時はきたり
夕方になり、常連客もやってきた。
お手伝いにやってきた学生達のお蔭で、後はドリンクの提供のみとなった。
常連客に学生達が混ざり、辺りは賑やかだ。
忙しさに追われながらも、絶え間ない笑い声に私達が目指した『甘雨』はここにあるのだと実感した。良かった、私は安堵した。
用意したフードが尽きる頃、花火が上がった。
ケイジさんと私もその間は、席に座って花火を見ていた。
横に座ったケイジさんの方を見ると、眼鏡を取ったケイジさんと目が合った。
とても綺麗な瞳だ、お互い小さく微笑んだ。
心に広がる、彼への思い。ここを去る時が来たのだと悟った。
私はそっと自分の胸に手を当て祈った、彼の行く道に多くの笑顔がありますように。
皆、家路についた。祭りの後の静けさに寂しさが募る。
片付けを申し出てくれた三上さんに、ケイジさんは
「夜遅いし危ないから、早く帰りな。」と言って学生と一緒に帰した。
ケイジさんの優しさが他者に向く時、私の心には醜い嫉妬心が広がる。
二人である程度片付けた、残りは明日。
ケイジさんが珈琲を淹れてくれた。
「お疲れ様、どうぞ。」
「ありがとう。」
辺りに広がる香ばしい、スモーキーな香り。重厚感のある苦み、だけど後口はさっぱりとしている。
「おいしい。」自然と口から出た。
「ケイジさん、機は熟しました。お一人でも『甘雨』やっていけますね。」
「えっ!?」
「お世話になりました。ここを辞めさせて下さい。」
「何故?何か失礼なことしましたか?言って下さい。改めますから。」
「いいえ、何も不満に思うこと無く、とても幸せに過ごされてもらいました。
ただ、ここは私が居る場所では無いだけです。私は、日本を出ようと思います。」
「止めても無駄ですか?」
私は泣きたい気持ちを隠し「ええ、無駄です。」と答え笑顔を作った。
「ここを辞めてどうされる予定ですか?」
「スペインへ移住しようと思っています。まだ向こうでの仕事が決まっていないので、決まってからになりますが。」
最後までお付き合いありがとうございます。
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