私らしくあれば良い
夕食はパエリアと生ハムのサラダ、冷製スープを作ってくれた。
誰かの家で食事するなんて何年振りだろう。気が付かないうちに周りに壁を作っていたんだと思う。
そう思うとマスターとケイジ先生のお蔭でその壁も随分低くなった。
食後にイチジクとクリームチーズをクラッカーにのせた物とピクルスをツマミに白ワインを頂いた。普段はワインをあまり飲まないが口当たりがよく、会話は楽しく飲み過ぎてしまいそう。
ケイジ先生の写真を見ながら、昔話をしてくれた。
ケイジ先生は本当におじいちゃんっ子だったようで、いつもおじいちゃんの膝に座っていた。
私の記憶より大分若いマスターとかわいいケイジ先生、見ているだけで笑顔になった。
子供の頃のケイジ先生は眼鏡を掛けておらず、かなりのイケメンだった。
「圭司の眼鏡が伊達メガネって知ってる?」
「いえ」と答えながらも、一度不自然に感じた記憶があることを思い出していた。
「圭司のやつは顔が良いから女の子によく告白されてたんだ。そして、押し切られて付き合うんだけど、最後には振られる。酷い時は浮気されたりしたんだと思う。
それである日、あいつはゴツイ眼鏡を買ってきたんだ。その日のことはよく覚えているよ。
帰宅した圭司の眼鏡姿に親父と大爆笑したんだ。そしたら圭司のやつ『その反応で正解なんだよ』と言ったんだ。ああ眼鏡は誰も近づけさせないための防具なんだと理解したよ。」
ユウジさんはケイジ先生の写真を優しい顔で見ながら少し寂しそうに言った。
「あいつが振られる原因は誰かに愛情を持ったり、執着するって感情を持てないからなんだと思う。
だから誰と付き合っても、相手は寂しさに負けて去っていく。
もしかして、幼少期に俺達両親の不在がいくらか影響したのかな。」
飲み過ぎてしまっていたのだろう、いつもなら口にしない本音が出ていた。
「それは違うと思います。ケイジ先生はおじい様が愛情を掛けて育てられました。
だから、最後の最後までおじい様の意思を継いで『甘雨』を続けようとされていました。
私が知っている先生は人に寄り添える人です。彼の掛けてくれる言葉、寄り添ってくれる言葉、姿勢、全てが私の生きる糧でした。」
「卯月さんは圭司に好意を持ってくれているんだね。そして多分圭司が変わったのは多分あなたのお蔭だ。そんな大事な存在を忘れてしまったから、彼は変わったんだね。」
その言葉は私が忘れていた現実を思い出させた、頬を伝う涙。
自分がケイジ先生を愛していることを実感した途端に襲う喪失感。
ユウジさんは私を優しく抱きしめて、小さい子の頭を撫でるように私の頭を撫でた。
「大丈夫だよ、圭司がもし思い出せなくても、また貴方と恋に落ちる。
貴方は貴方らしくいればいい。」
気が付くとユウジさんのシャツは私の涙でグチャグチャだった。
「すみません。シャツ汚しちゃいましたね。」
ユウジさん楽しそうに声を出して笑った。
「多分卯月さんと俺の視点は似ているのだろう、だから俺の写真集が気になったんでしょう。
自分にとっての心地良さとは何かとかも似てる。圭司より先に出会えたかったな。
うちの奥さん依頼のドストライクだったに。もし圭司と上手くいかなかったらバルセロナにおいで、
待ってる。」そう言って、悪戯っぽく微笑んだ。
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