引っ越そう
今回はちょっと年齢高めのお話ですが、最後まで楽しんで頂けると嬉しいです。
店を出た後は、大変だった。
スマホもなく初めての道を行くものだから迷いに迷って、帰宅したのは12時近かった。
鍵を開けると、息子が仁王で待ち構えていた。
「母さん、スマホくらいは持って出かけてよ。心配したじゃないか!!」
「スミマセン、スマホを忘れたので道に迷いました。」
あきれ顔の息子にひたすら謝りながら、いつの間にか怒られる立場になった自分に、息子の成長を感じた。
玄関で存在感を増す傘を見ながら、引っ越しの準備に追われていた。
もうすぐ息子はこの家を出て、大学の付近で一人暮らしをする。
今のマンションは一人で住むには広く、何よりあまり好きではない。
新婚の時に買ったマンションは夫の希望で上層階、それを慰謝料にくれた。
ここには虫一匹来ない。
私はもっと土地に足をつけて生きたたい。もっと自然を感じで暮らしたい。
だからと言って、田舎に住みたい訳ではない。
適度に都会で適度に樹々に囲まれて暮らしたい、『過不及ない暮らし』が良いのだ。
ということで、私も引っ越す運びになった。
引っ越しで傘を無くしてはいけないと、お店を訪ねた。
確か『甘雨』と看板があったように記憶してたので、スマホ片手に店への道を歩く。
あれ?この辺り見覚えがある。この前は暗くて気が付かなかったが、転居先に近いのだ。
この辺りには大きな公園があり、ブナやイチョウをはじめ多くの樹木が育っている。
大木もあるからきっと古くからある公園だろう。
四季折々に楽しめそうだと、マンションを決めたのだ。もちろん都心へのアクセスも良い。
今の時間帯だときっと眼鏡教授はいないだろう。
でも私としてはそれで良かった。楽しみは少し先に取っておこう。
私は傘と一緒にお気に入りのお菓子を添えてマスターに渡してお礼を言った。
マスターは少し驚いた顔で受け取ってくれた。
最後までお付き合いありがとうございます。