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Alternate Arrivals -異能バトル-  作者: かたくりこ
第二幕 
2/4

ドミネーター

― 時は2024年3月7日。舞台は眠らない街歌舞伎町


 ネオンの煌めきを求め何処からともなく人々が集う。キャバクラやホストクラブといった歓楽街には金や愛を満たそうと人々の欲望が渦巻き人生のドラマを成していた。

 この街で一攫千金を狙い成り上がろうと奔走する者、そんな彼らを利用し己の利を得ようと画策する者、生きる為には身を投げ売り全てを曝け出す者、それら全てを支配し己の糧にしようとする者。様々な思惑が複雑に絡み合い街が形成されてゆく。だからこそ面白い。だからこそ人々は宴に興じ一夜を夢に過ごすのだろう。

 

 眠らない街歌舞伎町、今宵も華に魅せられし羊達が疲れを癒し欲を満たそうと集まって来る。人々が狂瀾に興じる様はまるで街灯の明かりに狂おしく群がる羽虫や蛾を連想させた。刹那の喧騒はやがて散りゆく儚い幻。

 眩い灯りにも必ず影は存在する決して油断をしてはならない。隙を見せると獲物を引き摺り込む深淵の入り口へと繋がってしまうのだから。


―街灯の灯りに纏わったがゆえ熱に打たれストンと地に落ちる羽虫は息絶えるまで夢を見続けるのであろうか‥

 近年再開発の跡地を利用し超高層複合ビルが建設された。そのビルは地上約255メートルと公約を若干上回る高さとなっている。機能性と美しさを両立させたスパイラル構造のデザインから【歌舞伎町HelixTower】と呼ばれ(そび)え立つ壮観な様はバベルの塔を連想させた。



……………………………………………………


 

 【Helix Tower】館内には大規模ライブハウスから映画館などアミューズメントは勿論(もちろん)、ショッピングから食事までありとあらゆる娯楽施設が集約し老若男女誰でもいつでも満喫できる大規模空間となっております。お一人様でのご利用もデートや家族サービスにも是非ご利用下さいませ。

 バーやスパも充実しておりますので上層部にあるホテルに宿泊し心ゆくまで過ごせば素晴らしい贅沢(ぜいたく)堪能(たんのう)出来る事をお約束致します。また上層から眺める東京の夜景は素晴らしく、まるで散りばめられた宝石の(ごと)く輝きを見せてくれる事でしょう。


―さぁ貴方もここで人生を豊かに謳歌(おうか)してみては如何(いかが)でしょうか?



2024年3月8日am10:57 日曜 東京駅


「よっこら、しょっと。」


 東京駅の新幹線改札口から一人の少女が勢いよく飛び出してきた。

 

 少女は栗色の長い髪をツインテールに結いピンク色の大きなリボンをつけている。フリルが沢山ついたお姫さまファッションで白とピンクに統一されたその格好は見たままのロリィタファッション。その注目度は周囲の視線を独り占め状態だ。それなのに誰も陰口を言わず好意の視線のみ送るのは少女の愛くるしい仕草と垣間見える知性の賜物だろうか。

 

 ジャンパースカートには大小様々の苺のイラストが施され白いフリルがミルクに見えるデザインが美夏のお気に入りで本人が言うには【甘ロリ】というらしい。


「リーダーぁ早く~」

「みかるん可愛いから誘拐されちゃうよー♪」


 数年前から続くコロナ禍もここ最近は影を潜めてきてはいるが、行き交う人々は依然とマスクを着用し素顔を晒しているのは少数派だ。

 

 少女に関しても、ピンク色で大きめサイズのマスクを着用しており愛くるしいであろう顔立ちやその表情が隠れて見えなくなっているのは非常に残念ではある。


 次々と、行き交うサラリーマンや大きな荷物を持った観光客達の間をまるでダンスを踊るように、ヒラヒラと躱し続ける少女が激しく動く度ふわふわと捲れる裾から見え隠れするレースの裏地にドキッとなる。当の本人はそんな周囲の視線など全く意に介さずに改札口に向かって大きな声で呼びかけている。


「リーダー遅いよ!早く来てー!」


 この少女の周囲には輝く光が見える程不思議な存在感が満ちていた。


― ピッという音と同時に若い男性が改札を抜けてくる。


 リーダーと呼ばれた男は前髪をかき上げると、通路ではしゃぐ少女を見てやれやれといった仕草をする。

 

 身長は182.6cmと高く、爽やかなイケメンである。髪を銀色に染め薄く色のついたサングラスを掛けている。見える眼差しには強い意志も窺えた。整った顔立ちは精悍で年齢は20代前半、無地の白いシャツにベージュのジャケットを無難に着こなしている。腕時計はMappleWatch「ハーマス(harmas)のオリジナルモデルで長めのベルトを二重巻きにして使用している。

 

 青年は基本ノーブランドの服装を好み着用するのだが、胸元の十字架のペンダントにピアスといったアイテムも相まりすれ違う人々が二度見する程の魅力(みりょく)(かも)し出していた。


 ― 続いてピッと音が鳴り改札から出てきたのはごついゴリラの様な男だった。



……………………………………………………



 改札から出て来た2人の男達が、今も尚人混みの中をふわふわすり抜け続けている少女の元へと合流すると、見計(みはか)らった様に動きを止めた少女は、ポーチの中からアクセサリーが沢山ついたスマホを取り出し(おもむろ)に男達に画面を見せて言った。


「これが目的地の歌舞伎町SpiralTowerでしょ?超オシャレだよねっみかるん早く遊びたいな♪♪」


 6.7インチのスマホの画面には近代的なビルが映っていた。どうやら少女達一向は歌舞伎町にある超高層複合ビルへ向かうらしい。

 

 少女の名は【石原美夏(いしはらみか)】去年横浜のお嬢様御用達(ごようたし)の名門高校へと入学し、今年の5月に16歳の誕生日を迎える現役の女子高生。一昨日の卒業式では在校生代表で花束の贈呈を務めるくらいには優等生だ。

 

 歴史のある高校なので風紀が厳しくアルバイトや夜遊びなども禁止で、今の美夏の姿を先生達に見られたら間違いなく停学は免れないだろう。今だって女友達と出かける約束があるからと、親をなんとか説得し東京に来ているのだ。(銀髪の青年とは中学時代から交流があるのだけれど、それは美夏と美夏の姉しか知らない秘密である)


 一方、銀髪イケメンの名は【高辻正紀(たかつじまさき)】大学を中退し現在は21才のフリーターであるが生活には特に困ってはいない。

 

 彼は国が極秘裏に発行している特別な資格を所持し政府のとある機関から不定期に依頼される仕事をこなせば多額の報酬が補填(ほてん)されるからだ。今日此処へ来ているのもその仕事の一環で美夏達とはチームを組んでいる仲間なのである。


 当時高辻正紀が神奈川の大学に在籍中、サークル活動としてバンドを結成していたのだが、その時に同じ大学に通っていたのが美香の姉の美冬で高辻達のバンドのファンクラブに所属する程の熱狂的ファンだった。

 

 姉の美冬はライブハウスへ観に行く時には必ず美夏を連れて行っており、それがきっかけで高辻と美夏は知り合う事となった。(まさか現在こうして同じチームで仕事をする事になるとは運命を少なからず感じてしまう。)


 さて、目的地へ向かうにはこの通路を抜けて丸の内線へ乗り換える必要がある。三人は案内版に沿って歩を進めた。


「ちょっと待てぇ。俺だけ紹介ゴリラってどうよ!雑すぎだろう?こう見えて結構ナイーヴなんだけど!」

 

 美夏と正紀の後ろからがっしりとした体格の若い男が口を挟む。身長は185cmはあり日に焼けた肌がより男を大きく見せている。

 

 ガタイの良い男の名は【佐藤健太(さとうけんた)】。静岡県にあるサッカーで有名な某私立高校に3年間在籍し、現在は強豪サッカー部1軍のゴールキーパー兼キャプテンとして全国大会でも結果を求められている程の存在だ。

 

 浅黒くて短髪という見た目と体格が良いのはスポーツマン所以の格好良さでもある。佐藤健太の見た目は派手な2人とは違い黒のダメージジーンズに革素材の登山靴を履きTシャツの上から軽めの素材で出来たシャツを羽織っただけのシンプルな格好だ。Tシャツにはイギリスの有名なブランドでフットボールのスポンサーロゴがプリントされている。連れの2人が派手なのでゴリラ扱いされる役回りだけれど、健太も普通に見ればかなり良いセンの素材なのだ‥‥。


 佐藤健太は日曜日と言っても休みではなく、部活の遠征がスケジュールに組まれていたのを監督達に無理を通してもらい此処へ来ている。

 

 健太は父を幼い頃に亡くしており苦労して育ててくれた母へ恩返しをしたいと常日頃考えていた。(それと、密かに好意を抱いている美夏への誕生日プレゼントを用意したい。とにかく今はその資金が欲しい。)


 見た目のゴツさと裏腹に美夏や高辻達を見る目はとても穏やかで口調も優しい。まるで大地に根を張る大木のような男である。


「ゴリラは健太のお約束だしね!おいしいおいしい」


 美香の明るく楽しそうに笑う姿は天使のように美しいと健太は常に感じていた。


 高辻はそんな美香を尻目に健太の肩にさりげなく腕をかけると健太にだけ聞こえる様に耳元で囁いた。


「俺たちは最高のチームだ。頼りにしてるぜ相棒、美夏をしっかり守ってくれよ。」


 高辻に言われなくともいつだってそれだけは揺るがない。美夏は健太にとって自分の命と同等、いやそれ以上大切な存在だからだ。高辻正紀は人生の良き先輩で本当の兄のように慕ってはいるが、美夏は正紀に対してそれ以上の感情を抱いている事を健太は察しながらもそっと見守り続けている。


―高辻はそんな美夏の気持ちを知っているのだろうか?

―知った上で僕に美夏を頼むと言ったのだろうか?


