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赤いアポフィスの悪魔を封印せよ  作者: lavie800


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第九話

挿絵(By みてみん)

「無事だったのか。

よかった」

「ハヤト」

その女性の太陽のような赤い唇をした口から言葉が出た。八重歯がチャーミングだ。

(マリナだ。ただ将棋のタイトル戦で対局していたときのような黒髪ではない。

綺麗なツインテールの赤髪だ)

その女性は、ゆっくりと私に向って歩いてくる。


タキ司祭がもう一人の横の修道女らしからぬ派手な女に声をかけている。

鼻がツンと上に向いて唇が厚くわざと少し開けてフェロモンをまき散らしているようだ。首にペンダントをしてパーティドレスを着ているが肌まで透きとおるようなシースルー衣装だ。

私より年上に見えるがわざとらしく大人の色気を充満させている。

「アリシア様、不愉快な光景をお目にかけて申し訳ございません。

邪魔者はすぐ追い出します。

この教会はベクター様あっての教会でございます。タキもベクター様からの寄進に感謝しております」


教会の外で雷鳴が聞こえてきた。

空を見ると急に雲も出てきた。

天気が悪くなるのか。

雷鳴が聞こえてきたかと思うと稲光が空に走る。


私は近づいてきたマリナを抱きしめようとしたそのとき、タキ司祭が叫んだ。

「二人とも邪魔だ。まだ居たのか。さっさとこの教会から消え失せろ」

タキ司祭は叫ぶと後ろから走ってきて、マリナの背中を押した。

押されたマリナは勢いがついたまま私の横を通り過ぎて勢いよく教会の外に出て行ってしまった。私もすぐに教会の外に追って行った。

そして、マリナが教会の外に出たとたん、物凄い音と稲光が走った。

メリメリ、ドーンという大きな音がして木が倒れた。

教会の入口近くの木に雷が落ちたようだ。

アームが叫ぶ。

「大変だ。女性の赤い髪の毛や指先が青く光っている。木から雷が移って落ちたのかも知れません」

マリナがゆっくりと地表に倒れていく。

私はすぐにその場をジャンプしてマリナに駆け寄った。

マリナの上半身を支えて何とか倒れるまでに間に合ったが、脚を擦りむいているようだ。少し脛から血が出ている。

「アーム、マリナさんが気を失っている。すぐに城へ運ぶぞ」

「はい。承知しました」


教会を後にして全速力で私は城に戻り、ルシアたちが城のベッドにマリナを寝かせた。

ルシアはマリナの様子を伺っている。

「リチャード様、マリナ様は少し気を失っておられますが、呼吸も正常です。

衣服や目立った所に火傷の後もございません」

「そうか」

「意識の回復を待ちましょう」


夜になったが私はベッドの横でマリナをじっと見ていた。

まだ修道女の衣装のままだ。ルシアはマリナの額や脛に薬草を塗した手指をかざしている。

月夜が照らす仄かな光にルシアの髪飾りの青銅部分が照らし出されて輝いている。


鳥のさえずりが聞こえてきた。

空も夜の暗闇から少し明るくなってきたみたいだ。

(夜が明けたのか。少しウトウトしていたのかもしれない)

「リチャード様、少しは休まれたほうが。私がこの女性を看ておりますから。

それに昨夜から何も食べておりません。

パンと果物とミルクを持って参りました」

ルシアは心配そうに私の顔を見ている。

「ありがとう。分かった」


私はルシアが用意してくれた朝食を食べながら、転生前のことを思い出していた。

将棋のタイトル戦が始まる前だった。

指導対局の終わりに私がマリナを喫茶店に誘ったときの話だ。

喫茶店でマリナから聞いた不思議な夢のような話を思い出していた。

「もうすぐ、赤月龍王戦ですね」

「ドキドキ、ワクワクするわ」

瞳が魅力的で八重歯がチャーミングだ。女流棋士を前に私の方がドキドキして心臓の鼓動の音が聞こえてしまいそうだ。

「マリナさん。女流棋士が初めて将棋のタイトル戦に挑戦するのはすごいことですよ。応援しています」

「ハヤトも指導対局で少しは良い手もあったわ。まだ初段には遠そうだけれど」

「まあ、何をしても上手くいかない。フェンシングも一回も試合に勝てない。

将棋ももうずいぶん本も読んだし、指導対局もして頂いたが才能がないとだめなのかな。

人生うまくいかないことばかりです」

「そんなことないと思うよ。ところでハヤトは恋人いるの?」

心臓の鼓動がますます早くなる。

「いえ、私など誰も相手にしてくれません。生れた年イコール独り身の人間ですから」

自虐的に俯いてから顔を上げた。

目の前の瞳が大きく愛らしい顔で黒髪のツインテールの女流棋士は何だか勝ち誇ったような笑顔全開だ。

やはり将棋の才能も無いし内心馬鹿にされているのだろう。

何回かマリナと指導対局をしてもらうと将棋盤を向うだけでドキドキが止まらなくなる。

唯でさえ将棋が弱いのにさらに緊張して将棋の良い手が指せないような感じだ。

これと言ってとりえのない私には、時の人になる可能性がある高嶺の花の美少女女流棋士と指導対局をしてもらえるだけでもありがたいと思わないといけないのだろう。

高嶺の花の女流棋士は二重の大きな瞳でじっと私を見ている。

「ねえ、もし私が赤月龍王戦のタイトルを取ったらほしいものくれる?」

「もちろんです。何でも」

「そう」

うれしそうに、少し恥ずかしそうにしている女性をみて更にドキドキという鼓動音が聞こえてしまわないかと心配した。

「タイトル戦の前だけれど。ハヤト、まずその丁寧語やめてくれる。もう指導対局を10回以上しているじゃない?

まあ、上達スピードはゆったりだけれど」

「わかりました。いや。わかった」

「ねえ、聞いてくれる?」

「もちろんです。いや、もちろん。何でもほしいものをプレゼントします」

満足げなマリナが真顔になって私を凝視した。

「それより聞いてくれる?不思議なことがあったのよ」

「どんなこと?」

「タイトル戦の前で気持ちが高ぶっているせいかもしれないけれど、昨日寝室で寝ていたら変な夢をみたの。夢かどうかもわからないけれど、とにかく不思議なのよ」

「変な夢というと?」

「昨日夜中に雷がすごかったでしょう」

「確かに」

「その雷鳴でふと夜中に目を覚ましたら、ベッドの横に何かいたのよ」

「幽霊?」

「幽霊なのかなあ。紫のマントを着て先端がやや尖ったような紫の靴を履いた男が居たのよ。

ぎょっとして跳び起きたのよ。

そうしたら、その男、

『舟で右手を上げれば、赤い月がある龍の駒にたどり着くはず』

というような訳の分からないことを言ったかと思うと、すっといなくなったのよ。

ひょっとして何かの前兆?

ねえ、不思議でしょう。

何かわかる?」

「赤月龍王戦に勝つということではないかな」

「でしょう。私もそう思ったのよ。天啓よ、これは」

「そうだね」

「だから私がタイトル戦に勝ったら、ほしいものを、ねっ」

「わかった。なんでも約束するよ」

(まあ、そんなに高い物でもないだろう)


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