止まり木
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最後の客が帰り、しばらく待っていると。
「お待たせしました。良かったら召し上がりませんか?」
と言って『甘雨』でよく食べていたナポリタンを出してくれた。
「ありがとうございます。頂きます。」
ちょっと太めのもっちりパスタ、ケチャップが絡んでマスターのナポリタンを思い出した。
よく似ているが少し違う、でもどちらも美味しい。
「『甘雨』は私の父がやってたんですよ。今は休業してますがね。」
「やはり、お店の雰囲気も珈琲の味もよく似ていたので。」
「しかし、よく分かりましたね、凄いなぁ。じゃあ息子の圭司にも会ったことありますか?」
「ええ、マスターとケイジ先生にはお店でいつも美味しい珈琲を頂いていました。
息子も大学で先生にお世話になり、親子共々お世話になりました。」
「そうでしたか、圭司は父の店が大好きでしたからね。長らく大学と二足の草鞋で頑張ってくれました。本当に私が好き勝手やった分、圭司が父に孝行してくれました。」
「そうですね、ケイジ先生は最後の最後まで一緒にお店に出ていらっしゃいました。二人の作る空間は、とても居心地良かったです。」
「失礼ですが、もしかして卯月さんですか?」
私は驚いて、どう答えていいか分からなくなっていた。
「父から店を手伝ってくれている女性がいると聞いていたんですよ。
圭司もとても慕っていて、父は大変喜んでいました。
いつかお逢いできることがあればお礼を言いたいと思っておりました。」
「いえ、お礼なんて。マスターや圭司さん、そして『甘雨』の存在にどれほど救われたか。
感謝してもしきれないのは私の方です。もっと続けていたかったくらい大好きなお店でした。」
「あなたにとって自然体でいられるお店だったのでしょうね、良かった。
『甘雨』はそんな存在になれていたのですね。
父は常々、自分の店は人生で辛い時、苦しい時に雨宿りできる場所、止まり木のような羽休めができる場所にしたいと言っていました。
毎日来店する人、月に一度の人、様々な人が自然体で存在できるところ。父の夢は叶っていたのですね。」
ケイジ先生に似た顔の初老の男性は嬉しそうに微笑んだ。
「私にとって『甘前』はそんな存在のお店でした。」
嗚呼そうか、私はそんな風に思っていたんだと思い出していた。
そんな場所を失ったから、日々疲弊していったのだ。
「因みにこの店の名前は『WingsRest』羽休めなんですよ。父の影響でそんなお店にできればと思っています。」
「私は日本での生活に疲弊し逃げて来ました。そして今日、引き寄せられるようにここに入りました。私は、このお店で羽を休めることができています。」
ケイジ先生に似た顔で微笑まれ、ドキっとした。それと同時に無性にケイジ先生に逢いたくなった。
私は勇気を出して聞いた。
「圭司さんの記憶はどうですか?」
悲しそうに微笑んで「残念ながら戻っていないです。」
「では、お店も休業のままですか?」
「圭司も再開したいと、頑張っているようですが現状は難しですね。今の圭司は他人に興味を持たない頃のあの子に戻ってしまった。
近年の圭司は人の心に敏感になっていたので、そんな彼なら継いでいけると思っていたのですが。『甘雨』は、人に寄り添えない人間には経営はできない。」
「そんな・・・」