(佐藤健太の心中には決して晴れないモヤがかかっていた)

 

 一方で美夏と言えば高辻への淡い恋心を2人に悟られまいと陽気に振る舞いわざと大袈裟にふざけてしまうクセがある。

 

 現に今も高辻と佐藤の2ショットを連写で撮影しながら男同士でイチャイチャしてきも〜いとはしゃいでいる。


 そんな陽気にケラケラと笑う美夏の手から、銀髪の青年高辻正紀がまるで手品のようにスマホを奪い取ると、その画面を美夏に向けて見せながら子供を諭す様に言い放つ。


「みかるん、これから行くのは歌舞伎町”HelixTower”だよ”SpairalTower”じゃ無い。それと決して遊びに行くわけじゃぁないからね?油断だけはしない様に。」


「ちょっとくらい遊んでもバチとか当たらないの・に!リーダー真面目かっ子供扱いしないでよね!」


 美夏はぷくっと頬を脹らませると銀髪の青年の前でダンスを踊る前の挨拶さながらにポーズを見せる。

 

 青年の手からスマホは瞬時に消え、いつの間にか美夏の右手に収まっていた。まさに瞬間移動である。

 

 少女は人差し指と中指だけで器用にスマホを挟み、可愛い猫が大きく口を開け欠伸をしている待ち受け画面を2人に見せた。


     「にゃ~~~ぉ」


 みかるんは楽しそうに猫の真似をすると、そのまま通路の先へと走っていった。


 男達は顔を見合わせると、諦め調子で美夏の後を追い通路を歩きだすのであった。

 

―そんな三人のやり取りを終始見ていた幼い兄弟達がいる。その表情はまるでマジックショーを見ている観客のようにポカンと口を開け放ったまま彼らが去り行く姿を見続けていた。



…………………………………………………



 東京メトロ丸の内線に乗り換えた後、新宿三丁目で下車した高辻一向が地下道の出口から地上へと出てくる。


 外は3月初旬とは思えない程に暑いくらいの日差しが照りつけていた。肌に感じる空気はまだ少し冷たさが残り、徒歩で行くには丁度良い気候であるが桜が咲いてしまうのではと少し心配してみる。


「ここからだと【歌舞伎町HelixTower】まで歩いて14,5分は掛かるかな。」

 

 スマホの画面で地図アプリを見ながら所要時間を言う健太。


「歩くと汗かきそう‥」

 

 スマホの画面をミラーにして自身のメイクを確認する美夏。


「さて2人ともここからは仕事だ。目的地へ向かいながら、もう一度段取りを確認しておく必要がある。」

 

 先頭を歩いていた高辻がくるりと2人の方へ向き直り力強く静かに語りかける。その表情は先ほどまでの優しい先輩ではなく威厳に満ちたリーダーそのもので自然と場の空気が引き締まっていく。


 美夏達の顔からも笑顔は消え、プロの(まと)う独特のオーラが放たれる。


「はーい任せて。今回のターゲットは天然信仰道(てんねんしんこうどう)?の教祖と組織の裏切り者をぶっ殺すだけの簡単なお仕事でしょ?」


 サラッと軽い口調で答える美夏だが目の奥で(くすぶ)る光には揺るがない強い意志が宿っており隙など全く感じられない。美香との付き合いも長くなる高辻と健太にはそれが十分すぎる程伝わっていた。


 続けて健太が口を開き答える。


「物騒だな美夏ちゃんはw色々間違ってるから訂正するけど、ターゲットは天輪(てんりん)神響道(しんきょうどう)の二代目教祖である生ける伝説•天號宗十(てんごうそうじゅう)(ろう)と組織の内通者、この2名の確保。内通者に関しては生死を問わず、だったよね。」


 健太が言い終わると美夏が左右のネイルを見比べながら冗談に決まってるでしょ、とブツブツ言っている。―美夏は関心の低い名称を記憶する事がどうも苦手らしい。


 そんなやり取りの後2人の視線は自然と高辻へと向かう。

 

 目を閉じて静かに会話を聴いていた高辻だが慎重に話を再開した。


「そうだね、健太の言う通り依頼の目的はあくまでも2名の確保で(おおむ)ね間違ってはいない。…ただ気掛かりがな点が二つあって、ひとつは天號宗十郎の能力についての情報が未だに何も無い事。ふたつめは内通者の生死に関して組織が全く気にしていない事かな。」


 高辻は身振り手振りで上手に伝えるので聴く側はグッと引き込まれていく。


「天號の能力に関しては数年前から組織が調査しているのにも関わらず、依然と謎のままだしね。まぁ間違いなくSランクだろうね‥。」


 Sランクというワードに場の空気が一瞬変わった。ピリつく健太とは裏腹に美夏の口元は薄っすら笑みさえ浮かべているのだが。高辻達個人の能力はSに限りなく近いAランクという位置付け。相性もあるけど1対1の勝負だと恐らくギリギリ勝てないだろう・・しかしこの3人が組めば通常のSランクなら間違いなく勝てる。


 高辻はこう続けて話す


「勿論これがどれほど危険な事なのかは君達なら理解できるよね?はっきりと天號の能力が解明するまでは慎重に行動して欲しい。ビル内部では必ず『単独行動をせず』『3人一緒に』移動する事にする。ここまではいいかな?」


健太「OKリーダー、頼りにしてるぜ。」

美香「どっちみち楽勝じゃん♪」


 高辻は小さく頷くと続けて段取りについて語り始めた。


「先ずはこの【歌舞伎町HelixTower】について言っておく事があって‥一般には建物高さは西新宿の高層ビル群と調和する225 mと公表されてるけど、実際は255mあって、最上階と言われている48階の上には隠された秘密のフロアが存在しているんだ。勿論今回のターゲット達もここに居るだろうね。」


 淡々と説明していた高辻はチラリとビルの最上階付近を一瞥すると、釣られて健太も見上げてしまう。


「どうせなら50階迄建てれば良いのにね…」

 

美夏がそう言うと


「そうやな‥」と健太は釣られる。


「存在しないはずの49階の話だけど、窓が無いから外から観ただけだと本当に何も無い様に見える。階段やエスカレーターも繋がっていないから侵入は難しいだろうね。しかも天號はこのビルが出来てから一度も出てきた事が無い程警戒しているみたいだ。」

 

 高辻は歩を止めずに二人に説明していく。


「Sランクと言っても結局能力に自信が無いから小細工ばかりするんだろ?案外チキンっていう説も出てきたぜw」


 体格の良い健太が言うとそう思えてしまう。


 ―どちらにせよ天號宗十郎という人物はマトモじゃない。用心はしておこう。(高辻の心には一抹(いちまつ)の不安が()ぎる。)


美夏「それで最上階まではどうやって行くの?」


高辻「それをこれから話す。歩きながら聞いて欲しい。」


 高辻がそう続けると、美夏と健太も歩道を歩きながら高辻の話へと耳を傾ける。

 

 駅を出てから道行く人の流れに逆らわず歩いているが、日曜の昼間という事もあり人出が思っていたよりも多く、中々先に進まない。(既に交差点を幾つか渡っているが目的地までは後数分掛かるだろう。)街頭のモニターから流れてくる音楽は賑やかで自然と三人の声も大きくなってしまう。


 さほど気にはされないが、派手に目立つ彼らをスマホで撮影する人も偶にいて都会でも少し異質な存在なのだろうか。(信号待ちしてたら陽気な外国人夫婦と美夏は記念撮影をしていた。)


「続けて説明するけど、俺たちはHelixTowerの正面入り口から堂々と入る。これだけ人が沢山いるから攻撃されたりする事はないだろうしね。ビルの一階はフードコートになってるけど、くれぐれも何もせずそのままエレベーターに乗りこむよ。」高辻が念を押す。


美夏「え?でも48階までしか行けないのよね?」


高辻「そうだね、だから俺たちは下へ行く」


健太&美夏「下へ行くの?」


高辻「あぁ、そうだよ。地下は5階まであってねそこにも色々施設が入っている。まず3階は駐車場なんだけど・・・」


 Helix Towerの地下3階は無人の駐車場になっており車両の入出庫から保管スペース迄の移動も全てがAutomation化されている。利用も顔認証だけで済む文字通りの顔パスが売りの1つになっていて24時間駐車しても3千円程、当日中なら何度でも出入りは自由らしい。

 

 地下2階と4階は大規模ライブハウスになっていて合わせれば4千人弱が収容できる規模だ。地下4階ではBarでお酒を飲みながら360°ライブビジョンを見て楽しむ事も可能で、更に興奮を加速させるだろうね。

 

 地下5階は”Only Authorized Personnel Permitted”要するに「関係者以外立ち入り禁止」になっている。設備や倉庫に使用するフロアなので一般人は入れない。


「ちなみに地下1階はでっけぇゲーセンだぜ」

 

 健太が口を挟むが気にせず高辻は説明を続ける。


「俺達はエレベータに乗ったら地下5階まで向かい、そこにある(はず)の天號様御用達の直通エレベーターで49階まで行くって寸法さ。勿論それに乗れるのは限られた人間だけだけどね。」


 高辻はいとも簡単に言うがそう甘くはないだろう。


「ふーん、そのエレベーターにはどうやって乗るの?セキュリティは?」


 高辻の隣に美夏が歩み寄り質問する。


「その直通エレベーターは毎日同じ時刻に起動している。朝・昼・晩の3回必ずね。天號への給仕と考えられるから、まぁそこを狙うだけ、天號と言えども人間だから飯は食うのさ。」

 

 高辻がパチンと指を鳴らす。


「そして後は僕たちお得意の力技だね、任せときw」

 

 健太がシャツの(そで)(まく)ると握り拳を作る。体格の良い健太が言うと負ける気はしない。


 三人が仕事の段取りを話しながら歩いていると、Helix Towerの屋上付近がビルの合間から見えてきた。歌舞伎町一番街、そこに目的の【歌舞伎町Helix Tower】がある。


……………………………………………………



「うぉ!すっげ、めっちゃすっげぇビル!」


 HelixTower入口前にある歌舞伎町ノシネ広場まで到着するとガタイの良い男、佐藤健太が開口一番に感嘆の声を揚げる。


「お前の語彙力(ごいりょく)かなり(ひど)いぞw」


 高辻正紀がそう言って笑う。


「健太はビルの外登れば?キングコングみたいでウケるし、そのまま落ちて。」


 美夏が間髪入れずに言うと、健太が負けじと反撃に出る。


「美夏ちゃんがさあスタバで休憩する〜カフェでランチしたい〜って我儘(わがまま)を言って一々止まるから到着がだいぶ遅くなったよね。」


 健太は一応年上だから美夏に舐められる訳にはいかないのだ。


「お前もラーメン屋の前を通る度に腹減った~腹減った~ってうるさかったぞ。」

「それマクドの前でも言ってたし。」


 特大のブーメランにたじろぐ健太を見て2人は『あはは』と笑う。


 何処から見ても遊びに来ている若者にしか見えない高辻達が楽しそうに談笑している頃、直ぐ脇の広場ではこれから行うイベントの準備なのかスタッフ達がカメラや音響装置などを忙しそうに準備を進めていた。


 高辻が腕時計で現在の時間を確認すると針は11:47分を示している。HelixTowerの高さは255m、地下5階から49階まであるから54階存在する事になる。各フロアの高さはおよそ5m弱として、天號の直通エレベータは秒速15m/秒だから17秒かとかからず最上階まで行ける計算になる。天號の専属サーバーが12:00ジャストに食事を届けるとしたら、エレベータの開閉、食事を運ぶ時間を考慮すると地下5階の直通エレベータ入口に現れるのは恐らく11:55分頃だろう…。

 

 腕時計を見つめながら1人ブツブツと呟いていた高辻は両腕を頭の上でググっと伸ばし手首、腕のストレッチをするとゴキリと首の骨を鳴らす。


「さて、天號宗十郎に会いに行こうか」


 三人はビルへの入り口に向けて一歩踏み出した。



……………………………………………………



―時は少し前へと遡る


3/8日曜am11:00 HelixTower 


 一見身なりの良い紳士が天輪神響道の信者5人に周囲を囲われながらビルの最上階に居を構える天號宗十郎の元へと参る為エレベータに乗り込もうとしていた。


 紳士は銀座にある老舗のオーダーメイトであつらえた紺のスーツをきっちり身に纏い、整った髪型は黒く染めその堂々とした所作からは只者ではない雰囲気が感じ取られる。齢67には到底見えず自信に満ちた雰囲気とその出立ちからは50代前半に見えようか。胸元の金バッジが輝くこの人物は今や知らぬ者は居ないだろう。名は『岸和田義雄(きしわだよしお)』現日本の内閣総理大臣その人である!(ドドン!!)

