第三十五話
アポフィスが今度は口から赤い高温の何かを吐いた。
一瞬で森の木がすべて茶色に枯れてから紫に変色した。
森が無くなった。
凄まじい熱気が襲ってきて火傷しそうだった。
地面に伏せて何とか無事だった。
後ろを見るとルシアのメイド服がボロボロに破れかけている。
(ルシアは伏せるのが遅れて熱波を浴びたのか)
アポフィスの体の前面の赤い鱗に透明で透けている袋のようなものがあり、剣とティアラと赤いペンダントが見えた。
3つの神器を魔物に取られ封印を解かれてしまった。
あのときのマリナは居ない
(どうしたらいいのか。)
赤い龍のアポフィスが、アリシアだった黒い龍のとぐろを睨むと大きく口を開けた。
アポフィスの口が大きく開き、アリシアだった黒龍を吸い込んでいく。
黒龍は抵抗せずゆっくりとアポフィスの口に吸い込まれようとしている。
ルシアが立ち上がった。
「リチャード様、魔物同士で何かしております。この隙にメイ様が魔物の死角になっているはずでございます」
そうだ、やれることをやって行こう。
「ルシア、行くぞ」
「はい」
私の後ろから兵も付いてくる。
丁度アポフィスが後ろを向いている。
縛られたメイを抱きかかえると、私とルシアは後退して森を脱出すべく走って逃げた。
アームと兵がしんがりを務めてくれている。
役に立たないベクターと、『恐ろしい、私の言う通りだ。オーフィ・アポフィスはオウヒ・アポフィスだ』とだけ念仏のように唱えているタキ司祭もルシアの後ろで走っている。
森を抜けた。メイをゆっくりと地べたに降ろした。
少し遠くで赤い龍のアポフィスを見ることができる。
森の木の緑はすっかり無くなっている。
アポフィスの口に最後の黒龍の尾が吸い込まれていく。
(生贄はアリシアだったのか)
アポフィスは黒龍をすべて飲み込むと、地響きを立てて尾を振っている。少し地べたに腹を近づけたかと思うと赤い龍の腹の下から、紫色の卵が転がっていった。
アポフィスは、雄叫びを上げると、森から砂浜に向って歩いていく。
遠くからアポフィスを見ると、砂浜で口からアーカート山に熱風を吹きかけた。
瞬く間に、アーカート山頂の緑の木々はすべて茶色に変色し、その後紫色に変わって行った。
次にアポフィスは砂浜からブラックアイランド島の間の海上に氷雪のビームを吹きかけた。
これも瞬く間に、海がすべて凍っていって波が止まった。
恐ろしい温度の攻撃だ。
これでは人間が住めなくなってしまう。
さらにアポフィスはブラックアイランド島の奥まで熱風を吹きかける。
ベクターの城の残がいやその奥の林もすべて茶色になり、その後紫色に変色した。
さらにアポフィスがアーカート城に向けて熱風を吹こうしていた。
その前にアーカートの兵士たちが立ちはだかり、大砲をアポフィス目掛けて撃ちまくった。
数十発も砲弾をアポフィスは浴びたが、赤い鱗に皮膚は全く傷がつかなかった。
アポフィスはアーカート城に向けて熱風を吐き続けた。
城の城壁はすべて崩れ、建物の大半も崩れ落ちている。
「アーカート王は無事だろうか。無事であってくれ」
「メイ様、メイ様。良かったです。どんなに心配したかわかりません。
誰よりもメイ様のことを心配しておりました」
そう言いながらルシアがメイの縄をすべて取り払った。
「ルシア、無事だったか」
メイはルシアを抱きしめていた。
ルシアは泣いている。
(まるで恋人同士のようだが)
(メイは男性のトマスの頬にキスをしたのではなかったのか。
それともルシアも片思いなのか)
「ルシア、心配かけた。私はあの女アリシアに操られていたみたいだ。
赤いペンダントを見せられて私の言うことを聞けば神器が見つかるはず。アーカートの祖先や城の事をリークせよと言われて、古文書のことや知っていることをアリシアに話してしまった」
ルシアがメイの足を確認すると茶色の液体は取れかけていたようだがまだ少し残っていた。
ルシアは白い布でごしごしと茶色の液体を取り除いていた。
「メイ様、もう大丈夫でございます。
メイ様はもう誰にも操られておりません」
「ルシア。心からありがとう。そして愛している」
「メイ様、私も同じ気持ちでございます。恐れ多いことですがありがとうございます。
今までその気持ちを胸に秘めて隠していましたがもう誰にもメイ様を渡したくありません」
こんな時であるが、私はメイに聞いてみた。
「兄上、アーカート山でルシアの従弟のトマスの頬にキスをしたのではないですか?」
「トマスが言っていたか。ルシア、すまない。
トマスが寝ている顔を見たらルシアと思ってしまった。ルシアにキスをしたいと思ってトマスの頬にキスをしてしまった。寝顔がルシアにそっくりだったのだ」
「トマスの顔を見て私にキスをされたかったのでございますね。ルシアは嬉しく思います」
ルシアがメイを見つめている。ルシアの目が潤んでいる。
「私は邪悪な存在から守るために3つの神器を探そうと思ったが、私は力が尽きたのだ。私は心が折れたのだ。
そんな時にアリシアに『アーカートの滝から異世界に行こう。そこに神器に関係がある品物があるかもしれない。特に駒はこのアーカートでは見つからないだろうから』と誘われた。
アリシアと異世界に渡ったときに、最初にベッドに寝ている黒髪のツインテールの女性が見えた。ベッドの周りには盤と駒が置かれていたのだ。
てっきりこの女性が赤い月の駒に関係していると思ったのだよ。その女性は右手を高く上にあげた自由の女神リベルタスのように見えたのだ。
次に異世界の船の中で司祭とその女性が何やら駒を触っていたのが見えた。
しかし異世界に渡ったが私は神器に関係するものを見つけることができなかったし、駒も手にすることができなかった。アリシアに役立たずと罵られただけだった」
「メイ様は、役立たずではありません」
「ルシア、ありがとう。私は貴方といつか一緒になりたい、身分差は関係ないと密かに思っていたから、古文書に書かれていた魔物を退治するためだけに太陽の子などという女と契りを結ぶ気は無かった。
だから私は古文書に書いてある魔物に対抗する資格は持っていないと母上のローレンツ王に話をしていたのだ」
(そうだったのか。男性に興味があるわけでも、BLの世界でもなかったか)
メイはルシアに話をつつけている。
「アリシアから『お前は封印を解くのに役立つかもしれない。
アーカート王の直系だからな。私がアポフィス様の封印を解くためには更なる魔力が必要だ。
そのためにはアーカートの王の子孫のエキスが必要だ。
私の奴隷になれ』と言われて森の奥で縛られて軟禁され精気を吸い取られ続けたのだ」




