さあ、私よ立ち上がれ!!
それからどうやって家に帰ったかも覚えていなかった。
良い大人が泣きながら帰宅した、私の顔を見た息子は驚いたが、何も聞かず珈琲を淹れてくれた。
ミルク多めの甘い珈琲は悠里の優さが詰まっていて、嬉しかった。
昼間は職場で気が張っているせいか涙は出ないが、夜になると自然と涙が出てきた。
気を紛らわすために、部屋に籠ってヤケ酒を繰り返した。目を閉じるとケイジ先生の顔が浮かぶ。
私は『甘雨』という居場所も、『ケイジ先生』という拠り所も全て失ったのだ。
一週間が過ぎたあたりから、このままでいい訳がないと思いながらも自分に甘えていた。
そう思っていた矢先、夢にマスターが出てきた。とても悲しそうな顔で私を見つめていた。
目が覚めた私は自責の念にかられた。自分の足で歩いていないから踏ん張りがきかない、だから悠里に心配を掛け、マスターにも心配を掛けた。
私は会社に長期休暇を申請した。
ずっと行ってみたかった、スペインへ行くことにしたのだ。何か再生のヒントが欲しかった。
だから、ガウディの建築物に触れ、自分を鼓舞することにした。
私の原点とも言えるのがガウディの作品なのだ。私は大学のとき、初めてガウディの特別展へ行った。
彼の作品は自然と融合していて、人工物の中にいるはずなのに、まるで自然の中にいるようだった。
家具も優しく、ユニークで愛さずにはいられなかった。そこに居るだけで、在るだけで癒される。そんな空間を人々に提供したかった。
大学在学中建築学科へ編入し、卒業後は建築事務所へ就職した。そしてある事に気が付いた。
お客様との関係は家が完成すればほぼ終わってしまう、私はもっと繋がっていたかった。
どうしたら良いか、そんなことを考えているうち結婚、出産、離婚、現在の私だ。
私はこの旅行で再出発するためのきっかけを得たかった。
出発日が決まった夜、ベランダでジントニックを飲んでいた。
私のお気に入りは日本のメーカーが作ったクラフトジンで松や山椒、木の芽を材料に使っている。
ジン多めで作るのがおススメだ。このジンの香りと新緑の匂いはとっても良く合う。
特に深夜闇が深くなる時間は静寂に包まれ、一層香り立ち、体中をめぐる。
ゆっくりと最後の一口を飲んだ。さあ、私よ、立ち上がれ!!
最後までお付き合いありがとうございます。
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