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赤いアポフィスの悪魔を封印せよ  作者: lavie800


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第三話

挿絵(By みてみん)

 雨がしとしとと降り続く中、ただの雨音ではなく、寒々とした夜空の遥か上方を彩るかのように、珍しい青い稲光が颯爽と走っていた。まるで天空自体が震えるかのように、青い光は下層部ではなく、更に高みを目指し、神秘的な輝きを放っていた。その眩い光景は、何か重大な前兆を告げるかのように、心に不吉な予感を呼び覚ましていた。


眼前には、果てしなく広がるベクターの船団が、荒波と重なり合いながら無数に展開されていた。船の数の多さに心は乱れ、どう対処してよいのか途方に暮れる思いとなった。背後では、柔らかな茶色の髪が優雅に揺れるルシアが、一心不乱に両手をすり合わせ、心の底から祈りを捧げ始める。その熱心な祈りは、まるで自らの魂を震わせるかのようであり、隣ではトマスが切迫した不安の色を隠せず、遥か水平線の彼方をじっと見つめていた。


ふと、私が視線を左側へ向けると、荒々しい砂浜の隣に切り立つ岩場がひっそりと佇んでいるのが見えた。その岩場の陰から、まるで時間が静止したかのように、一隻の小型ボートが波間を漂いながら、ゆっくりと前方へ移動している姿が捉えられた。すると突然、ボートの船腹の真ん中あたりから、かすかに人影が浮かび上がった。まるで長い眠りから目覚めたかのように、しぼんだ空気の中で人が起き上がる様相が、ぼんやりと浮かび上がったのだ。


オペラグラスを片手に、私はその異様な動きを凝視した。遠くのベクターの船団の喧騒を背景に、華奢で細身のその人影は、こちらからはかろうじて背中のシルエットだけが見える。人影は船内で静かに立ち上がると、まるで運命を告げるかのように、右手をそっと高く掲げ、漆黒の髪が風にたなびくさまは儚くも力強かった。


「トマス。あの左側の岩場の先には一体何が鎮座しているのだ?」

「はい、リチャード様。あそこには荘厳な佇まいのクレリゴス教会がございます。そこでは、熱心なタキ司祭と清楚な若い修道女が日々、神への祈りを捧げております。ただ、かつては陛下と深い絆を結んでおられたタキ司祭も、近頃はベクター様の黄金に心奪われ、そちらへ向かおうとしているという、良からぬ噂がささやかれております」


再びオペラグラスを覗き込み、その人影の細やかな動きに目を凝らすと、細長い指先が何か光る物体を握っているのが見えた。まさにその瞬間、荒れ狂う波打ち際が唐突に赤い輝きを放ち始めた。

さらに、その赤い光はレーザー光線のように鋭く、上空の重い雨雲に向かって垂直に伸び上がり、まるで静寂な夜空に炎の如く突き刺さるかのようだった。人影の後ろからは、長く艶やかなツインテールの黒髪が、風のいたずらに乗って優雅に踊り、幻想的なシルエットを描き出していた。


突然、上空から轟音が鳴り響くと同時に、二度目の青い稲光が夜空を切り裂いた。

その瞬間、密集した雨雲に大きな亀裂が走り、まるで天が二つに引き裂かれたかのような壮絶な光景が繰り広げられた。

割れた空の両側に浮かぶ雨雲には、人影の指先から発せられた赤い光が反射し、プロジェクトマッピングのように幻想的な赤い像を浮かび上がらせた。

やがて、その像は徐々に広がり、二匹の威厳ある赤い龍の形をなして、互いに絡み合うかのような風情を見せ始めた。赤い龍の口からは、暗い雨雲が吸い込まれるかのごとく、亀裂がどんどんと拡がり、ついにはその隙間から眩い太陽の光が差し込み、疲れ果てた雲を溶かすかのように、空は清々しい無垢な青空へと一変していった。


そのとき、従卒長の屈強なアームが、全速力でリチャードの元へ駆け寄ってきた。彼の瞳には戦局への決意が宿り、荒れ狂う戦場の喧騒の中でこう告げる。


「リチャード様、これでベクター様の船団とすべての軍船が、肉眼でもはっきりと確認できる状況となりました。どうか、長距離大砲発射のご指示を!」


リチャードは一瞬の静寂の後、毅然と命じた。


「まず、あの謎めいたボートを砂浜へ安全に手繰り寄せろ」


すぐさま、数名の勇敢な兵士が波打ち際に飛び込み、荒れる海をものともせずにボートを砂浜の安全な左側へと引き寄せ始めた。同時に、大勢の兵が担架を素早く運び、あの不思議な人影をボートから救出するために奔走している姿が、戦場の喧騒の中に確かに浮かび上がった。


