第二十四話
(光っている方が魔物は居ないような気をするし、暗い右に行ってまたコウモリみたいな魔物がいるかもしれない)
マリナは私の顔色を見ながら、「最初は左よね」
そう言いながら、松明を持っているアームより先に左に駆け出して行った。
アームが慌てて付いて走る
「走ったら危ないぞ」
「リチャード様、私たちも行きましょう」
気が付くと私の胸のすぐ手前まで顔を近づけ、上目遣いで笑顔のルシアが小声で囁いた。
(何故かドキドキが止まらない)
エメラルドに光る方に足を向けると、先に走っていたマリナが叫んだ。
「これは何!」
アームがダンジョンの壁面を松明で翳すと、そこに壁画が現れた。
彗星が剣の形をして、山の頂きの地面に刺さっている画。
滝底の川を下っていく龍のような魔物の姿とその上に乗っている人がその先に見える帆船を見ている絵。
2つの壁画がダンジョンの壁に描かれている。
その下にはエメラルドの光の点が見える。やはりヒカリゴケのようだ。
「リチャード様、お兄様のメイ様も古文書を読んで3つの神器を探そうとして、同じようにこの壁画を見たのですね」
ルシアが壁画を見上げている。
「そうだな、ルシア」
「この絵は何を表しているのでしょうか?」
マリナが引き継ぐ。
「この画からするとアーカート山頂に赤い龍の紋章が刻印されたムラマサの剣がありそうね」
マリナはもう一つの画を食い入るように見つめている。
「それからこれはセントエルモの火。リチャードのお兄さんもこれを見ていた」
「そうだ」
「将棋のタイトル戦が終わって波にさらわれる直前に見たマント男と邪悪な眼と四つの牙の姿が見えたし、マント男は夢にも出てきたけれど、それとこの壁画の関係も興味深いわね。
ひょっとしたら、ここから戻れるのかも」
マリナが考え込む。
アームが松明を持って戻ってきた。
「リチャード様、このダンジョンの先は行き止まりのようです」
この壁画のあるダンジョンの先まで行って確かめていたようだ。
「行き止まりなのか」
「行き止まりではありますが、行き止まりの岩にも何か書いてあります」
アームが先導して、私とマリナとルシアも壁画の先に歩いて行った。
何かシャーという音がする。
(魔物なのか?)
そこに着くと確かに行き止まりだった。
魔物は、いなかった、
その地面の下に
『剣が岩から抜けない』
と書いてある。
「これは!メイ様の筆跡では?」
ルシアが興奮している。
左記の壁画とは全く違う画風だ。
シャーという音がまた聞こえた。
「何か音が聞こえないか?」
「確かに水が落ちているような音がします」
アームが耳を澄まして、行き止まりの岩あたりを探っている。
「リチャード様、この向こうから滝のような水が流れる音が聞こえてきます。」
茫然と立ち尽くす私に、マリナが言った。
「あっちに行くわよ。右の暗い方に何かがあるはず。ここは行き止まりよ」
マリナが号令をかける。
(やはり、リーダはマリナだ。暗がりのダンジョンは何が待ち構えているのか)
ダンジョンの分岐点に戻り暗がりの右の方に進むことにした。
松明を翳しても先が見えない。
暗闇が私の脳に恐怖の信号を伝えている。得体のしれない畏怖を感じる。




