第五話
女王であるローレンツ王と城の外に出てみると、そこは紫色の霧で覆われていた。
振り返って城を見ると、城もすっかり紫色の霧に包まれていた。ただ何故か上を見ると霧が薄くなり空を見上げることができた。肉眼でもわかるくらいに彗星が光を増して紫色の長い尾をたなびかせながら、天空からこちらに向って来ようとしている。
城の外に出てみると、城の奥にある森のほうを目指して走っている女の後ろ姿が見えた。
アラビアンスタイルの青と白の衣装を着た女性だ。
ローレンツ女王の足元には草むらが生い茂っている。
「陛下、危ない!」
草むらから蛇が鎌首をもたげていた。
従卒長のアームがローレンツ王の足元を剣で掃った。
私も自分の周りの蛇に剣を向けた。
蛇の胴体は二つにちぎれ、地面に横たえた。
「蛇も最近城の周りで多くなってきております。
陛下、ご無事でございますか」
「私は心配ない。地面が震えているな」
地面はかすかな振動を伴って揺れているのがわかる。
(彗星が地震を引き起こしているのか)
「アーカートの森から何か光るものが空に向っていくぞ」
「彗星にその光が当たったぞ」
「彗星が割れた」
近くの兵士たちが空を見上げて叫んでいる。
彗星から更に四つの欠片が分かれいった。彗星の本体は急速に方向を変えてアーカートの空から遠ざかっていく。
一方彗星から分かれた4つの欠片がアーカートの地に近づいている。
一つ目の欠片は、紫色の光が白一色で輝くようになり長い尾が空を彩っている。やがてスピードを上げたかと思うと地表近くで一段と大きく輝き、この城の海の先のベクターが支配する島を目掛けて飛んで行った。
二つ目の欠片は、このアーカート城の森の先にあるアーカート山の山頂付近を目掛けて落ちて行った。
三つ目の欠片は近くの砂浜の岩場の先で、一瞬輝きを増したかと思うと燃え尽きたのか星も長い尾も消えてなくなった。
最後の四つ目の欠片は、紫色の光と長い尾を維持したまま城の近くの森に目掛けて落ちようとしていた。
紫色の光は蛇の頭の様で、彗星の長い尾は蛇の胴体から尻尾のように見える。4つ目の彗星が空をかける大蛇のように見えるのは気のせいか。
四つ目の彗星の欠片は燃え尽きることは無く光も一定の明るさを維持しながら森へ進んでいる。
「森に星が落ちるぞ」
従卒長のアームが怒鳴っている。
森の奥から眩しい紫色の大きな閃光が見えたかと思うと、立っていられないほどの衝撃で地面が大揺れし、大きな地鳴りが響いた。
私は、身を伏せて衝撃を躱そうとした。横にいるローレンツ女王にも身を伏せるように叫んだ。
地鳴りはかなりな時間続いた。
身を伏せたまま、森を見ると、紫色の閃光が途切れることなく宙を照らしている。
木々から煙が立っているのが見えた。
地面の揺れが落ち着くと、私はローレンツ女王を抱きかかえ、城の奥に逃げ込んだ。
青ざめた顔のローレンツ女王を部屋のベッドにゆっくりと降ろし、羊皮紙を持ってベッドも横の椅子に私は座り込んだ。
「陛下、いえ、女王陛下。
この羊皮紙に書いているのと同じことが起きたのですね。その後も同じことが続くのでしょうか」
女王はベッドに伏せたまましわがれた小さな声を発した。
「恐ろしい。忌まわしい。悪魔の封印が解かれる。
森は危険だ。兵に森の周りを囲み、森から何者も脱出しないよう見張ることが必要だ」
女王の下にアームがやってきて女王から指示を受けている。
「リチャード、古文書に続きがある。早くそれを実行せよ」
そう言われた私は古文書の羊皮紙の続きを読み始めた。
“私は一目ぼれをした知的で愛らしく大きな二重の目を見開いて、太陽のような赤い唇の女性に問いかけた。
女性の名前?
3つの神器の在り処?”
『太陽の子。私の名はアマ...』
“小声で聞き取りづらかったが私はアマデアに聞こえた。アマデアは私に告げた“
『3つの神器は紫色の彗星が4つに分かれたうちの3つに落ちています。
悪魔を封印した3つの神器が、紫色の光の彗星の邪悪なエネルギーで力が衰えるのです。
そして昼間の太陽が暗闇に覆いつくされた時、封印が完全に解けてしまいます。
今封印が解かれようとしています。
だからすぐにあなたは私と契りを』
“私はすぐにアマデアに結婚してくださいとプロポーズをした。
そしてアマデアとともに彗星が落ちた場所を探し3つの神器を手に入れることができた。
3つの神器はその後悪魔に奪われることもあったが、太陽の子のパワーとチャトランガの魔術で、途方もない灼熱と極低温の龍神を召喚し、アーカートの地に平和を取り戻すことができた。
私はアマデアにこれで永遠にこの地は平穏かと“
『王様、いえ私の最愛の夫。
今回は悪魔の封印に成功しました。
しかし悪魔アポフィスは必ず封印を解いてきます。また彗星がやってくるはずです。
悪魔アポフィスを完全に消し去るには封印後、悪魔を斬首することで完全に消し去ることができます。
それ以外には東方の幻の薬術を使うことで完全に悪魔を消し去ることができるという噂で伝わっておりますが確実ではありませんし、このアーカートの地にその薬術の技術はありません』
“アマデアは目を潤ませて一糸纏わぬ姿となってわたしに向き合って言った”
『王様、次の彗星がやってきて悪魔アポフィスの封印が解かれる時期は今よりだいぶ先になりましょう。彗星はしばらくアーカートに近づきません。
あなたの子孫が次の封印をすることになりましょう。
王様と私は子孫を作ることが使命です。さあ、私を抱きしめて私の中にあなたの分身を解き放ってください』
“アマデアは妊娠した。私の長い話はそろそろ終わる。
私の子孫よ。
数百年の先、再び紫色の光の彗星がこの地に近づいてきた時に悪魔アポフィスは蘇る。
そのとき、ここに書いた通りのことをして再び封印を実行せよ。
封印したら悪魔アポフィスの首を取れ“
“ここまで書いてみて、※※はおぞましい物だ。記すだけで邪悪な眼と牙を思い出し封印が解かれてしまいそうだ。
私の子孫よ、※※の文字は消すが、封印が解かれれば自ずと判るはず“