 岸和田はインテリジェンスな眼鏡をクイっと指2本で整えると鋭い眼光で信者達の品定めを始める。彼らは全員黒のスーツ姿で信者と言うよりはここで働くスタッフに見える。カモフラージュだろうか?案外普段はここで普通に働いている可能性もあるな。天號は用心深い男だからそれも十分にあり得るぞ、と岸和田はほくそ笑む。(ニヤリと笑った時の右の口角(こうかく)が上がる表情が岸和田の特徴で国民のウケはあまり良くない)

 

「それでは岸和田様お時間になりましたのでこちらのエレベータにお乗り下さいませ。」信者達の中でもリーダー格の女は奥にある大きな柱に向かって手をかざす。

指紋認証なのだろうか女の手に反応し柱の表面が音もなく回転すると柱がエレベータへと変わる。


 天輪神響道の教祖である天號宗十郎は昨年このビルが建設され商業が本格化してからというもの滅多に他人と接触を取らなくなっていた。御仁が周囲に対して最大級の警戒をしているのは想像に難く無く天號の住む最上階に行く方法がこの隠しエレベータのみである事も頷けるだろう。


 このエレベータはビルを構築する柱としても機能しており構造上完全な円形をしている。当然だが外観からは只の柱にしか見えない。『かご』の中は想像以上に広く、大人6人が搭乗していても快適なスペースと言えば伝わるだろうか。艶のある床面には五芒星が描かれていて信者5人が星の頂点、岸和田は中心に立つ様に指示された。

 エレベータに乗り込んだ岸和田はリーダー格の美女が言う通りに五芒星の中心に立つとそれぞれ信者達は決められたポジションに移動する。30代であろう信者達の中で唯一右手側に立っている女はまだ若く新人なのだろうか挙動が怪しい。岸和田は貧相なくせに香水がキツイその女を一瞥(いちべつ)するが直ぐに目の前に立つリーダー格の女性へと視線を移す。

 この女は中々にプロポーションも良く後ろ姿がいやらしい。丸みを帯びたその尻は筋肉でキュッと持ち上がり実にけしからん!岸和田は学生の頃からのシリニストであり生粋の尻フェチである。岸和田の口角は知らぬ間に右へと吊り上がっていた。(ドドン!)

 

 …岸和田がニヤケ始めたと同時にエレベータは減速を始める。停止時に特有の揺れと音を感じはしたが殆ど気になるレベルではなく技術の進歩を思い知らされる。


 エレベータが完全に停止するとリーダー格の女は黙ったまま手前へ手を翳す。またしても扉は静かにスッと開いた。


「総理、最上階へと到着しました。それでは私と彼女は下へと戻りますので他の3名とそのまま真っ直ぐにお進み下さいねwww」

 

 リーダー格の女ではなく貧相な女が振り向きもせず頭を下げたままに言った。

 

「はぁ〜これが噂に聴く【天號の間】ですか…それにしても圧倒的な『和』でありますなぁ…」


 幻の49階に到着したばかりの岸和田の喉からは例に違わず感嘆の溜息が洩れてしまう。目に映る光景はビル内部とは思えない程『リアル』な日本庭園が広がっていた。


……………………………………………………



 岸和田は扉が閉まりただの柱に戻ったエレベータを後にし何処か見覚えのある散策路を一歩づつ慎重に先へと歩を進めて行く。岸和田の記憶が正しければ此処(ここ)は京都にある回遊式庭園と非常に酷似している。フロアの中は不思議と空があり明るい、透き通るような青空はホログラムだろうか。生い茂る様々な木々は瑞々しく爽やかな香りがした。池に映る景色は吸い込まれそうに美しく耳を澄ませば滝の音が微かに聞こえてきた。


―これは天號宗十郎と言う御仁の器を計り間違えていたやも知れぬ。岸和田の額から一筋の汗が流れ落ちる…


 3人の男性信者達は無言で岸和田の後を同じ間隔を保つ為に歩幅を合わせながら着いて来ている。

 美しい庭園も感動を一緒に分ち合う相手が居なければ興も冷めてしまうなと括れている松の木を女体に見立てると岸和田は先程のスタイルが良い女の尻の形を思い出していた。


 美しい敷石の散策路を歩いて行くと樹々の合間から古びた茶室が見えて来た。そこは開けた空間になっていて周囲をぐるりと池に囲まれている。静かに佇むその建屋は国宝級の庭園に相応しい見事な造りで、書院造を基調とした数奇屋造りになっている。自然の美を極限まで追求した、そんな景色に見惚れていると、まるで時が止まっているような不思議な感覚に囚われていく。


 ―やはりそうか…岸和田はそこからの眺めが天橋立を模して造られたと言われる『桂離宮』と非常に酷似している事に確信を得ていた。


(天號め、いよいよ皇室気取りか…内心舌打ちをする。)


 暫し立ち止まって景観を眺めていた岸和田だが、信者達に促されながら露地へと足を踏み入れる。ここからは茶室の為にあつらえた庭で連なる石畳の上を歩くのは砂利や木の枝を踏み音を鳴らさないよう静寂を配慮した茶道への深い精神であろう。


 池に掛かる石橋を渡り岸和田が建屋へと辿り着くがそこには人影はなく、茶室の戸は全て開かれていた。中を見渡しても人の気配は感じらずどうしたものかと思案していると茶室の中に煎じたばかりであろう茶と茶菓子が畳の上に用意されているのに気付く。信者の顔を伺うと岸和田の心中を察したのか1人がうなづいた。

 岸和田はフンッと鼻を鳴らすと履いていた靴を脱ぎそのままズカズカと上がり込む。用意されている茶の前まで行くとドカッと胡坐をかき座り込んだ。


「内閣総理大臣であるこの私を待たせるとは‥天號宗十郎どういうつもりだ。」

 

 外で待機している信者共にあえて聞こえる様に岸和田は言うと好物の和菓子である麦代餅に手を伸ばし素手でがぶりとかぶりつく。一口が多かったのか慌てて茶で流し込む。


「これは……うまい!」


 岸和田はもぐもぐ顔でニヤリと笑う。(ドドン!)



「カカカッ!礼儀も作法も逸脱しておるのう、岸和田。」


 急に背後から男の声が聞こえビクッと反応した岸和田は思わず餅を畳の上に落としてしまう。慌てて餅を拾い振り向いた岸和田だがそこには誰もおらず外で信者達が待機しているだけであった。


―?

 

 確かに今耳元で声が聞こえた筈だが…空耳だったのだろうか?格式ある場での失礼な振る舞いに自責の念から幻聴を聴いてしまったのだろう…か?


 茶を飲んで心を落ち着かせようと向き直った岸和田の前に着物を着た高齢の男性が正座をし此方を見据えていた。


「ヒッ!」


 思わず岸和田は声にならない悲鳴を上げる。


「こ、ここれはてて天號どのぉおぅ驚かさないで下さりませぬかぁ」


 咄嗟(とっさ)にでた言葉は噛んでしまい口からは色々と吹き出すが岸和田は冷静を装いながら言葉を続ける。


 「全く天號殿はお人が悪い、その様な登場をされたら誰でも驚きますよ。それにしても突然姿を現すなど恐ろしい技に御座いますな。瞬間移動これが天號殿の能力と言う事で宜しいかな?」

 

 目の前の人物、天號宗十郎の異能については誰も知らずに謎のままだった事もあり、その力の一部を体験出来た事は岸和田にとってかなり有利な情報となる。冷静を取り戻した岸和田の語尾が強まったのはそのせいだろう。


「カカッ!儂の能力はその様な類いではないぞ、おぬしは根本から間違えておるわ。」


 天號はそう言うと愉快そうに笑い、言葉を続ける。


「まあ良いわ、それよりもお主が中村屋の名物菓子を好物と聴いてな、わざわざ京都より取り寄せておいたのじゃ、さぞかし美味かろうて。しかし手掴みで頬張るとは思わなんだがのぉ。」


 手元の扇子(せんす)を少し開くと直ぐ閉じを繰り返しながら愉快に話す天號に岸和田は心の奥底まで見透かされているのかも知れない。口調は物静かで穏やかではあるがピンッと張り詰める独特の空気を纏っている。


「しかしビルの最上階がこの様な庭園になっているとは…天號殿の財には底が無い様で羨ましい限りですな。」岸和田はいつの間にか正座をしている。


「ところで岸和田よ口元に食べカスが付いたままじゃぞ。」


 天號は人差し指で自分の唇の端をちょんと指差す。慌てながらもポケットより取り出したハンカチで餡子を拭き取る岸和田を確認すると天號は改めて会話を始める。


「のぉ岸和田、お主の様な俗物が総理になれたのは一重に天輪神響道のバックアップがあったからこそだと理解はしておるよな?」問いかける天號の眼差しは岸和田の心を抉る様に見据えている。


 岸和田の前任であった阿倍野総理は一発の凶弾によって命を絶たれている。その犯人は天輪神響道を逆恨みした輩で、意味不明に政治を批判しながら何の罪も無い阿倍野を襲ったのである。岸和田はたまたまその後継を引き継いだに過ぎない。


「私は『阿倍野慎吾(あべのしんご)』元総理の跡を継いだに過ぎません。天號殿に借りは特に無いと存じておりますが、それとも阿倍野元総理殺害に御仁が関与なされたとでも仰るのですかな?」岸和田はクイッと眼鏡を整える。


「カカカッ!珍しく察しが良いではないか岸和田、では順を追って説明をしてやろうか。その後で主の考えを訊くとしよう。」


―愉快そうに話す天號に少々理解が追いつかない岸和田だった。

 

 パチンと扇子を閉じた天號は当時の事件を改めて振り返る。


「まずあの事件で犯人とされた小僧の母親だが、あれは我が教団の熱心な信者でのぉ自身が破産するまで寄附しおったわ。お陰で小僧はマトモな生活も出来ずに苦労した様子でな、母親の愛情もまともに受けず育てられた恨みを社会や政治に転換する事で精神のバランスを保っていた哀れな小僧よ。そして愚かにも当時の総理大臣であった阿倍野が天輪神響道に関与していると勘違いをして凶行に走るとは至極滑稽ではあったな。カカカカカッ」


 そこまでの経緯は岸和田自身も勿論知っている。当時マスコミはこぞって事件の報道を取り上げていたし、犯人の動機や家族構成に至るまで事細かに伝えられていた。岸和田に至ってもその後容疑者である青年と面会した事もあり、その時の印象としては非常におとなしい純朴な青年でとてもそんな大それた事をする人間には見えなかったと記憶している。心を病み行き場を無くした感情が狂気となり暴走させてしまったのだろうと当時は思っていたのだが…。


(目の前で愉快そうに語る天號宗十郎の瞳に宿る光は狂気に満ちている気がした)


 岸和田を一瞥した天號は話を続ける。


「阿倍野元総理襲撃事件に関してそこまではお主も知る事ではあるな。では少し違う話をしようかのぉ。阿倍野を殺害したあの小僧、実はちとやっかいな異能を使用出来たんじゃよ、然もあろう事かその能力でこの儂の暗殺を目論んでおってな、カカカッ気づくのが遅ければこの儂の命も尽きていたやも知れぬ。」

 

 天號はそう言い終わると愉快そうに目を細める。


 あの青年が能力者で天號の命を狙っていたという事実に驚きを隠せない岸和田が口を開こうとしたが、天號はそれを制止すると自分の話を続ける。


「あの小僧の異能は『God's Bullet』という代物でな、奴が能力を使い発射した弾丸は『神の一弾』となる。その名の通りどんな相手でも一撃で必ず仕留める事が可能というSランクでも上位に位置する異能であったな。」


 そこまでずっと黙って聞いていた岸和田だがふと疑問を感じ天號に尋ねる。


「何とあの青年にその様な強い異能が備わっていたとは露ほども感じませんでした、全くもってお恥ずかしい限りでありますなぁ…しかし解せぬのは青年の能力が天號殿が仰る様に必中必殺のものであったならばどうして教団の教祖であられる天號殿ではなく阿倍野元総理を狙ったのでしょう。」


 岸和田は失礼を承知で天號に問いただす。抱く疑問は至極当然だろう、殺害された阿倍野元総理にとっては唯の逆恨みだとしてもあまりにも的外れと言わざるを得なく、日本の為に獅子奮迅の念で活躍をしていた方であっただけに志し半ばでのリタイアはさぞかし無念であったろう。


「カカカッ儂はただあの小僧を利用したに過ぎぬよ。彼奴の能力は銃を撃って、人を狙って初めて発動するものであった。だから本人さえも自分が異能を持って生まれた事に気付いておらなんだ。しかして不遇の生涯に嫌気が射し教団と儂への恨みから銃を手に入れたのが運の尽きだったようじゃな。」

 天號は語りに暑くなったのか扇子を広げるとパタパタと仰ぐ。


「要するに天號殿の能力で青年を操った。と言う事で正解ですかな?」


―岸和田はドヤ顔で話の確信を突く。(ドドン!)