「よし、アーム。全軍、即刻ベクターの船団に向けて大砲を打ちこめ!」

アームは鋭い口調で次々と兵士たちに具体的な指示を飛ばす。

すると、どさどさと響く発射音と共に、長距離大砲の砲弾が無数に放たれ、海の向こうにいる数多の敵船を狙い、放物線を描きながら飛んでいった。

一方で、ベクターの船団からも、激しい反撃として堅い石や火のついた矢がこちらへと放たれていたが、それらは力及ばず、砂浜に届く前に海の闇に沈んでいくのみであった。


そして、こちらの砲弾は次々と敵船に命中し、激しい爆発と共に船体を粉々にしていく。

転覆した船からは、必死に乗員が後方へと救助される様子が見え、戦況は拮抗しながらも次第にこちら有利に傾いていく。

やがて、連続攻撃の末、沈没を免れたとはいえ数少ないベクターの船団の姿は、次第に視界から消え去っていった。


かつて砂浜では晴天が続いていたかのように思われたが、城へ戻る頃には、辺り一面が紫色の神秘的な霧に覆われ、異界のような雰囲気が漂っていた。アーカート城に戻ると、私たちは戦果を胸に、父上であり高貴なローレンツ王に報告した。


「よくやった。リチャード」


しかし、私の心の中では、何も自らが成し遂げたわけではないという思いがくすぶっていた。


(いや、私には何の力もなかった。あの謎のボートの人影が、まるで雨雲を追い払うかのように現れ、そして私の兄が開発した長距離大砲が、毅然と敵船団を追い払った結果、戦局が変わったのだ)


長い白髪を風に揺らすローレンツ王は、くの字に丸まった背中を保ちながらも、かすかな元気のない声で私を誉め称えた。


「リチャード、疲れている時にもかかわらず、頼もしい働きを見せてくれた。

ところで、例の古文書について話すと、心が震えるような思いがしてね」


落ち着きのない王の後ろをついて、私は重厚な城内の王の間へと足を踏み入れた。

そこでは、ローレンツ王が大切そうに手にしていた古びた羊皮紙を、震える手で私に差し出すのであった。


「リチャード、これが古文書だ。

私と兄のメイしか今までこの秘密の文字に目を通していない。

私はこの城奥深い書庫の中から、偶然にもこの古文書を見つけ出したのだ」


羊皮紙には、時を経た重みある文字が刻まれており、その風合いは数世紀の記憶をも秘め存じるかのようであった。


「陛下。では、兄上はもうお探しにならないのですか?」


ローレンツ王は、苦笑いを浮かべながらも、どこか飄々とした口調で答えた。


「また、いつものことだ。彼は必ずやどこかへ消え、そしていつの間にか戻ってきては、素晴らしい兵器を次々と開発してくる。加えて、東方の島々や未知の技術について、どこから聞いてきたのか分からぬ話を絶えず語っている」


ふと思い出すように、私は尋ねた。


「兄上であるローレンツ二世は、一体どのような装いをしていたのですか?」


王は懐かしげな眼差しを浮かべながら答えた。


「彼は常に深い紫のマントを優雅に羽織り、先のとがった紫の靴を身に着けていた。

確かに王族として、もっと上質な毛皮をまとえば良かったのだろうが、本人はその洗練された装いに強い愛着を持っていたようだ」


(あの時、マリナと共にあの大波にさらわれた際、邪悪な眼と牙が光っていたのは、本当にローレンツ二世の面影だったのだろうか?)


ふと、東京での記憶と重なるかのような感慨の中、ローレンツ王が再び静かに声を発した。


「リチャード、今こそお前にこの古文書を読み解いて、その示す未来を実行してほしい。私にはもはやその力は残されていない。

さらに、私の子でありお前の兄である第一王子メイも、この古文書をじっくりと眺め、邪悪な存続の手がかりを探るように努めておる。

しかし、メイは浮かぬ顔で『この古文書すべてを私一人で実行するのは到底不可能だ』と嘆いておった。彼は、調べ上げた結果を紙に記録し、その成果をやがて私にも見せると約束しておるのだ」



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