不測の事態
今年の冬は特に寒さが厳しい。
最近爺さんの調子が悪そうだ、食が細くなってきた。
俺は散々病院へ行くよう勧めたが、ダメだった。
いよいよ、周りが痩せ始めた爺さんを心配するようななったある日。
店内は爺と卯月さんと俺の三人だった。
「立ち入ったことを聞くようですが、マスター随分痩せられたようですけど、どこか体調が悪いんですか?」
「年だからしかたない、そうなものだろう。」
「卯月さん、マスターに病院へ行くように言っても聞かないんですよ、頑固でさ。」
「しょうがないだろう、病院で最期を迎えるまでして長生きしたくない。俺の最後はここが良いんだよ。えっちゃんとの思いでがいっぱい詰まったこの店のカウンターで最後まで珈琲を淹れたいんだよ。」
「えっちゃん?」
「うちの祖母です。随分前に亡くなったんですけど。」
「素敵ですね、今も亡くなった奥様を想い続けているなんて。」
「僕から見ても仲良かったですからね。しかし最後って縁起悪いなぁ。
早く病院へ行けばそんなことにはならないよ。頼むから一度で病院へ行こう。」
「圭史、自分の体調だから、自分が一番分かる。多分そう長くはない。
最後の我儘だと思って見逃してくれ。えっちゃんを感じるこの店で過ごしたい。」
「マスター、奥様は病院へ行かないこと怒らないと思います?
いつかあの世に行って怒られたりしません?」
「確かにえっちゃんなら、怒るかな。」
「だろ!1回で良い、一緒に病院へ行こう。その変わり検査以外での入院は強制しないと約束する。」
爺さんは大きくため息をついて言った。
「わかった、行くよ。それでお前が納得するならな。忘れるなよ、最後は病院じゃない。」
それから程なくして病院へ行ったが、結果は爺さんの予想通りで手遅れだった。
そして緩和ケアのための入院を提案された。
しかし、俺たちは最後を自宅で迎えるべく訪問介護でできる範囲内の緩和ケアでとお願いした。
帰りの車内で爺が言った。
「取り敢えず、最後まで店に立てそうだな。甘雨は俺が死んだら閉めてくれて良いから、ただ我儘を言うようだが俺が立てる間は圭史が手伝ってくれないか?」
「ああ、春休みまであと少しだから大学にも新学期の時間割の組み換えを頼んでみる。」
閉店については、もうし少し考えよう。俺は店を残したい、しかし、大学を辞めるのも違う。
何か良い方法はないだろうか?
最後までお付き合いありがとうございます。
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