「カカヵ!!愉快ゞ、儂に牙向く愚か者を消すと同時に有能な手駒も手に入れる事が出来たわ!良く聞け岸和田よ儂の異能は『支配する者』である。誰で有ろうが一度掛かればこの絶対服従の能力に逆らう事は叶わぬ。それが例え総理大臣で有ろうがS級の能力者であろうともな!」


『我こそが神なり!!カカカカカ-ッ!』


天號は高笑いを繰り返した。


 そうか…迂闊だった…そう言う事だったのか……ぼんやりと諭る岸和田の意識は朦朧とし、私で無いもう1人の岸和田が天號と話をしていた。そいつは私じゃ無い、何を言っているんだ、私では無い、私は此処に居る、あぁ、あぁ、ぁぁぁ


……………………………………………………



「気分はどうじゃ岸和田?」


「はい気分はとても清々しくあります。天號様の御力に直接触れるこの幸せ、今までの岸和田が如何に矮小(わいしょう)な存在であったのかと恥ずいております。」


岸和田は恍惚の表情を浮かべている。


「ふむ。ところで岸和田よ、お主は内閣府直属の秘密組織、『八咫烏(やたがらす)』の存在は知っておるよな?儂が知りたいのは奴等の規模と目的といったところだ。お主が知っている情報全てを話せ。終わればまた元の生活に戻してやるぞ。カカッ腐っておっても一国の総理、それなりに(からす)の情報を握っているのだろう?」

 

 天號は焦点が微妙に定まらない岸和田へそう告げるが岸和田の口から得られた言葉は期待には程遠いものであった。


「天號様、残念ながら八咫烏に関する情報は殆ど得られておりません。誰に聞いても何処を調べても痕跡(こんせき)を残しておらず、その存在すら本当に真実なのかどうか疑わしく政府高官達の間でさえ都市伝説の類いと一笑に()す者もおります。手掛かりとなり得る実行部隊ですら野に住む能力者を利用しており捉えて拷問しても何の情報も得られないでしょう…」


 淡々と語る岸和田の顔を天號は持っていた扇子で強く叩いた。―バチンッ!


「ヒィ、や、八咫烏に近い人物と噂されて居たのは殺害された阿倍野元総理の右腕だった菅谷(すがや)で御座います、きききっと菅谷が八咫烏に違い有りません!」


 バチン!天號はもう一度岸和田の顔を叩こうとしたが岸和田は寸前のところで躱し眼鏡(めがね)だけが吹っ飛んでいった。


「て天號様は左利きなのでございますね。あ、ありがとうございます。」


 扇子を右手に持ち替えた天號は怒りに打ち震えながら岸和田の頭を目一杯の力で殴りつける。


「ワシは右利きじゃぁこの愚か者の役立たずのゴミがぁ!!」


 バキッと扇子が軋む程の衝撃音。岸和田の髪は乱れ顔には血が(にじ)む。


「この愚か者がぁ!貴様を総理にする為に儂がどれほど労力を費やしたか知っているのか?何もかも貴様をここへ誘い出し八咫烏の秘密を知り弱みを見つける為じゃった!」天號は怒鳴り散らす。


「ヒィ、痛い天號様ありがとうございますぅぅ・・」


 泣きながらお礼を言う岸和田に少しだけ溜飲が下がった天號は肩で息をしながら座り直す。


「フン、烏共が何を企んで居るのかは知らぬが奴らに確保された能力者共の行方がほぼ全員消失しているのは何故じゃ!」天號は怒りが収まらない。


 ―この天號ですらわからぬ事がある。警戒する相手が居る。怒りで血管が浮き立ち手に持つ扇子が震える。


「そう言えばあの事件の犯人である青年も政府に身柄を引き渡した直後に消息が不明となっておりました。私は早速戻って組織の情報を集めに参りますので報告は後程改めさせて頂きます。」


 岸和田は頭を下げ言い終わると席を立ち上がろうとするが、慣れない正座が長かった為か足が痺れて転倒してしまった。起きあがろうとすればひっくり返りを数度繰り返す岸和田を眺め天號の脳裏に一抹の不安が過ぎるのであった。


 産まれたての子鹿の如くプルプルと震える岸和田に天號は昼食の時間だから一緒に食べていけと勧めるので岸和田はまた畳に座り直す。


「のぉ岸和田、お主はまことに見ていて飽きない男よの、褒美(ほうび)として儂が面白いものを見せてやる。」


 天號が扇子をパッと開くと目の前にかざしパンっと閉じる。


 一瞬にして庭園や茶室が消えそこに現れたのはホテルの高級スイートルームである。『Helix Tower 』の最上級ホテル並の豪華さだ。いや、それ以上であろうか。


 ポカンと口を開けたままの岸和田はあまりにも桁外れな天號の能力に圧倒される。


「天豪様これは一体……」


 一瞬で景色を変える程の凄まじい能力なんて聞いた事も見た事も無い、天號は相手の精神を強制的に支配する能力だった筈だ…これもその能力の一部何だろうか?


「カカカッ我はドミネーター全てを支配する!烏なぞ恐るるに足らぬわ!良いな岸和田、お主は今後も儂のスパイとなり必ず奴等の尻尾を掴んで来るんじゃぞ!!」


 天號はそう言うと現れたソファにドカリと座り込む。


 圧倒された岸和田はその場に立ったまま足を揃え右手を胸に当てながら粛々と答えた。


「かしこまりマスタ(ました)ー。」


 岸和田渾身のダジャレが決まった。(ドドン!)


―突如室内にアラームが鳴り響く。


 部屋の隅に居た信者達が慌ただしく天號の元へと近寄り何やら耳打ちをすると、天號は備え付けの大型モニターに映像を写し出す様に指示を出す。


 部屋の壁一面には複数のモニタがありそれぞれ別の映像が表示されている。この部屋で監視行為を行っていたのは明白で画面にはビル内外にある様々なカメラより受信した画像が目紛(めまぐる)しく切替わっていた。その中にはホテルの一室も映っており宿泊客の様子さえも確認出来る。


 中心の大型モニタに街の雑踏が映し出されると信者の1人が天號に説明を始めた。慌てる信者の態度から緊急を要する事態であろう事は察するがそこに映るのは普段通りの新宿の街並みが人で賑わっているに過ぎない。


「これが新宿3丁目駅付近に現れた者共の映像で御座います。」


 画面には今時の若い男女3人組みが映し出された。彼らは楽しそうに会話をしておりその内容さえハッキリと聴き取れるレベルで音声が録音されている。どういう仕組みかはわからないが現在の技術には雑踏の中から狙った相手の音声を離れた場所から収音出来ると聞いた事がある。天號達と一緒にモニタを見ていた岸和田は今後の政治活動では一切油断出来ないなと心に釘を刺す。それにしても見た目は派手だが普通の若者達に天號が興味を示すとなると異能者で有る事は間違いないだろう。


 今見ている映像は少し前に撮影された録画映像らしく画面の右上には撮影日時が表示されており現在の時刻と比べると数十分前の時刻がカウントされている。信者はリモコンを操作しながら3人にクローズし画面をズームさせると一時停止させる。


「この時の時刻が11:27分でこの者達はそのまま此処へ向かって参ります。」


 信者はひとしきり3人の特徴や会話の内容など得られた情報を天號へ伝える。


 そしてこちらが現在の居場所になりますが天號様の指示通りHelix Tower内部への侵入を黙認させております。地下5階で総力を上げて迎え撃ちますか?」


 モニタに映る三人は既にこのビルの内部へと入ってきている。様々な角度から映し出される三人を見ながら何やら考え込んでいた天號だが既に何か考えがあるのだろう、態度には余裕すら見て取れる。


「今日は何かと客人が多い日じゃな。カカカッ!あの銀髪の男には少し興味があっての、そのまま何もせず黙って通してやれ。」


 天號とこの銀髪の青年の間には何か因縁でもあるのだろうか・・・。

 

 大型モニタの画面は地下5階へと向かうエレベーター内のリアルタイム映像に切り替わる。そこに搭乗しているのは銀髪の青年、高辻正紀と佐藤健太の二人である。

  

「天號殿、この若者達は一体何者で?」岸和田が問う。


「ふむ、八咫の烏と言えばわかるじゃろう?恐らくこの小僧共は烏に雇われて儂を捕えに来たのじゃろうな。所詮こ奴らも使い走りに過ぎぬのじゃが。」


カカカッと笑い天號は続ける。


「この銀髪の小僧はこの世界ではちと有名な男での、過去にも天輪神響道の信者数人が故奴に捕えられておる。ふん、いよいよここへ乗り込んで来よったわ。借りを返すには良い機会じゃがな。」


 天號は扇子を広げ口元を隠しながら岸和田に命令を下す。


「良いか岸和田、小僧共がこの部屋に侵入したらまずお主が相手をせい。一瞬油断ができれば良い、さすれば支配の力で奴等(やつら)を拘束できるからの。」


 岸和田は天號の能力を身をもって知り、その万能さを理解している。きっとあの若者達も為す術無く天號の手の平の上に違いない…。岸和田は自身の保身の為にも全力で操られる事を心に誓うのであった。



……………………………………………………



―11:54分地下5階 


 地下5階の大きな柱の近くで待機していた高辻達の読み通りに天號への食事を運ぶ給仕達が現れた。年配の男と若者の2人組で何度も同じ作業を繰り返しているのだろう慣れた様子が伺える。大きなワゴンには高級なワインや食事が乗せてあり、料理が冷めない工夫が施されている。香りがとても良く佐藤健太はよだれを抑えられずに袖で拭っている。ちっ昼から贅沢しやがって…と健太が思っていると高辻が思っているかもしれないと健太は腹を鳴らしながら考えていた。かどうかは薮坂では無い。


