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三回戦 मेरे झाँसी नहीं देंगे 我が王国、決して放棄せず


創作を超える史実は存在する。


フランスの英雄、ジャンヌ・ダルクなど最たる例で、超人でも軍人でもない庶民の少女が立ちあがり、軍を率いて侵略者であるイギリスを打ち払ったのだ。ジャンヌ・ダルクがフランスの裏切りで魔女として火あぶりの刑に処された489年後、カトリック教会にて聖人と認定される。


インドにもジャンヌ・ダルクと並ぶ女性が存在した。


ラクシュミー・バーイー (रानी लक्ष्मीबाई) はインドの小国ジャーンシーの王妃。卑劣なイギリスに立ち向かい、国民の絶大な支持を受け命を懸けて戦った。表題の「मेरे झाँसी नहीं देंगे 」 (我がジャーンシー、決して放棄せず) は彼女がイギリスに向けて放った言葉として後世に伝えられている。戦死したラクシュミー・バーイーの遺体は、イギリス将校が貴人の礼をもって弔った。



◇◇◇



インド貴族令嬢スジャータはラクシュミー・バーイーと同じくマラーター族の家系で、先祖代々のクシャトリヤ (貴族階級) である。高いカーストと裕福な家庭で育った彼女は、憧れのラクシュミー・バーイーとなるべく、ヒンドゥーの教えを守り、庶民の生活を豊かにするべく貴族の義務を怠らなかった。



ある日、スジャータは耳にした。

神聖なる牛を食べる邪悪な奴らが街に住んでいると。



そんな悪党は懲らしめてやる、スジャータはいきり立ち配下を連れて街に出る。インド、しかもヒンドゥー教徒が牛を口にするなど到底許されざる行為であり、現在でも噂だけで暴行やリンチ、殺人事件も後を絶たない。実際それほどまでの禁忌なのだ。


貧民街で彼女が見つけたのは悪党ではなかった。


ダリット (दलित) 不可触民と呼ばれた彼らは、インドのカースト最下位すら入れてもらえない貧困層だった。インド憲法で禁じられているとはいえ現在でも差別は激しく、職は選べず収入も低い。彼らもヒンドゥー教徒、牛が食べたいわけじゃない、他に食べるものが無いのだ。


老いた牛皮職人が削いだ肉を口に入れた。周囲の住民がそれを口汚くののしり煽り立てる。スジャータは震えた。悪党はどっちだ。穢れた民はダリットにあらず、偏見と迷信を盾に社会的弱者をイジメる貴様らだ!


スジャータはサリーが汚れるのも厭わず地に伏せ老いた牛皮職人に詫びた。以降彼女は自らも牛肉を口にして、貧民層の救済に尽力している。これは根深く難しい問題で、彼女も暴力の対象になるかもしれない。しかしイギリスに立ち向かったラクシュミー・バーイーは更に困難な道を歩んだのだ。


我が領民の社会問題、決して放棄せず!

スジャータは本物の貴人、真なる貴族令嬢なのだ。



注釈)

インドの牛食については宗教的禁忌を超えた社会問題を含んでいる。食べたくないのなら食べなくていいし、その必要もない。たとえば筆者も相当な奇食好きではあるが犬食には嫌悪感が拭えない。絶対無理だし聞きたくもない。


かといってそれを口実に、犬食の文化を持つ民族の人に暴力を振るうなど論外通り越して異常者である。耳元でしつこく犬食の感想を言い続けたら一発くらい殴るかもしれないが……そもそも日本人の卵かけご飯は世界中がドン引きしているぞ?


最後にインド・カルナータカ州首相にしてインド国民会議立法党の党首を10年以上務めているシッドゥことシッダラマイアの言葉を引用させて頂く。



「インド憲法は、すべてのインド人に食事を選ぶ自由を保証している。かなりの相当数のインド人が牛肉を食す。私はヒンドゥー教徒であり、牛肉も食べます。これは私の権利です。」



難民研究フォーラム:ヒンドゥー教徒が牛肉を食したことが判明した場合のペナルティーに関する情報より抜粋。



◇◇◇



「これより三回戦、準決勝を開始するッッ!」



大会主催者の六甲 小呂士 (ろっこう おろし) が阪神甲子園の地下闘技場で絶叫する。大歓声を上げる観客席の貴族令嬢たち。なんせ今回から自分たちも試食できるのだ、応援の熱も上がろうというもの。立ちあがってセンスやオペラグラスをぐるぐるまわす令嬢もいた。



「き・ぞ・く!き・ぞ・く!」

「き・ぞ・く!き・ぞ・く!」

「き・ぞ・く!き・ぞ・く!」

「M・Z・A!M・Z・A!」



ひとりだけラウドネスのフアンが混ざっているが構うもんか。だって今夜はクレイジーナイト、読者も少ないし気付く者もおるまいて。それはともかく審査員たちが入場してきた。彼らは功夫服を身につけ、手にはヌンチャク、奇声を上げている。



「アチョー!」

「フン、ハイ、ハー!」

「ホワタタタタタ!」

「わたしは一向にかまわんッッ!」



復活ッ!審査員復活ッ!中国代表の貴族令嬢・诗涵 (シーハン) に拉致された彼らは、福建省に人民政府が隠匿する幻の南少林寺で一か月の修業をつみ、フランス外人部隊で鍛えられた基礎体力もあいまって、その功夫を完成させた。しかしそれは本作に一切関係が無いのであった。



「これより日本・インドのカレー対決を開始する!」



【審査員が学んだ中国拳法】


本編と何の関わりもないが、せっかくなので審査員たちが南少林寺で学んだ中国拳法についても紹介しておこう。彼らの武術は大きく二つに分かれている。


・中国山陰武術


突鶏拳  鳥が梨の身をついばむ姿を模した拳法

縞音拳  代表的なのは出雲白兎脚という蹴り技


・中国山陽武術


八馬空知拳 フグのように針で刺す暗器を使う

廣縞赤鯉拳 今年は惜しくもリーグ優勝を逃す

桜花夜魔拳 桃汰郎という武芸者が名を馳せる


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― 新着の感想 ―
やはり審査員達は過酷な目に遭っていたようですね。 フランス外人部隊仕込みの軍事訓練に、本場中国の功夫。 順調に新たなスキルを取得していきますね。 何処へ出ても皆から一目置かれる、タフで屈強な逸材に仕上…
カキカキφ(・∀・)<中国拳法って華拳、峨媚拳、武当拳、少林拳ぐらいしか知らないから勉強になるな〜♪、全く元ネタがわかりませんわ〜(爆) スジャータなんて良い子なの…是非ともレギュラー化して欲しいか…
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