回る、ハリケーンのように


くるくる、くるくる

くるくる、くるくる




ゴン。




激しく踊るスジャータが、審査員が座る椅子に足をぶつけた。脛を押さえてうずくまるスジャータ、無言で苦悶に耐えているようだ。笑いをこらえるシタールとタブラの奏者たち。ゾウさんたちも心配して声をかける。



パオーン?

パオーン?



タブラのリズムが乱れる。シタールの奏者が睨み付ける。我慢しているのはお前だけじゃない、耐えろ。目線でそう訴えかける。タブラの奏者が正面を向く。目線の先には悶えるスジャータ。シタール奏者が音を外す。限界だった。



「ぷふぉ! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


「お、おま、おまえ! ぶははははははは!」



ばん。



闘技場の照明が消え、一転して暗闇に。ドゴッ。バギッ。まるで何かを殴りつけるかのような音がひびき、その後何かが引きずられるような音がして、照明がついた。


そこにタンブラー奏者とタブラ奏者の姿はなく、整然と立つスジャータが、優雅な身振りで両手を上げた。



「準備が出来ましてよ、カレーの極みとくとご賞味あれ」



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― 新着の感想 ―
えぇー!?、平和主義…いや、スジャータは悪を許さぬ子じゃたな…(´◡‿ゝ◡`)←だれ 奏者はスタッフが美味しく…?
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