 壁の裏に潜んでいた高辻と健太は頃合いを見計らいワゴンを大事そうに運ぶ彼らに自然に近づいて行くがこちらに気付いた給仕達は明らかに身構え警戒を強めたのが見て取れた。高辻はそんな彼等に愛想よく手を振りながら挨拶をする。


「やぁこんにちは、お仕事中失礼します僕達は天號さんに食事へ招かれておりまして、良ければ一緒に上まで乗せていただきたいのですが。」


 高辻は給仕係に近寄ると眼鏡を少し下げ男達の目を見て圧をかけて問いかける。

若い男は戸惑いながら年配の男性と高辻達の顔を交互に見比べるが年配の男性は一応確認しますとスマホを取り出す。


 年配の給仕係が自分の上司へ確認を取ろうとスマホの電話帳から検索を始めるのを高辻は遮る様に声をかけ「ねぇ、ちょっと待って別に確認取る事自体は構わないけどあなた達二人とも痛い目を見る覚悟はして貰う事になりますよ。今まで食事を届ける時間が遅くなった係達が天號宗十郎にどんな目にあわされたか知ってますよね?もう既に時間は11:57分を過ぎようとしてる。時間が無いから最終通告だけどここは黙って僕たちを通して君達はそのまま家に帰った方がいい。料理は代わりに僕らが運ぶから大怪我したく無ければ戻るんだ。それがベストの選択だからね。」高辻は捲し立てる。


 「天號さんには僕達から宜しく伝えておくよ。」と健太も繋げる。


 確かに過去にも天號の専属サーバーが時間に遅れて食事を届けたらワインの瓶で殴られたり遅れた事に対し理由を述べただけで半殺しからの解雇にされたりと悪い噂を聞き及んでいる。その病院送りにされた先輩は今も意識が戻っていないらしい。


 給仕係達は観念し隠しエレベータの扉を開ける。意外にもセンサーの前で手をかざせば誰でも扉を開ける事ができた。高辻達はエレベータの操作方法を聞き出すと、一般人はそのまま帰るように促し彼等が居なくなるの確認してから天號の間へと直通で繋がる高速エレベータに乗り込むのであった。


…………………………………………………



 背の高い2人がエレベーターへと侵入すると高辻は教わった要領で手を前へかざし2、3回スライドさせる。すると扉は開いた時と同様に音もなくスゥッと閉じた。床には五芒星が描かれていて円形の壁は全面白く(つや)がある。何か落ち着かないと感じるがエレベーターは静かに上昇を始めた。


 佐藤は横に立つ高辻にずっと引っ掛かっていた懸念(けねん)について尋ねてみる。


「高辻さん異能を持たない普通の人間に対する組織の対応って変だと思いませんか?今回だって間者に対して生死を問わないとかあまりにも命に拘りが無さすぎな気がしますよね?」


 佐藤の問いはもっともだが数秒後には最上階へ到着するであろうエレベーター内で長話は無理だと高辻は判断し言葉を濁す。


「あぁその事か、それなら個人的に色々と調べてる今言える事は組織を信用し過ぎず用心はしておくべきって事くらいだよ。それより今は天號宗十郎、奴に集中しようS級は決して楽な相手では無いからね…」


 確かにそうだなと健太は黙って頷いた。



……………………………………………………



―天號は三人の信者に武器の用意をするように伝えると岸和田を連れて部屋の奥へと移動する。部屋の奥はスタンディングカウンターになっており、後ろの棚には様々な酒が並んでいる。普段はここにバーテンダーが居て天號に上手いカクテルを作るのだが、三日前に殴ってしまい怪我をさせたので今は休養中だ。


 岸和田を残し天號はカウンターに入っていくと冷蔵庫から冷えたシャンパンを取り出し岸和田に開けろと渡す。岸和田は言われた通りにシャンパンのフィルムを剥がそうとするが天號の信者達が銃で武装をしているのを見ると手が震えてうまく剥がせない。ワイヤーキャッジ、キャップと外せたのは毎年クリスマスに家族で祝う岸和田家の決まりが功を奏したのであろう、コルクを外し乾杯をするのは私の役目である。


「グラスの準備は出来てますかな天號殿」


 岸和田がコルクを外そうと捻っているとバンッと部屋の扉が開き男達がズカズカと入ってきた。


「天號様、お食事をお持ちしましたぁ!」


 佐藤健太の大声が部屋に響くとポンッと音がしてシャンパンのコルクが外れた。


 部屋に侵入した高辻と健太は素早く状況を確認する。彼らの前には銃を構えた男が三人、奥にはシャンパンが吹きだし慌てる男性、カウンターの中にいる老人が天號だろう。


「これってどういう状況?」


 健太は素直に言葉に出した。


 信者達は「動くな」とふたりに銃を突き付け牽制するが健太は意に介さず信者達に近づこうとする。部屋に並ぶモニターに監視映像が流れているのを確認した高辻は一瞬で状況を理解したのか踏み出そうとする健太を右手で静止すると、


「待て健太、俺達はずっと監視されていたらしい。」高辻は健太を牽制する。


「構うかよ!銃なんて怖くないぜ。」健太は言うが警戒をしたままその場を動かない。


「君達、突然乱入して来て何の用かな。ここへ辿りつけるのは凄いけど天號殿に失礼だと思わないかい、事前にアポは取ってないんだろう?大丈夫私は君達の上司に当たる者だよ。」


 シャンパンをこぼして慌てていたおっさんがこちらに近づいてくる。髪は多少乱れてはいるが身なりが良いこの男に二人は見覚えがあった。


「岸和田総理!?何でここに!」


 健太が素っ頓狂な声を出す。

 

 岸和田は銃を構える信者達の間を抜けて右手を出し握手を求めてきた。その手はシャンパンで濡れている。


「油断するな、健太!そいつがスパイだ!」


『Detect a lie』これが高辻の異能で相手の嘘を見抜く事が出来る。



 ハッとする健太が岸和田の顔を見ると岸和田はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべており、視線は少し定まっていない感じがした。健太が不気味な岸和田を突き飛ばすとそれを見た天號宗十郎が合図をだした。


「構わん、撃て!」


 バンバンバンバン!信者達三人が一斉に手に持つ銃を撃ち続ける。


 何発撃ったのだろうか?カチカチと弾倉が空になった音が響き渡り、硝煙の中から見えるのは両手を広げ仁王立ちのまま無傷で立つ佐藤健太と後ろで平然とする高辻正紀である。


「化け物だ・・」信者達は後退し天號を振り返る。


「カカカッ案ずるな、能力者相手に銃など通用せん事くらい百も承知じゃ。」


 天號は余裕を見せる。


「そう言えば可愛いお嬢さんの姿が見えぬがどこへ行ったのかのぉ。」目だけを動かし周囲を確認する天號。


「俺達が3人で来ている事もバレていたのか?」


 慌てる高辻と健太。


「カカカッカカカッお主らは目立ちすぎじゃ!派手な格好をして駅から数十分も歩いて来よって愚か者めが!」


 立ち上がった岸和田が天號に歩み寄ると言った。


「天號殿、本当にこんな馬鹿な若造共が八咫烏の刺客ですかね?せめて西部新宿駅から来れば徒歩1分で近くて目立たないだろうに…。」


 哀れな目で二人を見ながら岸和田はそう吐き捨てる。


「馬鹿はお前たちだろっ!」


 突如岸和田の側に現れた少女がそのまま殴りつけると岸和田はカウンターへと背中から倒れこむ。立ててあったシャンパンとグラスを巻き込み吹っ飛ぶ岸和田、割れたグラスとシャンパンに塗れ足を広げてひっくり返るその姿は潰れたカエルさながらで、そのまま気を失ってしまった。


「ナイス美夏!」健太は親指を立てる。


 美夏の出現を合図に高辻と健太も動く。電光石化の速さで信者達に一撃を加えると慌てた信者達は銃を構える事も出来ずその場に倒れていった。


 残すは天號のみだが気づくとそこに天號の姿はなく、カウンターから奥に繋がる通路より隣の部屋へと逃れたのだろう。美夏の姿も無いので一早く天號を追っていったに違いない。


 二人を追いかけ高辻と健太は通路を進む。


 通路はパーティーションで区切られ、あえて狭くなっているようだ。思ったより長く続く通路の壁には何やら不気味な絵画が飾られており右へ左へと曲がりくねる。


(しまった、美夏を1人にするのは危険だ)


 高辻な内心焦っていた。天號の異能はまだ未知であるのに対し美夏の透明化はバレている。攻撃を無効化できる健太の能力は優秀だが前面からの攻撃のみしか無効化できない弱点もある。高辻の異能は相手の嘘を見抜く事が出来るが戦闘になると効果は薄く見抜けると言ってもゾワゾワする程度のものでしかない。三人揃って戦わないとS級には勝てないだろう。


 先へ進むと行き当たりに扉が見えたので健太は勢いよくドアを開ける。前面の攻撃は全て無効化できるので怖いものはない。

 目に飛び込んできたのは床に倒れる美夏の姿だった。着ていた服はボロボロに破れ汚れている。美夏を見下ろすように立つのは天號で、美夏の腹を蹴飛ばして笑った。


「カカカッたかが小娘一匹で儂に歯向かうとは愚かなり。愉快じゃのぉ愉快愉快愉快愉快愉快カカカカカッー」


 天號は美夏の頭を2,3度踏みつけて言う。


「死んだか」



ープツン 


 健太の頭の中で何かが切れた音がした。


「ぅぉぉっぉぉおおおお!」健太は凄い勢いで突進していく。


 ズガンッと鈍い音がして健太は見えない壁にぶつかり後ろへと倒れる。転げる健太の顔は鼻が曲がり鼻血が吹きだし前歯も数本折れていた。健太は尚も立ち上がると見えない壁に向かい左右の拳を何度も打ち付ける。ガンガンガン!ゴキっと鈍い音がし健太は蹲る。左の拳が砕けたのだろう血まみれである。


 大量の鼻血と曲がった鼻では呼吸もできないらしく健太は涙を流しながら口で呼吸をするがとても苦しそうだ。


 それでも立とうとする健太の肩を抑え高辻は言う。


「安心しろ健太、美夏はまだ死んでいない。奴は嘘を言っている。」

 

 高辻がそう言うと健太は少し安心したのか表情が和らぐ。


「カカッ確かにまだこの娘は死んでおらんよ、気を失っているだけじゃ。こちらも岸和田達が痛い目にあってるでの、お返しさせてもらっただけじゃよ。しかしこれで全員の能力は把握できたよの。」天號は愉快そうに話す。


「それはただの強化ガラスだよおバカさん。凄く特殊だけどね。君らの能力ではそれは破れないから、ざんねーんwwww」


 天號がこちらを馬鹿にしたが何故か話し方が普段と違い気持ち悪かった。


「さて、この小娘の命を助けたいなら儂の言うことを聞いてもらおうか。」


 天號はスタスタと歩いて近づいてくる。高辻とは目と鼻の先だが見えない壁に遮られているので手出しはできない。高辻は天號の言動に違和感を感じるが嘘を言えば分かるので詮索はせず健太に冷静になるように促す。


「何がしたい天號。」高辻は真っすぐ天號の目を見て問う。


「儂が知りたいのは八咫烏の事じゃな。主らはどこまであの組織について知っておる?正直に言えば小娘の命は助けてやる、お主らも天輪神響道へ向かい入れてやっても良いぞ。カカカッ」


