サイドK No.2
店に行くと、爺さんがニヤニヤしながら
「圭史、お前にお客さんからお礼だってさ。」
この傘はあの女性に貸したものだ、俺のいない時に来たんだな。
結構年上じゃなかったっけ?四十代半くらい?旦那いるだろう普通。
綺麗な人だったしな・・・
いやいや、何考えてる。こりごりだろう。
今までの人生で女性に散々振られてきた。
最後のセリフは皆口を揃えたように『仕事と私どちらが大切なの?』と問う。
普通仕事だろ、だって研究が好きで大学に残っているのに好きじゃない訳ないじゃん。
でもこれが原因だとは気が付いている。ということで独身でいこうと腹を決めている。
「お前にしては珍しいな。今までお前を訪ねてくるのってオタ友だけだったのにな。」
爺さんが愉快そうに笑う。
「お客さんだよ、名前も知らない。貸した傘を返しに来てくれたんだろ。」
「お前も若そうに見えるが、30歳もとうに過ぎたぞ。
俺もいつまでも若くないしな。そろそろ安心したい。」
「若くないってまだ70歳だろ。」
実はこの爺さん俺との血のつながりはない、祖母の再婚相手だ。
俺の本当の祖父は若くして病死した。祖母は小さい親父を連れてこの爺さんと再婚したんだ。
血の繋がりこそないが、本当の祖父の様に俺のことをかわいがってくれている。
添えられていたお菓子はビターチョコとナッツ入りのチョコだった。
一口食べると、どちらもここの珈琲と良く合いそうだ。
丁寧に選んでくれた気がした。
「おい、顔がにやけてるぞ。」
「マジか。」俺は自虐的に笑った。
また逢えるといいなぁ。
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