「天號宗十郎あんたがご機嫌なところ申し訳ないが、どちらもお断りさせてもらうよ。」


 高辻はそう言うと蹲る健太に向かって言う。


「健太、お前の異能を使うんだ。強化ガラスに向けて全力で発動させろ!」


 健太は一気に立ち上がり砕けた拳を開くと両手で強化ガラスを抑えつける。


「ぅぉぉっぉぉおおおおおおお!おっおおぅおおお!」


 曲がった鼻から血を出しながらも吠える健太の身体から湯気が上がる。


 突如バリンッという衝撃と共に特殊強化ガラスが砕け散った。

 

 天號は飛び散る破片に後ずさるが、振りかぶる健太の右の拳がスローモーションに見える。

 

 突き出した健太の拳が天號の顔面に直撃した―――かに見えたが当たらずに健太の右手が床にボトリと落ちた。


「ぐわぁぁぁっ腕がぁぁ!」


 健太は訳もわからず折れた左拳で落ちた右腕を拾おうとするが健太の左手を避けて右手が転がっていく。血みどろの健太が追って腕を拾おうとするがやはり右手は勝手に転がってしまう。


 高辻は健太を抱えて言う。「美夏だ。」


 高辻の言葉に健太は倒れていた美夏の姿を探すがそこには何も無くなっていた。


「死ね!」美夏の声が健太の背後から聞こえる。


 バシュッ佐藤健太の首が飛ぶ。どうやら後ろから一太刀で斬られたらしい。


 健太は回転する景色を見ながら高辻の叫ぶ声が聴こえた気がした。




……………………………………………………




「健太、おい健太しっかりしろ!天號が逃げたぞ!」


 高辻は涎を流す健太の頬をパシパシと叩きながら大声で名前を呼ぶ。


 美夏が岸和田を殴り飛ばすと同時に高辻達も信者3人を叩きのめすが、逃げた天號を美夏が追いかけると突如健太の様子がおかしくなった。健太はフラフラとその場に座り込み何やらブツブツと呟きだす。目は開いたままで焦点が合わず黒目がふらふらと泳いでいる。それを見た高辻は落ちていたシャンパンのボトルを拾うと健太の頭へバシャバシャとかける。高辻はあきらめずに肩を揺すったり頬を叩きながら名前を呼び続けるとやがて健太は意識を取り戻した。


「・・・うぅくっせぇ何だこれ酒か?」


 服や腕についた酒をクンクンと嗅ぎながら健太は言う。


「お前を起すのに使わせてもらった。ドンペリってシャンパンだよ。」高辻は言う。


「急ぐぞ健太、天號が逃げた。美夏が追いかけたがもうだいぶ時間が経ってる。」


 健太は飛び起きるとカウンターの奥にある通路へ凄い勢いで走って行く!


 高辻も慌てて健太を追う。


「何やってんだ高辻さん、美夏が危ない!」


 健太は細い通路を猛ダッシュで駆け抜けていく。幻覚で見た光景と全く一緒だ。一度通っているので迷いはなく通路の突き当りには幻覚の中で見た物と同じドアがそこにはあった。健太は勢いよく扉を開けて飛び込んでいく。


 扉の先は部屋というより広い空間を利用したラウンジになっている。そこには天號を追いかけた美夏がナイフを手にし天號と対峙していた。美夏は、健太と高辻が扉から入ってくるとこちらを振り向いて、どうしたものかと見えない壁をコンコンとナイフの柄で数回小突いてみせた。


「健太遅いよこの爺さん捕まえるの手伝って。」


 健太と高辻が部屋の内部へ侵入し美夏まで駆け寄ると、背後からガチャリと入って来たドアに鍵が掛かる音がした。


「これって閉じ込められたんじゃない?」美夏が言う。


 キョロキョロと健太も周りを見渡すが出口らしいものは入ってきたドアと天號側の奥にある扉のみだろうか。


「カカカッ全員袋のネズミじゃな。この強化ガラスは特別製での、ロケット弾でも壊れんよ。勿論お主らが入ってきた鋼鉄製のドアにも鍵を掛けた。当然鍵はこのリモコンのボタンのみじゃよ、残念だったな。」天號は愉快そうだ。


 悔しそうな三人を目の前に天號は気分が良くなったのか饒舌になり語りだす。


「銀髪の小僧お前にチャンスをやる。この天號に忠誠を誓い天輪神響道の信者となるならその仲間達の命を助けてやっても良いのだがな。さぁどうするかね?」


 カカカッと天號は余裕の高笑いをする。絶対安全な状況が天號を油断させたのかさらに口が軽くなる。


「儂の能力は『支配する者』この世の全てを支配するドミネーターじゃ。この世界の腐った人間全て支配し現人神(あらひとがみ)になるのが儂の野望よ。そのためには使える駒が欲しくてのぉどうじゃ小僧共、儂に協力するならよし断るならば殺すまでよ。」


 愉快そうな天號はガラスの向こうでリモコンを手に高笑いを続ける。


「哀しい男だな天號。お前には仲間が居ない。信頼し頼れる友達も居ない。力で支配して得られるものって何だ?そんなことをしても虚しいだけじゃないか。」


 高辻は真っすぐな視線でガラスの向こうの天號を正面から見据えて言う。その眼差しには嘘が感じられない。


「そんな遠くに居ないでもっと近くに来なよお爺ちゃんwそれにさぁ支配の能力あるならさっさと使えばいいのにね?こんな回りくどい事する必要なくない?」


 美夏の言う事はもっともだ。


「カカカッ強力な異能ほど使うには条件や代償が厳しくなるのはわかっておろう?当然儂の能力を完全な状態で発動する為には手順を踏まんとならぬ。能力者を支配するには少々骨が折れるんじゃよ。」


 天號はリモコンを服の中にしまうと美夏に触れる距離まで近寄り嘗め回す様な視線を送る。


「ちっ気色悪い目で見るなよジジイ」美夏が毒づく。


「時間が無い、健太お前の異能でこのガラスを割るんだ。防御の力をこのガラスにぶつければ衝撃で割れるかもしれない。」


 高辻が健太に指示を出す。


「ごめん、実はさっきからもうやってる。割れないんだ・・」


 健太は両手をガラスに密着させて力を振り絞っている。


 高辻達は焦る、ここを突破できそうな能力は健太くらいしか考えられない。


「頑張って健太!もっと力を込めればきっと割れる!」美夏が励ます。


「僕の『パーフェクト•キーパー』を全力でぶつけるから二人は少し下がってて!いくぞ、マックス全開うぉぉぉっぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 2分は経つがガラスにはヒビすら入らない・・健太は汗だくでひっくり返りハァハァと息が荒い。


「みんなごめん、壊れない・・・・」


 そもそも健太の異能『パーフェクト・キーパー』は正面からの物理攻撃を無効化するものであり、行った行為は単純に壁に壁を押し付けただけである。健太は泣きそうになった。


「もう終わりか?」


 天號は少し面倒臭くなったのか冷ややかな目で高辻達を見下し始めている。


「結局つまらん雑魚共め。今度はこちらの攻撃でよいかな?」


 天號がリモコンを操作すると天井からシューっという音と共に黄色いガスが噴出される。ゴホゴホと咳き込む美夏と高辻達、体格の良い健太は二人を引き寄せると(おお)いかぶさるように抱きしめるが、見る見る内に三人の姿はガスの煙に包まれ見えなくなってしまった。


「安心せい死にはせんよ、また後で会おう。」


 そう言い残し天號は独りラウンジの奥へと歩いて行くのであった。



……………………………………………………



 ラウンジの片隅にあるテーブル席で独り酒を飲む天號。遠目からガスに包まれる空間を暫く見つめていたが時間を確認すると飲んでいた酒のグラスをテーブルに置く。

 

 高辻達三人が睡眠ガスに包まれたのをその目で確認したが念には念を入れて10分以上は待った。このガスは猛り狂う獣を瞬時に眠らせる効果があり、人間が吸い込めば数秒で意識を失うだろう。今後八咫烏との決戦を考えれば利用できる駒は少しでも欲しい、これ以上の放置は身体に影響を及ぼす危険を考慮した天號はポケットから先程のリモコンを取り出すとガスが出てきた穴から空気を吸い出して外気循環させる。充満していたガスはあっという間に吸い出されていった。


 強化ガラスで仕切られたエリアの中で高辻と美夏に覆い被さる様に健太が上になり倒れている。ガスが出る前に天號が見た光景のまま三人はピクリとも動かない。


「カカカッ愚か者共がぐっすりと眠っておるわ。」


 コンコンとガラスを叩き三人が動かないのを確認する。

 

「しかしこの高辻という男には『支配』の能力が相殺されておる。異能で操るのは無理そうじゃな・・。ならば小娘と黒い小僧を先に支配してから高辻を懐柔すれば良い事よ。」


 天號は静かに強化ガラスの前まで近寄るとガラスに手を伸ばし眠る美夏の精神を支配しようと能力を発動する。


「バーカ、誰も寝てないよ。」健太がむくりと起き上がる。


「お爺ちゃん来るの遅いからマジで寝ちゃったんだけどw」 


 美夏と高辻も順番に立ち上がる。


「どういう事じゃ!」天號は慌ててガラスから距離を取る。


 ゴキゴキと首の骨を鳴らし高辻が言う。


「天號、お前の負けだ。健太はパーフェクト・キーパーの能力を全開放してフル・パッケージに進化できる、防御に死角が無くなるのさ。」


「一日に一度だけなんだけどね・・・使った後は凄く疲れるんだ。」健太はふぅーっと溜息を吐く。


「もう少し遅かったら酸欠で死にそうだったけどねw」美夏が笑う。


「ふん、何も状況は変わっとらんぞ小僧共。その強化ガラスは貴様らでは割る事はできん。ならばもう一度眠らせれば良いだけじゃろうが…。」


 天號がポケットよりリモコンを取り出しガスを出すボタンを押そうとしたその瞬間、右足の太腿に痛みが走る。


「ぐわぁ!」突然脚から血が吹きだす。何かに斬られたようだ。


 天號は血が出る脚を庇いながら高辻達に怒号を浴びせる。


「貴様ーッ!この儂に何をした!どうやってそこから攻撃をしたんじゃ!」


 高辻と健太は無表情で天號を見ている。美夏はニヤニヤと笑みを浮かべナイフをクルクル回す。


「小娘ぇー!何をした!殺すぞぉぉぉぉぉぉ!!!」


 天號は青筋を立てて怒る怒る怒る!リモコンを再び操作してガスを出そうとするが次は左足の太腿に激痛が走った。


「ぎゃっ!!」床に突っ伏す天號。リモコンが床に転がる。


 床を這いずりながらもリモコンに手を伸ばす天號の指がリモコンに触れる瞬間右手の甲に突如ナイフが突き立った。


「ぐわぁぁぁぁ!痛い痛い痛い!」


 天號は左手でナイフを引き抜こうとするが床に刺さっているので抜くことが出来ない。


「悪かった、悪かったから助けてくれぇぇ・・誰かナイフを抜くんじゃぁぁ、儂の血が出てしまうじゃろぉぉ」


 天號は涙を流し高辻達に懇願する。先程までの威厳はどこかへ消えてしまったようだ。


「天號、俺達はガラスが有るからここから出られない、早く開けてくれないとあんた出血多量で死ぬよ?」


 高辻は腕時計を見ながら冷静に言う。


「みっともなーい。」美夏と健太があははと笑う。


「何故じゃ、何故攻撃できる・・儂は完璧にお主らの能力を封じた筈なのに・・何故じゃぁ・・・」


「天號、お前の敗因は俺達を三人だと思い込んでた事だよ。どうして俺達が目立つ格好でわざわざのんびりとここまで来たのか、少し考えればわからなかったか?」と高辻は言う。


「ホントの愚か者ってさ、あなたの事だと思うよ?因みに私の異能は『スナッチ』で『透明化』じゃないのよね。」  

 

 キャハッと美夏は可愛く笑う。


 美夏の異能『スナッチ』は半径2.5m内に居る任意の相手が手に持つ物を瞬時に奪う事が出来る。東京駅で高辻からスマホを奪い取って見せたのはこの能力を使用したからだ。


「ぐぅ・・だとすれば最初からここにもう一人おったという事か…」


 天號は観念したのかズリズリと左手をリモコンに伸ばす。今度はナイフが突き立つ事はなくホッとするが、左手だけでボタンを操作するのがぎこちない。


「あーぁ、残念ここまでか」


 うつ伏せの状態のままで天號がそう言い、リモコンを手放してしまった。表情はよく見えないが何やらブツブツ言っている。


 ガラスの中の高辻は危険を感じ大声で叫ぶ!


美冬(みふゆ)!早くリモコンを拾ってこっちへ来い!」


「みふゆぅぅぅりもこんんんんんんんぅぁぁぁぁぁぁぁ!」


 天號の様子がおかしい筋肉が異常に肥大化し髪の毛も逆立っている。右手にナイフを突き立てたままに天號はゆらり起き上がる。


「んがぁぁぁぁぁぁっぁっぁぁっぁぁあッガァァァァァァッツ!!!」


 ―!凄い声量だ、空気が震えているのが分かる、普段冷静な高辻でさえ足が震えた…。


 野獣と化した天號の側でリモコンを拾い上げようとする女性の姿が見え隠れしている。


「危ない美冬(みふゆ)姉ちゃん、避けて!!」


「みぃつけたぁ」天號がニンマリする。

「こぉろしちゃぁえばぁぁもとどぉぉりぃ」


 早い!既に人間が出せる動きを超えている。天號が丸太のような腕を横に凪ぐと美冬と呼ばれた女性は3メートル以上吹き飛んだ。


「ぎゃっ!」


 美冬は口から血を吹きだし床を何度も転がる。(すで)に透明化は解けてしまいその姿は完全に見えている。あばらが何本か折れたようで、立ち上がろうとしたら激痛が走った。


 しかし美冬は拾ったリモコンを手放す事はなくしっかりと握っていた。後は美夏達の側まで行ければ美夏のスナッチでリモコンを渡す事はできる、美冬は力を振り絞って透明になる。


(大丈夫、姿が見えなければ・・)


「キャハハ・・血が垂れてるよぉ、そこに居ますよねぇ」


 目は黒く染まり体中の膨れ上がる血管からは血がピュッピュと噴き出す天號は明らかに怪物に変貌している。あの状態で意識を保っていられるのだろうか?


 美冬は自分が流した血だまりを囮にして反対方向へと移動していた。ゆっくりゆっくり静かに美夏達の方へと近寄っていく。


 天號は血だまりのある場所でブンブンと腕を振り回しているが目的の美冬は既にそこには居ない。



「どぉこだぁぁかくれんぼでぇすぅか~ぁぁ〜。」キャッキャと笑う天號。


 スゥゥゥッと天號が大きく息を吸いこむと肺は異常に大きく膨れ上がる。


 やばい、さっきのアレが来る。美冬は痛みをこらえ立ち上がると走り出した。


「そこか。」天號は美冬の足音で判断したのか、凄まじい形相で追いかけてきた。


「ハァハァ、あと少し・・」ガラスの向こうで美夏が手を伸ばしている。


 美夏の位置まであと3mくらいのところで美冬は天號に捕まってしまう。


「ざぁんねーん、でぇしぃたぁw」天號はニンマリと笑い、ナイフが刺さったままの右手一本で軽々と美冬の髪を掴み持ち上げる。


「あ、あぁぁぁ」美冬は激しい痛みに耐えながらジタバタと天號を蹴るが鋼と化した天號の筋肉の前では全くの無力。


「美冬さん・・」健太がバンバンとガラスを叩く。


「おねぇちゃん、あと少しだよ頑張って。」美夏が泣いている。


 高辻は唇をギュッと噛みしめたまま天號を睨み続けている。



 天號は片手で美冬をぶら下げたまま後ずさりしていく。


「高辻さん、ずっと好きでした・・役に立てなくてごめんね。」


 美冬は両手で髪を掴んでいる天號の手を握ってなんとか耐えながらも言葉を口に出している。


「健太、美夏をお願いね、守ってあげて。美夏はちゃ・・」


「うるせぇぇーーーーーっ」天號はブンブンと美冬を振り回す。子供が人形を振り回すかのように美冬の身体が回転している。


 ブチブチッという音と共に髪が千切れると美冬は美夏達の方へ吹き飛ぶ。頭半分皮膚から千切れた美冬が美夏達の前に転がって来る。それでも諦めない美冬は這いずりながらも美夏達に近寄ろうとするが天號に足首を掴まれて引き寄せられてしまう。


 バンバンとガラスを叩き続ける健太の両拳は皮もめくれ骨が見えている。


「みふゆちゃんはなにをしたかったのぉぉ?これからあなた、ちぬのよぉ」


 天號は美冬の顔に近寄るとベロリと舐める。



 ドンッ!美冬は先程天號の甲から引き抜いておいたナイフをその左目に突き立てた。


「ぎゃぁぁ!?」天號は激しい痛みに美冬を手放して右目を抑える。


「よくもかぁためぇぇをぉぉ!見ぃえないぇぇ、ギャハぁはは。」


 天號は変な笑い声を上げながら美冬を探すが姿が見えない消えてしまった。


「とおめえいいかぁ!!」グゥガァァァァァァガァァァッァ!!

 

 天號が吠える!!


 空気が震えて透明化していた美冬の姿がチリチリと姿を現す。


 ニンマリと笑った天號はノシノシと美冬の位置まで来ると思いきり蹴り飛ばした。美冬はゴロゴロと転がるがその瞳は勝利を確信していた。立ち上がって手を伸ばせば届くかもしれない距離に皆がいるけど私はもう限界だよ、でも皆は諦めず必ず勝ってね、美冬は優しく微笑む。


 グシャ。嫌な音がする。天號は無慈悲にも美冬の顔を蹴り続けている。美冬は既に息絶えているだろう。


「あれぇ手首がねぇなぁ?」蹴りを続けていた天號は転がる美冬の左手首が無い事に気付く。手にはしっかりとリモコンを握っていた筈だが。


 キョロキョロとあたりを見回す天號。


 美冬が息絶え透明化が解けたので離れた位置で転がる手首も姿を現していた。その手にはしっかりとリモコンが握りしめられている。


「んー、りもこんんんどこぉぉ」


 天號はノシノシ歩いて行く。


「ちゃんと受け取ったよ、美冬姉ちゃん。」


 死を覚悟した美冬は透明化した時にリモコンを握る自分の左手首をナイフで切り落としていた。その左手を美夏達の方へ投げていたのだ。その間に痛みは全く感じなかった、大好きな皆が死ぬ事の方がもっと怖いから。寧ろ笑顔で自らの手首を切り落とす美冬であった。


 美夏は『スナッチ』を使用し自分の2.5m以内に突如現れた美冬の手の中からリモコンを奪い取った。そこに壁があろうと何があろうと問題ではない。美夏の能力は空間を超える。


 美夏は高辻にリモコンを渡すとナイフを構え戦闘態勢へと移る。隣に居る健太も怒りで肩を震わせているのを感じていた。


 高辻はリモコンを操作すると強化ガラスが上部へと開いていく。


「かぁてぇるかなぁぁ?」ニンマリと笑う天號。


 未だ天號は強化されたままでありその強さは尋常では無い。美冬の居ない高辻達三人だけでは苦労するだろう、しかし負ける訳にはいかないし負けるつもりなど毛頭考えてはいない。美冬が繋いでくれたこのチャンス命に賭けても天號を倒すと、静かに覚悟を決めた高辻達であった。



……………………………………………………



 天號が攻撃する・・健太が防ぐ・・高辻と美夏が交互に攻撃する・・かれこれ30分以上は戦っているだろうか、一度でも天號の攻撃を食らえば致命的なダメージは避けられない極度の緊張の中、両者共に動きが鈍くなって来ていた。高辻は天號と美冬が戦っている時からずっと観察を続けていたが腑に落ちない所がようやくわかって来た。怪物になった天號は自我を失うどころか性格が以前と変わっており、今までの冷静に立ち回る天號ではなく力任せにただ殴るだけの単調な攻撃を繰り返すだけの怪物になり下がっている。此処までは高辻の読み通り進んでいた。その証拠に美香も健太もノーダメージであり、力任せの天號の攻撃は健太によって全て跳ね返される為その拳は砕け指があらゆる方向へと向いている。血を流し過ぎたのだろう、天號は顔面蒼白で盛り上がっていた血管も今は無く足元はフラフラとして来ている。心なしか筋肉も小さくなった様だ。その隙を美夏が逃す筈が無く素早く天號の死角となる左側へ回り込むと開いた傷口の上から更にナイフを突き刺した。天號は反射的に左腕で美夏を薙ぐが少女はギリギリでそれを避ける。宙に浮く羽毛を振り払おうとすればするほど舞い上がる様に少女は紙一重でフワリと避け続ける。天號はガクリと膝を着き左手で刺さったナイフを引き抜くが手からナイフは消え美夏の手に戻る。美夏が走るのを片目で追いかける天號の死角となる右後方から高辻が迫る!天號は一瞬遅れて反応し右裏拳で高辻に合わせるが高辻は素早くスライディングしそれを避けた。高辻は狼の様な身のこなしで天號の正面に向き直ると同時に手を上げ叫ぶ!


「美夏!」


 高辻の手にはナイフが瞬時に握られている。全身の力を込めて高辻は天號の右目へとナイフを突き立てた。


 ブシュッとした柔らかい感触だけ残しナイフから手を離した高辻は、天號の胸を蹴り上げると空中で一回転をし後方へ間隔を取る。


 美夏と高辻は目を合わせてアイコンタクトをとる。これで立ち上がれば本物の化け物だ……。


 天號は蹲っていたがナイフを刺したままでニヤァと笑い立ち上がる。美夏と高辻が叫びながら走り出す!二人は人生で1番早く走っただろう勢いを付け天號へと同時に飛び蹴りを当てた。天號はよろめき後ろへ下がるが倒れない、高辻と美香は倒れたままで脚はもう動きそうもない。ドドドドッという音と共に背後ろから佐藤健太が走って来る。その姿は戦いの化身阿修羅が如く、高辻と美香の間を雄叫びを上げながら走り抜ける。


「グワァガァァァ!」何も見えない天號は真正面から突っ込んで来る健太の気配にタイミングを合わせ右左とパンチを繰り出す。威力は大分弱まっているが一発当たれば大怪我は免れないだろう。


「パーフェクト•キーパー!!」健太は異能を発動するとそのまま体当たりをした。



 天號はヨロヨロと後退しズドンと後ろに倒れ込む。健太は素早い身のこなしで天號に馬乗りになるとジタバタする天號の顔面に右左と連打で殴り続ける。健太は激しく泣きながら美冬を返せと叫んでいた。天號の顔は潰れ目鼻口も原型を止めてはいない。突如口だった穴から声にならない叫びを上げると上に乗る健太を跳ね飛ばして起きあがろうともがく。健太は脇腹を痛めた様子だがそれでも素早く後ろへ下がり距離を取った。



「よくやった健太、もういい後は任せろ。」


高辻がリモコンを操作すると強化ガラスがスッーと天井より降りてくる。天號は立ち上がろうとするが上手く立てずによろめく。這いずりながらも前進する天號が手を伸ばすとガシャンと天號の右手首に強化ガラスが降りてきた。ミシミシと音を立てながら閉じようとするガラスに腕を挟まれる天號はグァグヮとカエルのような声を出し腕を戻そうと必死で力を込めるが強化ガラスは無慈悲にもガシャンと音を鳴らし完全に締まるのであった。


 高辻は憐れむ目で変わり果てた天號と切断された手首を一瞥すると、ジャケットの内ポケットよりスマホを取り出し組織へ依頼の完了を報告し現状を概ね伝える。美夏と健太は倒れている美冬の元へと駆け寄ると泣きながら別れの挨拶を行っていた。高辻は三人の側に静かに歩むと着ていたジャケットを脱ぎそっと美冬に掛けるのであった。



……………………………………………………



 その頃屋上に設置されたプラネタリウム内では一人の女性がイカの燻製と缶ビールを飲みながらボヤいていた。


「ちっ天號のクソがやられやがって、使えねーな。あの馬鹿を使って裏から世界を支配する計画だったのになぁ。」


 ギャハハハと女は笑う。


「ま、次のおもちゃを探せば良い話よね。」


 女はクチャクチャと燻製を嚙みしめてからビールでゴクリと流し込む。


 プラネタリウム内はホテルの一室の様に改造されており、家庭で必要な物は全て揃っている。ダブルサイズのベッドが中央にあり、冷蔵庫やテレビにゲーム機、パソコンや漫画など様々な物が好き勝手に並んでいる。


 女は20代前半といった感じだが、髪は後ろで縛るだけで洒落っ気は皆無で陰気な様子が窺える。頭にはヘッドホンとマイクを付けデスクに座りモニターを見つめている。ここの従業員と同じ黒のスーツを着てはいるがワイシャツの胸元のボタンは外しブラジャーが見えている。手元の灰皿にはタバコの吸い殻が山の様に積まれており、良く見ると部屋にも食べ物のゴミや段ボールの空き箱など所狭しと転がり散らかっている。


 女はゲーミングチェアに座ってビールをゴクゴクと飲み干すとそのままポイッと後ろに投げ捨てる。デスクの上には大型モニタにサブモニタが二つ付いており、中央の大きな画面には捕えられて丸まっている天號、右のサブモニタには死んだ美冬を囲む高辻達、左のサブモニタにはソファに座り酒を飲む岸和田がそれぞれ映し出されている。


 女の名は【竹内裕未(たけうちゆみ)】と言いこのHelixTowerにある違法カジノで働く従業員で天號が教祖である天輪神響道の幹部である。表向きには天號のお気に入りの女の一人で天號の部屋にも何度も呼ばれる妾という『裏設定』であった。過去形なのは天號がしくじった事で八咫烏が直に出張ってくる。その前にここを脱出しなければならなくなったからである。


 竹内裕未は眼鏡を外すと胸ポケットにしまい急いで身支度をすませるとプラネタリウムの外に出る。扉の外は強風が吹き荒れ髪がバサバサと風に煽られる。非力な竹内では正面を向いて歩くのも困難なほどだ。HelixTowerの屋上はプライベート用のヘリポートになっていて緊急脱出用に用意していたヘリコプターが竹内が搭乗するのを今かと待っている状態であった。


 ローターによるダウンウォッシュで靡く髪を抑えながら何とか裕美はヘリコプターのドアを開けると中に飛び乗りパイロットに向かって声をかける。


「ふぅ、なんて日だ・・ここはもう捨てるから、埼玉の隠れ家まで全速力で行ってくれない?」


「かしこまりましたお嬢様。」パイロットは無表情で答える。


「ん、お嬢?」


 ヘリコプターの窓に映る自分の顔を見ながら裕美は髪を整えていたが、パイロットにお嬢と言われ一瞬ギョッとする。裕美がお嬢様と呼ばれていたのは小学生3年迄で、大金持ちだった両親の事業が次々と倒産してからは絵に描いたように転落の人生であった。幼かった裕美が人生のどん底を感じた時、少女には他人を『支配』する異能の力がある事に気付く。まだ幼かった裕美はその力を大人に利用される事を怖がり、誰もが操られている事に気付かない程度に静かに潜在意識の底でコントロールする方法を身に付けていったのだ。


 ヘリコプターは轟音と共に空へと舞い上がる。一気に空高く高度を上げるとヘリコプターは急速前進で飛び立つ。乱暴な運転に裕美は強い吐き気を感じパイロットの後頭部を殴りつける。


「何してんだテメーェ!気持ち悪くなるだろ馬鹿!もっとゆっくり飛べよ!!」

 

 竹内は怒りに任せパイロットの座席をガンガンと蹴りつける。


「お嬢様、お止めくださいませ。全速力で向かえと言われたのはご自身でございますよ。」


 パイロットは構わず凄い速度でヘリを飛ばしている。


 この男は確かな腕を持つベテランのパイロットで確か高額の金で天號が雇ったのを非常時の為に私が支配しておいた男だ。強い違和感を感じた裕美はパイロットに尋ねる。


「お前誰だ?いつものパイロットじゃねーだろ?」


 竹内がそう尋ねると、ヘルメットを被ったパイロットはそのまま首だけキシキシと音を立てて後ろを向く。


 ギョッとする裕美はその顔に見覚えがあった。天號の間のソファに腰かけ最後まで酒をくすねて飲んでいたあの岸和田だ。



「ギャー岸和田、なんでお前がここに居るの!」


 裕美は思わず飛び上がるが狭いヘリコプター内では逃げ場もない。


 岸和田は後ろを向いたままキシキシと変な笑い声をあげる。その首はほぼ180°回っているぞ?


「くっ幻覚か?」


 裕美は力いっぱい平手で岸和田の頬を叩くと、パイロットは雇った中年男性に戻り通常運航へと切替わる。


 この強烈な幻覚は天號の能力だった可能性を疑う。元々天號は幻覚を見せる異能の持ち主で、支配の異能は私の力だ。天號には自分が支配の力を持っているように思わせていたのだが、こちらもいつの間にか幻覚を仕掛けられていたのかもしれない。


 ドキドキと鼓動が早まる裕美は、呼吸を整える為スーハーと息を繰り返すが気配を感じふと視線を隣の座席に落とすとそこには一匹の黒猫が座っていた。


「キャァァァッ猫ぉー!」


 バタバタと暴れる裕美。


「猫嫌い、猫やだぁ~」


 手で追い払うようにバシバシ叩く。


 猫は座席の上で機敏に動き回っていたが動くのを止めるとキシャーと牙を剥く。

 

「どこから入って来たのよこの猫、先にここに居たのかな・・」


 ブツブツ言いながら裕美は追い払うのを諦めてなるべく猫に近寄らないように体をドアに付けて避けている。



「猫って昔から嫌いなのよね、人を見下したような目で見るしなんだか馬鹿にされてる気分になる。」


 ペッと唾を猫に向かって吐く竹内裕美はかなり素行が悪い。


 猫はひょいと唾を避けると人間の言葉で話し始めた。


「ねぇねぇ自分だけ逃げるの格好悪くない?卑怯じゃない?ずるくにゃい~?」


「何この猫しゃべるの!!?!」


 裕美は驚くが咄嗟(とっさ)に異能を発動する。


「出て来い、八咫烏!いるんだろ!」


 竹内は『ドミネーター』の能力を最大限に発揮し猫とパイロットにぶつけてみた。


パイロットは無言でヘリの操作を続ける。猫は欠伸をしながら話を続ける。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ムダのムダ使いにゃぁ~」


 竹内裕美の顔はみるみる内に青ざめていく。この猫の本体はここに居ない。恐らくこの猫は・・猫のような存在は思念で作られた存在であると考えられる。私の嫌いな猫に擬態しているのは恐らくそういう事だろう。


「君の能力は直接会って居ないと効果が無いからね僕には効かないからね。」と猫は言う。


 裕美はすぐさまヘリコプターを地上へ下ろすようにパイロットに命令を出すと猫にこれ以上近づくなと脅しをかける。


 猫は真っすぐに竹内を見つめると、突如額にヒビが入りミシミシと音を立てて第三の目が現れた。


 竹内裕美は恐怖から漏らしてしまい、座席はびっしょりと濡れている。


「人間の恐怖は美味、もっと恐怖を食べたい、もっともっともっとちょうだい、もっと美味しいのちょぉだぁぁい、恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖。」


 ガタガタと震える裕美に近づく黒猫の第三の目がメリメリと音を立てながら大きくなっていく。猫だった皮は捲れ裏返る。かつて猫だったものは完全な球体の瞳に変化した。


 空中に浮かぶ瞳は突如バクンと横に避ける。


 竹内はその都度ビクリと身体を硬直させるが逃げ場は無い。


 避けた瞳の中には真っ赤な舌と無数の牙が見え、涎がしたたり落ちている。ムクムクと膨れ上がる瞳は大きな口を開けて竹内裕美を飲み込もうとしていた。


「イタダキマス」


 がぶりと噛みつこうとした瞳にナイフを突き刺すパイロット。覆い被さりながら瞳に何度も何度もナイフを突き刺すとブシュッブシュッと血のような液体を撒き散らす瞳の怪物。


 返り血でドス黒く染まる竹内は恐怖で全く動けない。しかしパイロットを操り化け物を攻撃する事が出来たのは幸いだった。瞳の怪物は死んだのか力なく座席に横たわっている。


「良かった間に合った・・」


 ホッと安堵する裕美…。


 


……………………………………………………





 ―誰も操縦していないヘリコプターは高度を落とし目前の高層ビルへと真っすぐに突っ込んでいくのであった。





      ― 第二幕 ―


         完

第2幕 無事終了となりました。


※ここからはネタバレ注意です。


天輪神響道てんりんしんきょうどうの教祖・天號宗十郎てんごうそうじゅうろう

高辻、健太、美夏と美冬の能力者達の戦いをメインに書いています。


お互いの能力を使った駆け引きのバトルとなっていますので何度も読んで貰えたら嬉しいですね。


美冬の命を繋ぐシーンが見どころのひとつとなっていますがどうでしたでしょうか?

美冬に関しては外観などの細かい表現は控えております。読者の方が自由に理想の美冬像を想像してみてください。


岸和田総理も大好きなキャラなので今後も登場するかもしれません。(ドドン!)

(彼は最後まで自分が操られていると思ってて自己暗示にかかっていたらしいですよ)


最後に登場した隠しキャラが天號を操っていたのですが、岸和田がエレベータ内で出会っていましたよ。気付いた人は多分なにかの才能がありますね!


次回の第三幕で[AA]は完結となりますが投稿までに数か月はかかる予定です。


それではここまで読んでくださった皆様に感謝を込めてお礼を申し上げます。


「次回で最終回 期待せずに待て!!」




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